主として筋板から生ずる。筋板には各体節に属する筋節に分かれている。椎骨は同じく分節状の椎板から生ずるが、一つの椎節の下半と次の椎節の上半が合して一つの椎骨の原基となる。したがって一つの筋節は二つの椎骨原基にまたがる形となる。神経は椎間からこれに入り、各筋節がその筋神経を受ける形となる。これが体幹背側筋の原基である。体幹とくにその背側部は脊椎動物の原型と考えられる分節構造をもっともよく残している部分であって、この形式の筋発生がもっと基本的な型と考えられる。
一、Musculi dorsi(背部の筋)Dorsal muscles
後頭部から尾骨まで頸胸腹部の背面に長くひろがっている筋群で、これはさらに浅背筋群と深背筋群とに分けられる。
(一)M. trapezius(僧帽筋)Trapezius muscle
上項線・外後頭隆起・項靱帯・第7頸椎以下全胸椎の棘突起から起こり、上部の筋束は斜めに外下方に、中央部は殆ど水平に、下部は斜めに外上方へ走って、筋束は集中して肩甲棘・肩峰および鎖骨の外側の1/3の部分に着く。
この筋の上部は肩甲骨と鎖骨の肩峰端を上内方に挙げ、中部は肩甲骨を内側に引き、下部は肩甲骨を内下方に引き下げると同時にその下角を外側に回す。もし肩甲骨は固定すれば、片側が収縮すると頸は同側に曲げられ、顔面は対側に向け、両側同時に収縮すると頭が仰向けになる。
(二)M. latissimus dorsi(広背筋)Latissimus dorsi muscle
上部は僧帽筋によって被われる。下位6つの胸椎の棘突起・腰椎の棘突起・正中仙骨稜・および腸骨稜から起こり、筋束は外上方へ集中して扁平な腱で上腕骨の結節間溝底に着く。
上腕を内転し、さらに後内方に引く。また多少内旋する。上肢を固定したとき、体を上に引き上げる。
(三)M. levator scapulae(肩甲拳筋)Levator scapulae muscle
後方で僧帽筋、側方で胸鎖乳頭筋に被われ、第1-4頸椎の横突起から起こり、外下方へ肩甲骨上角に着く。
肩甲骨を上内方に引く。この時下角が内側に回る。
(四)M. rhomboideu(菱形筋)Rhomboideu muscle
僧帽筋に被われる薄い菱形の筋である。第6・7頸椎と第1-4胸椎の棘突起、項靱帯、棘上靱帯から起こり、筋束は平行して斜めに外下方はしる肩甲骨の内側縁(上部を除く)に着く。
肩甲骨を内側に引く。
(五)Musculus erector spinae(脊柱起立筋)Erector muscle of spine
背部のもっとも長く、もっとも大きな筋で、上の筋の深部にあって、脊柱両側を縦走している。仙骨の後面と腸骨稜の後部から起こり、椎骨・肋骨に着くとともに側頭骨の乳様突起にいたる。
脊柱を反らせると頭を仰がせる。
脊柱直立筋の深部に短筋があって、相隣の椎骨あるいは数個の椎骨の間にある。椎骨の連結を強め、脊柱を円滑に運動させる。
Fascia thoracolumbalis(胸腰筋膜)Thoracolumbar fascia
脊柱直立筋を包み、浅層と深層とに分かれる。浅層は脊柱直立筋の表面にあり、内側へ棘突起に付着し、腰部では著しく厚くなって広背筋の腱膜とかたく結合している。深層は脊柱直立筋と腰方形筋を隔てて第12肋骨と腸骨稜の間にあり、内側へは腰椎横突起に付着し、外側へは脊柱直立筋の外側縁で浅層と結び合って脊柱直立筋鞘となる。内腹斜筋と外腹斜筋の起始部にもなる。
二、Musculi colli [Cervicis](頚部の筋)Neck muscles
頸椎の外側と前とにある筋群で、それをさらに浅頸筋・舌骨上筋・舌骨下筋群と深頸筋に分ける。N.Aでは、広頸筋、胸鎖乳突筋、頚長筋
(一) 浅頸筋 superficial cervical muscles
1,Platysma(広頚筋)Platysma
頸部の浅筋膜の中にある薄くて広い皮筋である。大胸筋と三角筋表面の筋膜から起こり、上方に向かい口角に着く。
口角を下方に引き、頸部の皮膚にシワを作る。
2,M. sternocleidomastoideus(胸鎖乳突筋)Sternocleidomastoid muscle
