C,Arteriae(動脈)Arteries

 動脈は、血液を心臓から末梢に向かって、すなわち遠心的に送り出す管をいう。

一、肺循環の動脈
二、体循環の動脈
(一)Pars ascendens aortae((大動脈)上行部【上行大動脈】)Ascending aorta
(二)Arcus aortae(大動脈弓)Arch of aorta
三、Pars thoracica aortae((大動脈)胸部【胸(部)大動脈】)Thoracic aorta
四、Pars abdominalis aortae((大動脈)腹部【腹(部)大動脈】)Abdominal aorta
五、Arteria iliaca communis(総腸骨動脈)Common iliac artery

一、肺循環の動脈

 肺動脈幹は心臓から出るすべての血管のうち最も前方にあるもので(血液は静脈血)、右心室の動脈円錐から起こり、左上方に向い4-5cm走って第4胸椎の高さで大動脈弓の凹側に達し右肺動脈と左肺動脈とに分かれる。両動脈は肺門かわ気管支とともに走り、肺門に入る。右肺動脈は長く、右肺の上・中・下葉に入る3大枝に分岐し、左肺動脈は短く、左肺の上・下葉に入る2大枝に分岐する。
 左右の肺動脈に分岐する部には大動脈弓とのあいだに結合組織性の索があり、これを動脈管索という。動脈管索は動脈管(ボタロ管)の遺残で、胎生時に両血管の間に交通があったところである。

二、体循環の動脈

 体循環の動脈の主幹は1本である。これを大動脈aortaという。大動脈は左心室から出て、やや右前上方に進み、右第2胸肋関節の高さで左後方に進み、第4胸椎の高さにいたり、脊柱に沿い下行し、第12胸椎の前方で、横隔膜を貫いて腹腔に入り、第4腰椎の高さにおいて左右の総腸骨動脈に分岐する。

(一)Pars ascendens aortae((大動脈)上行部【上行大動脈】)Ascending aorta

 左心室から出て、右前上方に進み、右第2胸肋関節の高さで大動脈弓に移行する。上行大動脈の起始後ただちに冠状動脈を出す。

(二)Arcus aortae(大動脈弓)Arch of aorta

 上行大動脈につづき、上方に凸状の弧を画いて左後方に走り、第4胸椎の高さで下行大動脈につづく。
 大動脈弓の上凸面からは右から左に順に、腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈が出る。腕頭動脈brachiocephatic trunkは大動脈弓から出る最も大きな動脈幹で、長さ4-5cmあり、胸骨の後側で気管の前を右上方に走り、右胸鎖関節の後ろで右総頸動脈と右鎖骨下動脈とに分かれる。

1,Arteria carotis communis(総頚動脈)Common carotid artery 【(CCA)】

 総頸動脈は頭部に血液を導く動脈の主幹であり、右側では右胸鎖関節の高さで腕頭動脈から出る。左側のものは鎖骨下静脈のすぐ後ろで大動脈弓の最高部から出る。左右両側の総頸動脈はともに気管および食道の外側を垂直に上り、甲状軟骨の上縁の高さで、外頸動脈と内頸動脈とに分かれる。総頸動脈の外側には内頸静脈があり、両者の後側には迷走神経が走る。
 総頸動脈の分岐部には頸動脈小体と頸動脈洞がある。総頸動脈の分岐部と内頸動脈の始まりの部分は通常膨隆しており、頸動脈洞carotid glomusと呼ばれる。これは伸張受容器であり、血圧の調節に与かるといわれる。
 総頸動脈の分岐部の後側には米粒大の淡褐色の塊があり、頸動脈小体carotid sinusという。これは血液中の酸素と炭酸ガスの分圧の変化によって興奮し、反射的に呼吸を変化調節させる化学受容器である。

(1)Arteria carotis externa(外頚動脈)External carotid artery 【(ECA)】

 外頸動脈は総頸動脈から出て、内頸動脈の前内側から前外側へそれに沿って上行し、耳下腺を貫いて、下顎頸の高さにいたると顎動脈と浅側頭動脈の2終枝にわかれる。この間に次の枝を出す。

