"臨床精神医学辞典" 西丸四方著 1974、1985/2版、南山堂より

アルコール痴呆 アルコール中毒 アルツハイマー アルツハイマー病
エスキロール 外胚葉型 海馬角 下垂体
カールバウム 逆説睡眠 グッデン グリージンガー
呉秀三 クレッチマー クレペリン 現存在分析
サルペトリエール サロンのばか ジャクソン ジャネ
シュナイダー シュピールマイヤー 神経症 心情
精神力動論 精神論者と身体論者 相貌学 層理論
大脳化 てんかん ニッスル バイヤルジェ
ハインロート 破瓜病 プトレマイオス的転換 ブラウン-セカール症状群
フロイト ブロイラー ブロードマン 一級症状
解体 精神病 精神分析 精神分裂病
躁うつ(欝)病 中国の術語 ヒステリー ピネル
分裂病基本症状 ミオクロニー モニス ヤスパース
ユーモア 両価性

アルコール痴呆 英alcoholic dementia, 独alkoholische Demenz

 慢性アルコール中毒者の痴呆。これに身体症状(瞳孔、言語)も加わって進行麻痺様に見えれば、アルコール偽進行麻痺alkoholische Pseudoparalyseという。

アルコール中毒 英alcoholic intoxication, 独Alkoholintoxikation, 仏intoxication alcoolique

 急性・慢性の中毒があり、急性には単純酩酊acute alcoholic intoxication, einfacher Rausch, ivresse, ebriete, すなわち普通の酔いdrunkenness, Betrunkenheitと病的酩酊pathological intoxication, pathologischer Rausch, ivresse pathologiqueとあり、慢性はアルコール嗜癖alcoholism, Alkoholismusである。酩酊は皆病的なので病的酩酊といわず複雑酩酊complicated drunkenness, komplizierter Rauschといった方がよいという人もある。
 酔いにはアルコールの量、飲むに要した時間、酒の種類、雰囲気、耐性toleranceが関係する。アルコール不耐性intolerance, Intoleranzは体質、疲労、精神的興奮、てんかん、動脈硬化、脳外傷後、向精神薬などによる。渇酒癖dipsomania[dipsa渇き]あるいは周期性暴飲Quartalssaufenは周期的にひどく飲みたくなるもので、慢性アルコール中毒、精神病質、うつ病、てんかん、分裂病など種々の原因による。
 酔いの症状は爽快、自負、抑制消失disinhibition, Enthemmug(社会生活のノルムを破る)、判断浅薄などである。病的酩酊はアルコール不耐性もあって起こるもうろう状態である。
 慢性中毒は身体病(肝、血管、多発神経炎、陰萎)と気分変動、知的低下、不道徳を来す。この上にさらに起こるアルコール精神病alcoholic psychosis, Alkoholpsychoseとして振戦譫妄delirium tremens, アルコール幻覚症alcoholic hallucinosis, Alkoholhalluzinose, 嫉妬妄想alcoholic paranoid state,alkoholischer Eifersuchtswahn, delire de jalousie chez l'alcoolique,コルサコフ精神病Korsakov's psychosisがある。振戦譫妄は飲酒や急性身体病に関連して突然譫妄、視触覚幻覚(小さな動くもの多数)、すてばち諧謔grim humor, gallows humor, Galgenhumor,作業謔妄occupational delirium,Liepmann's phenomenon(暗示により幻視)、血行不全と肝不全を起こす。アルコール幻覚症は幻聴と迫害妄想を示し、後者のもならアルコールパラノイアともいう。アルコールてんかんalcoholic epilepsy, Alkoholepilepsieは中毒者に起こるてんかんである。コルサコフ精神病は記銘障害の著しいもので、痴呆も加わればアルコール痴呆alcoholic dementia, alkoholische Demenzといい、これに進行麻痺様の身体症状麻痺alkoholische Psendoparalyseという。
 血中のアルコール値は正常は0.02~0.03%、車の運転は0.5~0.8%で危険、軽い酩酊1%、中等度は2%、重いのは2.5~3%である。
 アルコール犯罪alcoholic delict,Alkoholdelikt, delit commis en etat d'ivresseは飲酒中の犯罪で、酔いは外因性精神病であるが飲酒は随意行為なので病的酩酊以外は普通の刑となる。
 治療はアルコール禁断療法alcoholic detoxication, cure Alkoholentziehung-skur, cure de desintoxication alcooliqueによる。飲酒試験alcohol test, Trinkversuchはアルコール酔いの間の犯罪の鑑定のため、また嫌酒効果検査のための酒を飲ませてみることをいう。