頸部の両側にあり、大部分は広頸筋に被われ、大変強い筋である。胸骨柄前面と鎖骨の胸骨端から起こり、斜めに後上方へ向かい側頭骨の乳様突起に着く。片側が収縮すると頭が同側に曲がり、顔面を対側に向け、両側が同時に収縮すると頭が仰向けになる。
1,Musculi suprahyoidei(舌骨上筋)Suprahyoid muscles
舌骨と頭蓋との間に張っている筋群で、口底を作っている。舌骨上筋には、系統の異なる種々の筋が含まれている。
(1)M. digastricus(顎二腹筋)Digastric muscle
起始は前腹と後腹の二腹からなる。後腹は乳突切痕から起こり、前下方において、舌骨小角の付近で線維性の滑車で舌骨体に指示され、中間腱を介して前腹につづき、上前内方に向かい、下顎骨前部後面の二腹筋窩に停止する。後腹は顔面神経の顎二腹筋枝、前腹は三叉神経第3枝下顎神経の枝である下歯槽神経から分かれる顎舌骨筋神経が支配し、下顎骨が固定されているときは舌骨を引き上げ、舌骨が固定されているときは、下顎骨を引き下げ口を開ける。また、1,後腹の一部、または前部が茎状突起から起こることがある。2、中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋と小さな筋束によって結合することがある。3、前腹が重複したり、前腹から余分な筋束が分かれて、中間腱以外の部や顎舌骨筋に達していることがある。4、前腹が他側のものと交叉することがある。5、前腹が欠如することがあって、後腹が下顎骨の正中部に停止したり、舌骨に停止することがある。6、中間腱が、茎突舌骨筋の前にあったり、稀に後ろにあることがある。
(2)M. mylogyoideus(顎舌骨筋)Mylohyoid muscle
顎二腹筋前腹に接して、その深層にある扁平な三角形の筋で、反対側の筋と共に口腔の筋性の底をつくる。起始は下顎骨体内面の顎舌骨筋線から起こる、筋束は下方に向かい、停止は舌骨体と正中にある顎舌骨筋放線につく、縫線はオトガイ棘と舌骨体前部中央にある線維性の組織。三叉神経第3枝下顎神経の枝で、下歯槽神経から分かれた顎舌骨筋神経が支配する。舌骨を引き上げる、舌骨が固定するときは化学を引き下げる。また、1、顎二腹筋前腹と融合することがある。2、他の舌骨筋と連絡することがある。3、欠如することがある。4、前後の各部に分かれ、その間に顎下腺が進入することがある。
(3)M. stylogyideus(茎突舌骨筋)Stylohyoid muscle
起始は顎二腹筋後腹の基部に近い後外側面から起こり、舌骨体の大角の基部側縁につく。停止部は二尖に分かれ、顎二腹筋の中間腱を挟んでいる。顔面神経の茎突舌骨筋枝が支配し、舌骨を後上方に引く。また、1、全て欠如することがある。2、顎二腹筋後腹と結合することがある。3、肩甲舌骨筋、甲状舌骨筋または顎舌骨筋と連絡することがある。
(4)M. geniohyoideus(オトガイ舌骨筋)Geniohyoid muscle
顎舌骨筋の深部にある幅の狭い筋で、左右のものが正中線で接触している。起始は下顎骨正中部後面にあるオトガイ棘から起こり、舌骨体の上面に停止する。舌下神経の枝C1,C2が支配し、舌骨を引き上げる。舌骨固定されるときは下顎骨を引き下げる。また、1、左右の両側の筋の融合することがある。2、外側部の筋束が舌骨大角に付着することがある。
2,Mm. infrahyoidei(舌骨下筋)Infrahyoid muscles
舌骨と甲状軟骨・胸骨・肩甲骨との間に張っている扁平で細長い筋群である。
(1)M. sternohyoideus(胸骨舌骨筋)Sternohyoid muscle
起始は胸骨柄、胸鎖関節、鎖骨胸骨端の各後面から起こり上内方に向かう薄い長方形の帯状の筋であり舌骨体の前下縁に停止する。舌下神経ワナを通じてくる頸神経1~4が支配し舌骨を下方に引く。また、1、両側の筋が一部または全部融着することがある。2、腱画を認めることがある。3、鎖骨から起こる筋が独立することがある(鎖骨舌骨筋)。4、欠如することがある。
(2)M. omohyoideus(肩甲舌骨筋)Omohyoid muscle