1」Arteria thyreoidea superior(上甲状腺動脈)Superior thyroid artery

 前下方に進み、甲状腺の上縁から腺内に分枝する。また上甲状腺動脈からは上喉頭動脈が分枝して、喉頭に向かう。

2」Arteria lingualis(舌動脈)Lingual artery

 上甲状腺動脈よりやや上方で起こり、舌骨舌筋の内側を進み、舌中に入るもので、舌、口蓋扁桃、舌下腺などに分布する。

3」Arteria facialis(顔面動脈)Facial artery

 舌動脈よりもやや上方で外頸動脈の前面から出て、顎下腺の上面を通り、下顎角で咬筋停止部の前に出る。顔面に出て、口角、鼻翼の外側を上がり、内眼角に達し、眼角動脈となる。顔面動脈は顎下腺、顔面および口蓋扁桃に分布する。

4」Arteria temporalis superficialis(浅側頭動脈)Superficial temporal artery 【(STA)】

  終枝の一つで、側頭部に分布する。

5」Arteria maxillaris(顎動脈)Maxillary artery

 下顎頸の後下側を通って翼口蓋窩に達する。外耳道、中耳、脳硬膜、頬部口蓋扁桃、歯および歯肉、咀嚼筋、鼻腔と口蓋部などに分布する。その中に脳硬膜に分布する中硬膜動脈は棘孔を通って頭蓋腔に入り、前・後の2枝すなわち前頭枝と頭頂枝とに分かれて、脳硬膜の大部分および頭蓋冠に分布する。

(2)Arteria carotis interna(内頚動脈)Internal carotid artery 【(ICA)】

 総頸動脈から起こり、垂直に上昇して、頭蓋底にいたり、側頭骨の頸動脈管内を進み頭蓋腔に入り、主に脳と視覚器に分布する。

2,Arteria subclavia(鎖骨下動脈)Subclavian artery

 鎖骨下動脈は主に上肢に分布する。右鎖骨下動脈は腕頭動脈より、左のものは大動脈弓より起こる。左側のものは右側のものよりもはるかに長い。左・右の鎖骨下動脈は胸膜頂の上を弓状となして外側方に走り、前斜角筋と中斜角筋との間(斜角筋隙)を通り、側方へ進み、第1肋骨の外側縁で腋窩動脈に移行する。鎖骨下動脈はその経過中に次の枝を出す。

(1)Arteria vertebralis(椎骨動脈)Vertebral artery 【(VA)】

 最大枝で、前斜角筋の内側を上行し、第6頸椎以上の横突孔の中を通り上行し、大後頭孔を経て、頭蓋腔に入る。両側の動脈が合して、脳底動脈となり、
 延髄・橋・小脳・大脳後部に分布する。

(2)Arteria thoracica interna(内胸動脈)Internal thoracic artery

 鎖骨下動脈の下凹側からほぼ直角をなして起こり、前胸壁の後面で胸骨外側縁のやや外方を下る。前胸壁、心膜、横隔膜に分布する。第6肋軟骨の所で筋横隔動脈と上腹壁動脈とに分かれる。上腹壁動脈は横隔膜を貫いて、腹直筋の後面に沿って下降し、下腹壁動脈と重要な吻合を営み、腹直筋と腹膜などを養う。

3,Truncus thyrocervicalis(甲状頚動脈)Thyrocervical trunk

 短い動脈幹で、前斜角筋の内側から出て、数枝に分かれる。主なものは:

(1)A.thyroidea inferior(下甲状腺動脈)Inferior thyroid artery

 始め上行し、第6頸椎の横突起の所で、内側にまがり、甲状腺にいたる。甲状腺の他に喉頭、咽頭、食道上部などに分布する。

(2)A.suprascapularis(肩甲上動脈)Suprascapular artery

 鎖骨の後を外走し、肩甲切痕のところで肩甲骨の上縁から背面にまわり、肩甲回旋動脈と吻合している。棘上筋、棘下筋に分布する。

4,Arteriae membri superioris(上肢の動脈)Arteries of the upper limb

(1)Arteria axillaris(腋窩動脈)Axillary artery

 第1肋骨の外側縁で鎖骨下動脈に続き、腋窩を通して、大円筋と広背筋の下縁で、上腕動脈に移行する。腋窩動脈は次の枝を出す。

1」A.thoraco-acromialis(胸肩峰動脈)Thoracoacromial artery

 小胸筋の上縁で腋窩動脈から起こり、三角筋、大小胸筋および肩関節などに分布する。

2」A.thoracica lateralis(外側胸動脈)Lateral thoracic artery

 小胸筋の下縁に沿って走り、大小胸筋、前鋸筋および乳房に分布する。

3」A.subscapularis(肩甲下動脈)Subscapular artery

 肩甲下筋の下縁の所で腋窩動脈から起こり、後方に走り、胸背動脈と肩甲回旋動脈に分かれる。胸背動脈は胸背神経とともに前鋸筋と広背筋に分布する。肩甲回旋動脈は内側腋窩裂を通って後方に走り、棘下窩にいたり、周囲の筋に分布する。
4」A.circumflexa posterior humeri(後上腕回旋動脈)Posterior circumflex humeral artery
腋窩神経とともに外側腋窩裂を通って、三角筋、肩関節に分布する。

(2)Arteria brachialis(上腕動脈)Brachial artery

 腋窩動脈に続き、上腕二頭筋の内側を下る。肘窩では橈骨動脈と尺骨動脈に分かれる。
1」A.profunda brachii(上腕深動脈)Profunda brachii artery
 橈骨神経とともに上腕三頭筋内側頭と外側頭との間を外下方に下行し、その間に上腕三頭筋と上腕筋に分枝し、終枝は肘関節動脈網に終わる。

2」A.collateralis ulnaris superior(上尺側側副動脈)Superior ulnar collateral artery

上腕深動脈とほぼ同じ高さで上腕動脈の内側から出て、尺骨神経とともに内側上腕筋間中隔の後側を通り、上腕筋および上腕三頭筋に分枝した後、肘関節動脈網に加わる。

3」A.collateralis ulnaris inferior(下尺側側副動脈)Inferior ulnar collateral artery

上腕骨内側上顆の上で上腕動脈から出て、内側上腕筋間中隔を貫き付近の筋に分枝した後に肘関節動脈網に加わる。

(3)Arteria radialis(橈骨動脈)Radial artery

 橈骨と平行して、橈側手根屈筋の外側を下る。橈骨茎状突起の下で、長母指外転筋および短母指伸筋の腱の下を通って手背に出て、次いで第1背側骨間筋の2頭の間を通って手掌に現れ、ここで母指主動脈を分枝し、終枝が尺骨動脈の深掌枝と結合して、深掌動脈弓を作る。橈骨動脈は前腕の下方では橈骨手根屈筋の腱との間で、皮下の近くで浅筋膜だけに覆われるので、その手根部は脈拍を触れるのに最も適している。
 橈骨動脈は前腕の外側の諸筋を養った後、次の枝を出す。

1」Ramus palmaris superficialis(浅掌枝)Superficial palmar branch

 細枝で、橈骨動脈が手背にまがる前で起こり、母指球の表面を走り、尺骨動脈の終枝と結合して浅掌動脈弓を作る。

2」A.princeps pollicis(母指主動脈)Princeps pollicis artery

 母指球の下で3枝に分かれ、母指掌側の両側縁および示指の橈側縁を養う。

(4)Arteria ulnaris(尺骨動脈)Ulnar artery

 上腕動脈の2終枝の一つで、円回内筋の深部を通って、尺側手根屈筋の腱と浅指屈筋腱の間を下行し、頭状骨の外側を通り、手掌に達し、末端は橈骨動脈の浅掌枝と合して、浅掌動脈弓を作る。
 尺骨動脈は前腕内側の諸筋を養った後、つぎの枝も出す。