アルツハイマー Alois Alzheimer(1864-1915)

 フランクフルトの精神病院で研究し、ミュンヘンのクレペリンの下で大学精神科の解剖研究室主任となり、1912-1915年ブレスラウ大学の精神科主任となった。ニッスルNisslと並んで脳の組織病理学者として活躍し、アルツハイマー病とアルツハイマー細繊維変化で有名である。

アルツハイマー病 英Alzheimer's disease, 独Alzheimersche Krankheit, 仏demence d'Alzheimer (1906)

  50才頃はじまる初老期痴呆 presenile dementia, prasenile Demenzで、全般的な脳萎縮とアルツハイマー細繊維Alzheimersche Fibrillen(細繊維太くうねる)、老年プラクplaque senile(ドルーゼ様小壊死巣)、記銘弱と言語障害(語尾反復Logoklonieと失語)、落ち着かずにいつも何かやっている作業多動Beshaftigungsunruheがみられ、感情反応は活発である。進行性で、筋緊張が増し、著しい痴呆に陥り死亡する。

エスキロール Jean Etienne Dominique Esquirol(1772-1840)

 ピネルの弟子、1810年からサルペトリエール病院、両者とも現代精神医学の祖で情欲が精神病を起こすとした。この点ハインロートと同じ意見で、人間学的精神医学のもとである。1838年精神病についてDes maladies mentales, 同年 Bernhard の独訳 Von der Geisteskrankheiten,精神病をうつ狂lypemanie[ギlype悲しみ]、単一狂あるいは理性狂monomanie(folie raisonnante)、躁狂manie, 錯乱狂demence, 痴呆狂idiotismeに分けた。どの病にも狂delireが多かれ少なかれあるとした。

外胚葉型 英ectomorphic type, 独Ektomorphie, 仏type ectomorphe(William Sheldon 1899- )

 シェルドンは三胚葉、外中内胚葉ectoderm,mesoderm, entodermによって体型somatotypeを分け、それぞれ脳性cerebrotonic, 体性somatotonic, 内臓性viscerotonicとした。クレッチマーの細長型-分裂気質、闘士型-粘着気質、肥満型-循環気質に、大伴相当する。

海馬角 英ammon's horn, ラcornu ammonis, hippocampus,独Ammonshorn

 辺縁系の一部で、亜鉛、セロトニンが多い。ここの変化から痙攣を起こしやすい。破壊により嗅覚減退、幻嗅、てんかん、知的障害、記銘弱、時間と場所の見当識の障害、感情反応の障害を来たす。海馬角硬化Ammonshornsklerose(1825 Bouchet, Cazauvielh)は海馬角の神経細胞脱落と膠質増殖で、てんかん発作が反覆して酸素が欠乏するとここが断血に最も弱く、知的感情的障害を来す。痙攣なしに硬化は起こりうる。老年痴呆、リトル病、白痴、脳炎にもみられる。

下垂体 英hypophysis, 独Hypophyse[ギhypo下、ギphyo生ずる]

 蝶形骨のトルコ鞍にある指頭大の600㎎の腺で漏斗infundibulumで間脳に接し、前・中・後葉がある。前葉は腺下垂体adenohypophysis, 後葉は神経下垂体neurohypophysis, 前葉は外胚葉性で成長ホルモンsomatotropin, 甲状腺ホルモンthyreotropin, 副腎皮質ホルモンcorticotropin ACTH, 糖代謝ホルモン, 乳腺ホルモンprolactin, 脂質代謝ホルモンを分泌する。前葉障害でこびと症、肥満性生殖器萎縮症、シモンズ悪液質、クッシング病が起こる。後葉は前葉より小さく、無髄鞘神経線維とグリア細胞から成り、平滑筋緊張調整、腸蠕動、子宮収縮(oxytocin)、水分代謝調節(adiuretin)、胆嚢蠕動、血圧上昇(vasopressin)をつかさどる。後葉は中葉とともに前葉と視床下部との仲介をする。下垂体と間脳系は機能的統一体をなす。下垂体性幼稚症hypophysarer Infantilismusはロレーン症状群Lorain-Syndromという。下垂体憩室hypophyseal pocket, Hypophysentasche, Rathke's pouch, poche de Rathke(Martin Rathke 1793~1860,ドイツの解剖学者)は発生上前葉ができるように口腔から外胚葉性の嚢が飛び出るもの。下垂体腫Hypophysentumorは脳腫瘍の10%にあり、色素嫌性腺腫は肥満性性器萎縮症、塩基嗜好性腺腫はクッシング病、エオジン嗜好性腺腫は巨人症や先端巨大症を起こす。症状は内分泌障害、視神経萎縮、両側頭側片盲(視神経交叉圧迫)、失明、内分泌性精神症状群、トルコ鞍拡大などである。頭蓋咽頭管腫craniopharyngioma,エルトハイム腫Erdheim's tumorはラトケの憩室から出るものである。