起始は2つの筋腹をもつ細い筋で、下腹と上腹を区別する。下腹は肩甲骨上縁と上肩甲横靱帯から起こり斜めに上内方に向かい、細くなって中間腱につづく上腹は、中間腱から起こり、斜めに上内方に上り舌骨体の前下面に付着する。中間腱は前面から脛筋膜(気管前葉といわれる)に被われ、これと付着して固定される。頸神経ワナ通じてくる頸神経1~4。上腹と下腹は別の神経枝が分布し、舌骨を下方に引く。
(3)M. sternothyreoideus(胸骨甲状筋)Sternothyroid muslce
起始は胸骨舌骨筋の深部にあって、胸骨柄の後面、第1肋軟骨の内側端から起こり甲状腺を被って上方に向かい甲状軟骨の斜線につく。頸神経ワナ(第1、2、3、4頸神経の線維を含む)が支配し甲状軟骨下方に引く。また、1、両側筋が一部または全部癒着することがある。2、下部に腱画をみることがある。3、甲状舌骨筋と連絡することがある。
(4)M. thyreohyoideus(甲状舌骨筋)Thyrohyoid muscle
胸骨甲状筋の上方にあり、胸骨舌骨筋に被われる。
起始が胸骨甲状筋につづいて甲状軟骨の斜線からおこり上方に向い舌骨体外側部と大角の下縁に停止する。舌骨上筋は舌骨下筋と協力して口を開ける時に働く。このとき、舌骨下筋が舌骨を固定し、舌骨上筋が下顎骨を引き下げるのである。また嚥下の時や、高い声をだす時などに舌骨と喉頭が上がるのは、舌骨上筋と甲状舌骨筋の働きによる。このとき下顎骨は咀嚼筋によって固定される。舌下神経の甲状舌骨筋枝(第1、2、頸神経)が支配する。
椎骨外側部の筋と椎前筋に分ける(N.Aではこのような分け方はしていない)。
1,椎骨外側部の筋 Lateral vertebral muscles
頸椎の側面にある縦走筋群で、前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋がある。これらは頸椎の横突起から起こり、前・中斜角筋は第1肋骨に後斜角筋は第2肋骨に着く。前斜角筋と中斜角筋との間には第1肋骨の上縁を底とする三角形の斜角筋間隙があり、腕神経叢の根と鎖骨下動脈がそこを通る。
片側が収縮すると頸は同側に曲がり、両側が同時に収縮すると第1と第2肋骨を引き上げ、深呼吸を助ける。肋骨を固定すれば頸を前に曲げる。
2,Mm. prevertebrales(椎前筋)Prevertebral muscles
頸部脊柱の前面に接して上下に走る細長い筋の一群である。椎前筋に属するものに、前頭直筋、頭長筋と頸長筋(斜角筋もこれに含めることがある)などがある。N.A.では外側頭直筋は頭部の筋に入れる。頭関節と頸椎の運動に預かる。
三、Musculi thoracis(胸部の筋)Muscles of thorax
胸部の筋は浅胸筋と深胸筋に分けることができる。
1.浅胸筋(胸部の上肢筋):大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋、前鋸筋
2.深胸筋(固有胸筋):外肋間筋、内肋間筋、最内肋間筋、肋下筋、胸横筋、肋骨拳筋
(一)Mm. Thoracis superficiales(浅胸筋)Superficial muscles of thorax
いずれも胸廓の前壁から起こって上肢に着く筋である。
1,M. pectoralis major(大胸筋)Pectoralis major muscle
胸部の最表層にある強大な筋である。鎖骨の内側半・胸骨・第1-6の肋軟骨などから起こり、筋束が外側へ集中し、扁平な腱で上腕骨の大結節稜に着く。
上腕骨を内転し、内旋する。鎖骨部は上腕骨を前方に上げる(屈曲)。上肢を固定すれば体幹を引き上げ、胸郭を上げて吸息を助ける。
2,M. pectoralis minor(小胸筋)Pectoralis minor muscle
大胸筋の下層にある。第2-5肋骨から起こり、外上方に走って肩甲骨の烏口突起に着く。肩甲骨を内下方に引き、肩甲骨が固定されている時は肋骨を挙上して吸気を助ける。
3,M. serratus anterior(前鋸筋)Serratus anterior muscle