1」A.interossea communis(総骨間動脈)Common interosseous artery

 橈骨粗面の高さで尺骨動脈から出て、深指屈筋と長母指屈筋の間を通り、前腕骨間膜上に達し、前後の2枝、すなわち後骨間動脈と前骨間動脈の2枝に分かれる。それぞれ前腕の背側諸筋、掌側諸筋および橈骨・尺骨を養う。前・後骨間動脈は枝を出し、背側手根動脈網に送る。

2」Ramus palmaris profundus(深掌枝)Deep palmar branch

 豆状骨の近い部で起こり、小指球筋内に深く進み、橈骨動脈の深掌動脈弓と結合して、深掌動脈弓を作る。

(5)浅・深掌動脈弓

1」Arcus palmaris superficialis(浅掌動脈弓)Superficial palmar arch

 尺骨動脈の大きな終枝と橈骨動脈の小さな浅掌枝との結合によって作られ、浅く手掌腱膜の下を橈側方に弓状をなして走る。浅掌動脈弓の凸側からは3本の総掌側指動脈が起こり、第2ないし第4中手骨間隙を通って前進し、中手指関節の所で各2本の固有掌側指動脈に分かれる。これらの末梢は掌側面で第2ないし第2指の相対向する面を養う。

2」Arcus palmaris profundus(深掌動脈弓)Deep palmar arch

 橈骨動脈の大きな終枝と尺骨動脈の小さな深掌枝との結合によって作られ、深く中手骨底の掌側に位置し、弓状をなす。その凸側から3本の掌側中手動脈を出し、第2ないし第4中手骨間隙を進んで総掌側指動脈の分岐の所でこれに加わる。

三、Pars thoracica aortae((大動脈)胸部【胸(部)大動脈】)Thoracic aorta

 胸大動脈は第4胸椎体の高さで大動脈弓につづいて起こり、最初脊柱の左側、下方から脊柱の前面を走り、第12胸椎の高さで横隔膜の大動脈裂孔を通って腹大動脈に移行する。 胸大動脈から出る枝を胸壁にいたる壁側枝と胸部内臓にいたる臓側枝に区別する。

1,壁側枝

 主に肋間動脈で9対(第3-11)あってなお、最下位の第12肋骨下のものを肋下動脈という。肋間動脈と肋下動脈は胸大動脈の後壁から起こり外側方へ横走して肋間隙に入る。脊髄、背筋および背部皮膚に枝を出したのち、固有動脈幹は肋骨溝に沿って走り、第3肋骨以下の胸壁と腹壁に分布する。

2,臓側枝

 小枝で、気管支動脈・食道動脈、心膜枝などの枝を出し、気管・気管枝・食道および心膜を養う。

四、Pars abdominalis aortae((大動脈)腹部【腹(部)大動脈】)Abdominal aorta

 腹大動脈は下行大動脈の腹腔内にある部で、胸大動脈の続きとして横隔膜大動脈裂孔に始まり、脊椎前面を走り、第4腰椎にいたり左右の総腸骨動脈を分枝する。腹大動脈の右側に下大静脈があり、前方に膵臓、十二指腸下部、腸間膜根がある。
 腹大動脈の枝を壁側枝と臓側枝とに区別する。壁側枝より臓側枝の方が太い。

1,壁側枝

(1)Arteria phrenica inferior(下横隔動脈)Inferior phrenic artery

 対称性にあって、横隔膜の下面に分布し、また副腎に上副腎動脈を与える。

(2)Arteriae lumbales(腰動脈)Lumbar arteries

 通常4対あって、脊髄および被膜、腰筋、腹筋にいたる。

(3)Arteria sacralis mediana(正中仙骨動脈)Median sacral artery

2,臓側枝

 A」有対枝

(1)Arteria suprarenalis [adrenalis] media(中副腎[腎上体]動脈)Middle suprarenal artery

 副腎にいたり、副腎中では下横隔動脈および腎動脈から来る上副腎動脈および下副腎動脈と交通する。

(2)Arteria renalis(腎動脈)Renal artery

 第2腰椎の高さで、腹大動脈から起こり、両側方へ直角に走り、腎臓にいたる。腎門の前で多数の枝(4-7本)に分かれて、腎実質に入り、また1本あるいは数枝を副腎に送り、これを下副腎動脈という。