第1-9肋骨から起こり、胸郭の外側面を被いつつ後上方に向い、肩甲骨と胸郭との間を通って肩甲骨の内側縁に着く幅広い筋である。起始部は鋸状を呈するのでこの名がある。
全体としては肩甲骨を前方に引くが、とくに下部の筋束は肩甲骨下角を前方に引いて肩甲骨を回し、上腕の屈曲と外転を助ける。最上部の筋束は肩甲骨をやや引き上げる。
(二)Mm. thoracis profundi(深胸筋)Profund muscles of thorax
この筋群は上肢とは関係なく、肋骨の運動を司るものであって、横隔膜とともに重要な呼吸筋である。
1,Mm. Intercostales externi(外肋間筋)External intercostal muscles
各肋間隙の浅層にあり、肋骨の下縁から起こって筋束は斜めに前下へ向い、下の肋骨の上縁に着く。前端は肋軟骨の近くまで達する。それより前は腱膜様をなし、外肋間膜といい、胸骨縁に終わる。
2,Mm. Intercostales interni(内肋間筋)Internal intercostal muscles
外肋間筋の深部にある。筋束の走行はまったく異なる。前部の筋束は胸骨縁に達し、後部は肋骨角に達し、その後は内肋間膜をなしている。
外肋間筋は肋骨を引き上げ、吸気を助け、内肋間筋は肋骨を引き下げ、呼気を助ける。
四、Diaphragma (thoraco-abdominale)(横隔膜)Diaphragm
胸腔と腹腔との境をなしている円蓋状の筋板である。胸郭下口の周りからおこる。この起始部を胸骨部、肋骨部、腰椎部の3部に分け、胸骨部は剣状突起の後方から、肋骨部は下の6つの肋骨と肋軟骨から、腰椎部は左脚と右脚で第1-3腰椎体から輪状の起始をもって起こり、上方かつ体の中心部に向かって集まり、腱中心を作る。腱中心は筋線維を欠いて腱膜様になっている。
この膜には、胸腔に通ずる種々の器官によって貫かれている3つの孔がある。
横隔膜の右脚と左脚は第1腰椎の前で腱弓を作り、大動脈裂孔を囲み、大動脈と胸管が通っている。第10胸椎の高さで大動脈裂孔の左前上方に食道裂孔を作り、食道と迷走神経が通っている。第8胸椎の高さで食道裂孔の右前上方の腱中心の中で大静脈口を作り、下大静脈が通っている。
胸骨部と肋骨部の間を胸肋三角といい、肋骨部と腰椎部の間を腰肋三角という。この部では筋束を欠くのであって、抵抗の弱い部である。腹腔の臓器がここから胸腔に突き出して横隔膜ヘルニアを起こすことがある。
横隔膜はおもな呼吸筋である。収縮するときに円蓋は下降して胸腔の容積が広がり、吸気を助ける。弛緩すると円蓋はもとの位置に戻り、胸腔の容積が小さくなって呼気を助ける。腹筋と同時に収縮すると腹圧を増し、排便・嘔吐・分娩などの時に働く。
五、Muscli abdominis(腹部の筋)Abdominal muscle
腹筋は肋骨弓および第12肋骨下縁と骨盤上縁との間に張って、腹腔の周りの壁を作る筋である。前腹壁の正中線の両側を縦走する一対の直筋があり、両側に3つの扁平な筋があって、その筋束は互いに交差し、正中線に近づくと前腹壁で幅広い腱膜となる。腹筋は前外側群と後群に分けられる。
1,M. obliquus externus abdominis(外腹斜筋)External abdominal oblique muscle
最外層にある広い扁平な筋で、筋尖をもって下の8個の肋骨の外側面から起こり、筋束は外上方から斜めに前下方に走り、後部は腸骨稜の前部に着き、中部は腱膜となり白線に着く。外腹斜筋腱膜の下縁は上前腸骨棘と恥骨結節の間に張って、鼠径靱帯となる。鼠径靱帯の内側端から少量の線維を出して下の恥骨櫛に止まり、裂孔靱帯となる。恥骨結節の外上方に腱膜は三角形の裂口を作り、浅鼠径輪となる。
2,M. obliquus internus abdominis(内腹斜筋)Internal abdominal oblique muscle
外腹斜筋に覆われて胸腰筋膜・腸骨稜・鼠径靱帯の外側部から起こり、前方に向かって扇状に広がる。後部の筋束は下の3つの肋骨に着き、その他の大部分は腹直筋鞘の外側縁の近くで腱膜となり、2枚に分かれて腹直筋鞘の前後の両葉に入り白線に終わる。