(3)Arteria testicularis(精巣動脈)Testicular arteryまたはArteria ovarica(卵巣動脈)Ovarian artery

 腎動脈の下で腹大動脈から出るが、細長く、大腰筋の前を下外側方に進み、精索にいたる。女ではこれに相当する血管を卵巣動脈といい、卵巣提索を通って、卵巣と卵管膨大に分布する。

 B」不対枝

(4)Truncus coeliacus(腹腔動脈)Celiac trunk

 短い動脈幹で、第12胸椎の高さで起こり、ただちに左胃動脈、総肝動脈および脾動脈の3枝に三叉状をなして分かれる。

1」A.gastrica sinistra(左胃動脈)Left gastric artery

 細く、まず左上方に走って、胃の噴門にいたり、そこから小弯に沿って右下方へ反転して走り、右胃動脈と吻合し、胃小弯付近の前後壁に分布する。左胃動脈はまた枝を噴門および食道に送る。

2」A.hepatica communis(総肝動脈)Common hepatic artery

 本幹は短く、膵臓の上縁に沿って、右方に進み、固有肝動脈および胃十二指腸動脈の2枝に分かれる。

 A,A.gastroduodenalis(胃十二指腸動脈)Gastroduodenal artery

 十二指腸上部の後ろを下方に進み、胃の幽門部の下縁で上膵十二指腸動脈と右胃大網動脈に分かれる。右胃大網動脈は大弯に沿って左方に走り、脾動脈から出る左胃大網動脈と吻合し、枝を大網と胃に送る。上膵十二指腸動脈は十二指腸下行部と膵頭の間を走り、枝を十二指腸と膵頭に送る。

B,A.hepatica propria(固有肝動脈)Hepatic artery proper

 右上方にまがり、門脈の前、総胆管の左に沿って、肝十二指腸間膜中を通り、肝門にいたり、ここで分岐して、右枝と左枝となり、肝臓の両葉にいたる。右枝の1枝である胆嚢動脈は胆嚢三角(calot三角)を通って、胆嚢に達する。
 また右胃動脈も固有肝動脈から出て、下行し、幽門部の上縁で小弯に沿って左方に走り、左胃動脈と吻合して小弯および幽門部に分布する。

3」A.splenica [lienalis](脾動脈)Splenic (Lienal) artery

 三枝の中で最も太い枝で、胃の後ろで膵臓の上縁に沿ってうねりながら、水平に左方に進み、脾門の近くで筆毛状に6-12枝に分かれ、脾実質内に入る。その間、多数の小枝を膵臓に送る。また、短胃動脈と左胃大網動脈を出す。短胃動脈は3-4枝で、胃底に分布し、左胃大網動脈は大弯に沿って右方に走り、右胃大網動脈と吻合して、大弯および大網を養う。

(5)Arteria mesenterica superior(上腸間膜動脈)Superior mesenteric artery

 腹腔動脈よりもやや下方の第一腰椎の高さで腹大動脈から起こり、膵頭と体の移行部の後ろを下行し、十二指腸下部の前を通って、腸間膜根に現れ、弓状をなして、右腸骨窩にいたる。上腸間膜動脈の末端は小腸下端および盲腸に分布する。上腸間膜動脈は次の枝を出す:

1」Aa.jejunales(空腸動脈)Jejunal branchesおよびAa.ileales(回腸動脈)Ileal branches

 15-20枝あり、上腸間膜動脈の左凸側から起こり、腸間膜の2葉間を走り、空腸および回腸に分布する。

2」A.ilecolica(回結腸動脈)Ileocolic artery

 上腸間膜の右凹側から起こり、回腸の末端、盲腸および上行結腸の初部を養う。また、1枝の虫垂動脈を出し、虫垂間膜を通って虫垂に分布する。

3」A.colica dextra(右結腸動脈)Right colic artery

 回結腸動脈の上方で右側から出て、右方に横走し、上行結腸にいたる。末梢部で、下行枝は回結腸動脈と、上行枝は中結腸動脈と吻合する。

4」A.colica media(中結腸動脈)Middle colic artery

 膵臓の下縁の高さで起こり、横行結腸を養う。また右結腸動脈と左結腸動脈と吻合する。

(6)Arteria mesentrica inferior(下腸間膜動脈)Inferior mesenteric artery

 第3腰椎の高さで腹大動脈から起こり、左下方に走り、結腸間膜に入って、次の3枝に分かれる。

1」A.colica sinistra(左結腸動脈)Left colic artery

 下行結腸にいたり、まもなく上行および下行の2枝に分かれ、上行枝は中結腸動脈と吻合し、下行枝はS状結腸動脈の枝と吻合する。

2」Aa.sigmoideae(S状結腸動脈)Sigmoid arteries

 2-3枝であって、左下方へ進み、S状結腸間膜に入り、付近の血管と弓をなして吻合し、S状結腸に分布する。

3」A.rectalis superior(上直腸動脈)Superior rectal artery

 下腸間膜動脈の終枝で、S状結腸間膜の2葉間を下降し、直腸上端の後方で、2枝に分かれ、直腸の両側方に沿って下行し、枝を直腸に送る。また、直腸の表面で下直腸動脈と吻合する。

五、Arteria iliaca communis(総腸骨動脈)Common iliac artery

 総腸骨動脈は、第4腰椎の下端で腹大動脈から起こり、大腰筋の内側縁に沿って外側方に下行し、仙腸関節の前にいたって、内腸骨動脈と外腸骨動脈の2枝に分かれる。

1,Arteria iliaca interna(内腸骨動脈)Internal iliac artery

 短く、太い枝で、小骨盤腔に入り、壁側枝と臓側枝を分枝する。

(1)壁側枝

1」Arteria obturatoria(閉鎖動脈)Obturator artery

 閉鎖管を通って骨盤を出て、大腿内側にいたり、付近の諸筋および股関節を養う。閉鎖動脈は閉鎖管に入る前で、恥骨枝を出し、裂孔靱帯で下腹壁動脈から出る恥骨枝と吻合する。

2」Arteria glutealis superior(上殿[臀]動脈)Superior gluteal arteryおよびArteria glutealis inferior(下殿[臀]動脈)Inferior gluteal artery

 それぞれ梨状筋上孔と梨状筋下孔を通って大坐骨孔を出て、殿部に分布する。

(2)臓側枝

1)Arteria umbilicalis(臍動脈)Umbilical artery

 内腸骨動脈から起こり内下方に進み、末端は閉鎖して、臍動脈索となり、ただその始部のみが上膀胱動脈として膀胱の上部および中部に分布する。

2)Arteria vesicali inferior(下膀胱動脈)Inferior vesical artery

 臍動脈のやや下方から出て、正中方向に進み膀胱底、前立腺および精嚢にいたる。女では膣の上部に走る。

3)A.rectalis inferior(下直腸動脈)Inferior rectal artery

 細い枝で直腸の末端に分布する。男では精嚢および前立腺に枝を送る。女では膣に枝を送る。

4)Arteria uterina(子宮動脈)Uterine artery

 子宮広間膜のなかを正中前方に進み、子宮頸の外側2cmの所で尿管の前面を通って子宮にいたる。子宮頸で膣動脈を出し、膣にいたる。本幹は強くうねった多数の枝に分かれて子宮、卵管、卵巣に分布する。