内腹斜筋下部の筋束は前下方へ弓状に下降して、精索をまたがって腱膜となり、腹横筋の腱膜と癒着して鼠径鎌となり、恥骨櫛の内側に着く。内腹斜筋の最下部の筋束は下へ下がって精索と精巣を包み精巣挙筋とよばれる。
3,M. transversus abdominis(腹横筋)Transversus abdominis muscle
内腹斜筋に覆われ、下の6つ肋軟骨の内面・胸腰筋膜・腸骨稜と鼠径靱帯の外側1/3部から起こり、筋束は前方に横走し、やや扇状に広がって腱膜となり、上部では腹直筋鞘後葉に、下部では腹直筋鞘前葉に入って白線に入る。腹横筋の最下部の筋束と腱膜下縁の内側部はそれぞれ精巣挙筋と鼠径靱帯の構成に加わる。
4,M. rectus abdominis(腹直筋)Rectus abdominis muscle
平たく長い筋で、白線の両側を縦走し腹直筋鞘に包まれる。上は狭く下は広い多腹筋である。恥骨結合と恥骨陵から起こり、第5-7肋軟骨および剣状突起の前面に着く。3-4個の腱画が筋腹を4-5節に分ける。腱画は前面だけにあり、腹直筋鞘前葉と癒着している。
腹前外側筋群は腹腔臓器を保護し、腹圧の維持と臓器の位置固定作用がある。腹筋が収縮すると腹圧を増し、排便・分娩・嘔吐・咳などに働く。肋骨を下げて呼気を助ける。また脊柱を前屈・側弯および回旋をさせる。
後群には大腰筋と腰方形筋があるが大腰筋は下肢の項で述べる。
腰方形筋 脊柱両側の後腹壁にあり、後方に脊柱起立筋があって胸腰筋膜に隔てられる。腸骨陵の後部から起こり、第12肋骨と第1-4腰椎横突起に着く。
第12肋骨を下げるとこれを固定し、または脊柱を側弯させる作用がある。
(三)Vagina musculi recti abdominis(腹直筋鞘)Rectus sheath
腹直筋鞘は腱膜が癒着して腹直筋を包んだものである。外腹斜筋の腱膜は腹直筋鞘の前葉に入り、内腹斜筋の腱膜の過半は前後2葉に分かれて腹直筋鞘の前後両葉に入るが、下部では前葉だけに入る。腹横筋の腱膜は同じく上部では腹直筋鞘の後葉に入り、下部ではすべて腹直筋鞘の前葉にいたる。したがって下部では腹直筋鞘の後葉は欠け、腹直筋の後面は直接に横筋筋膜で覆われる。この両部の境界線を弓状線という。その位置は臍輪から4-5cm下方であるが個人差が大きい。
腹直筋鞘の前・後葉をつくる両側の側腹筋腱膜の線維が前腹壁の正中線で左右交じり合って作る強い紐状の結合組織で、上方は剣状突起前面から始まり、下ほど広くなり、臍の高さを過ぎると再び狭くなって恥骨結合上縁にいたる。白線は中央よりやや下方に臍輪を作り、その中心はゆるい結合組織、周りは強い輪状線維である。
臍輪は生後に閉じるがここでは皮膚と横筋筋膜との間に弱い結合組織があるだけで、抵抗が弱く腹部内臓が腹膜に被われたまま皮下に出ることがある。これを臍ヘルニアという。
(五)Canalis inguinalis(鼡径管)Inguinal canal
鼠径靱帯の内側半の上で、側腹筋を後上方から斜めに前下方に向かって貫く間隙である。男性では精索が精巣挙筋を伴って通るので太いが、女性では子宮円索が通るだけなので細い。鼠径管の長さは約4-5cmで、その外口すなわち浅鼠径輪(または皮下鼠径輪)は鼠径靱帯内側端の上に、内口すなわち深鼠径輪(または腹膜下鼠径輪)は鼠径靱帯中央部の上方1・5cmのところにある。
鼠径管は4つの壁によって囲まれる。前壁は外腹斜筋腱膜と内腹斜筋・後壁は横筋筋膜と鼠径鎌・上壁は内腹斜筋と腹横筋の弓形の下縁・下壁は鼠径靱帯である。
(六)ヘセルバック三角(Hesselbach三角または鼠径三角)
腹壁の前下部にあり、腹直筋の外側縁・鼠径靱帯と下腹壁動脈の3者に囲まれる場所である。鼠径管と鼠径三角は腹壁の抵抗の弱いところで、もし腹腔内臓が腹膜に包まれて皮下に深鼠径輪・鼠径管を経て浅鼠径輪に出るものを外側または間接ヘルニアという。もし内容物は深鼠径輪を経なくて、直接に鼠径三角を経て浅鼠径輪に出るものを内側または直接ヘルニアという。
最終更新日:2010年12月20日