5)Arteria pudenda interna(内陰部動脈)Internal pudendal artery

 下殿動脈の前面を下行し、梨状筋下孔を通り、骨盤外に出る。次いで仙棘靱帯をまわり小坐骨孔を通って再び骨盤中に入り、坐骨直腸窩にいたり、肛門、会陰および外生殖器に分布する。

2,Arteria iliaca externa(外腸骨動脈)External iliac artery

 大腰筋の内側を前外走し、鼡径靱帯の下で血管裂孔を出て、大腿動脈となる。鼡径靱帯の上方で下腹壁動脈を出す。下腹壁動脈は前腹壁の後面で深鼡径輪の内側を通って、内上方へ走り、腹直筋鞘の中に入り、腹直筋に分布し、上腹壁動脈と吻合する。

3,Arteriae membri inferioris(下肢の動脈)Arteries of lower limb

(1)Arteria femoralis(大腿動脈)Femoral artery

 外腸骨動脈に続く動脈幹で大腿三角を通って、内転筋管に入り、上部は大腿の前上部にあって、下部は大腿の内側にあって、その下端は膝関節の後方で内転筋腱裂孔を出て膝窩動脈となる。
 大腿動脈の主な枝は大腿深動脈である。
 大腿深動脈:鼡径靱帯の下方2-5cmの所で大腿動脈の外側から起こり、深部に入り、内側大腿回旋動脈、外側大腿回旋動脈および貫通動脈に分かれる。内側大腿回旋動脈は恥骨筋と腸腰筋の間を後内側方に走り、近くの諸筋および股関節に分布する。外側大腿回旋動脈は外側方に走り、多数の枝を出して大腿の前面の諸筋と膝関節に分布する。貫通動脈は通常3動脈を数える。これらの3動脈は順次に大腿内転筋の共同の腱を貫通して、大腿の後側に達し、大腿内側諸筋、後側諸筋および大腿骨(栄養管に入る)を養う。

(2)Arteria poplitea(膝窩動脈)Popliteal artery

 大腿動脈に続き、膝窩の正中を下行し、ひらめ筋腱弓の下に達し、ここで2終枝すなわち前脛骨動脈と後脛骨動脈とに分かれる。また膝窩内で多数の関節枝を出して、膝関節動脈網に与え、筋枝を近くの筋肉に送る。

(3)Arteria tibialis posterior(後脛骨動脈)Posterior tibial artery

 膝窩動脈の2終枝の一つで、下腿後側筋の浅・深両層の間を下行して、内果の後方を通って足底に出て、内側足底動脈と外側足底動脈の2枝に分かれる。後脛骨動脈はつぎの枝を出す。

1)Arteria fibularis(腓骨動脈)Peroneal (Fibular) artery

 後脛骨動脈の上部から起こり、腓骨の内側に沿って下行し、脛骨、腓骨および近くの筋肉に枝を出す。

2)Arteria plantaris medialis(内側足底動脈)Medial plantar artery

 後脛骨動脈の2終枝の一つで、同名神経とともに主に足の内側縁に分布する。

3)Arteria plantaris lateralis(外側足底動脈)Lateral plantar artery

 後脛骨動脈の2終枝の一つで、同名神経とともに主に足の外側縁と各趾に分布する。

(4)Arteria tibialis anterior(前脛骨動脈)Anterior tibial artery

 膝窩動脈の2終枝の一つで、下腿骨間膜の上縁を貫いて前方に出て、下腿前側筋の間を下行して、足背に出て、足背動脈に続く。前脛骨動脈は下腿前側筋を養う。また枝を出し、膝関節動脈網を助成する。

(5)Arteria dorsalis pedis(足背動脈)Arteria dorsalis pedis

 長母趾伸筋および短母趾伸筋の腱の間を走り、第1中足骨間隙の基部に達し、ここで足背枝および足底枝の2終に分かれる。足底枝は第1中足骨間隙の基底部を通じて足底に出て、足底動脈弓と結合する。

最終更新日:2010年12月20日