カールバウム Karl Ludwig Kahlbaum(1828~1899)

 ドイツの精神医でゲルリッツの私立病院長。1863年精神病の群分けと精神障害の分類Die Gruppierung der psychischen Krankheiten und die Einteilung der Seelenstorungenを著し、クレペリンより先に原因、症状、経過が同じという観点からの疾患単位の概念を作り、1871年に弟子のヘッカーHeckerとともに破瓜病Hebephrenie, 1874年に緊張病Die Katatonie, eine nene klinische Krankheitsformという新しい臨床的疾患型を規定した。この名は広く用いられ、フランスでも破瓜病と緊張病hebephreno-catatonieをカールバウム病maladie de Kahlbaumという。

逆説睡眠 英paradoxical sleep, 独paradoxer Schlaf, 仏sommeil paradoxal

 《非同期化睡眠 desynchronized sleep, desynchronisierter Schlaf[同期化は脳波を作る要素の電気活動が同時で大きな高い波はなること、非同期化は逆]》深い睡眠では脳波とおそい高い大きな波、デルタ波、同期化液が出て、これを正説睡眠orthodox sleepというが、もう一つの深い睡眠の型があって、この時覚醒時のような速い低いこまかい波、非同期化波が出、同時に速い眼球運動が閉じた瞼の後で起こり、顔面筋のぴくぴく動きも見られ、逆説睡眠、速眼動睡眠REM-Sleep [rapid eye movements],夢期睡眠 Traumphasenschlafといわれ、このとき夢みていて、こういうことが一晩に数回、1回10~40分ある。個体発生的に古い型の眠りで、速眼動睡眠は新生児、動物で皮質をとったもの、生まれたときから盲目の人にもある。新生児の睡眠の60%、成人の睡眠の20%はREM睡眠である。

グッデン Bernhard Aloys von Gudden(1824~1886)

 ドイツの精神医、チューリッヒ(Burgholzliの初代主任)からミュンヘンの教授となり、病院精神医学、脳解剖学にたずさわった。1849~69年の間いくつかの精神病院長にもなった。彼が鑑定し治療していた国王ルードウィヒ2世が湖に入り死のうとしたのを助けようとして一緒に死んだ(1886.6.13)。脳の線維学の研究、グッテン徴候はアルコール中毒で瞳孔反射がおそくなること。連続切片ミクロトームの製造をし、精神医学教科書を著した。

グリージンガー Wilhelm Griesinger (1817~1868)

 ドイツの内科医-精神科医で、チュービンゲン, キール, チューリッヒ、ベルリンの大学教授となる。1845年にドイツ最初の教科書、精神病の原理と治療Pathologie und Therapie der psychischen Krankheitenを著し、精神病は脳の病気によるという自然科学的な考え方をした。1868年に雑誌Archiv fur Psychiatrie und Nervenkrank-heitenを創刊、今日に至る。

呉秀三 (1865-1932、1901-1925東京大学教授、巣鴨-松沢病院長)

 1897年ウィーンのクラフト-エービング、まもなくミュンヘンのクレペリン、ニッスルに学び、クレペリン説の移入、近代病院の建設、患者の福祉、医学史の研究につとめた。この時代の今村新吉(1864-1932)は京都大学教授でフランス系、ベルグソン、ジャネ、レヴィーブリュール、ブロンデルに依った。このほか東北大学の丸井清泰はこれより時代はあとであるが、アメリカ的で、マイヤー、フロイトに依った。

クレッチマー Ernst Kretschmer(1888~1964)

 ガウプの弟子で、1926年マールブルク、1946年チュービンゲンの教授となる。1918年敏感関係妄想Der sensitive Beziehungswahn, 1921年体格と性格Korperbau und Charakter,1922年医学的心理学Medizinische Psychologie, 1923年ヒステリーHysterie,Reflex und instinkt,1929年天才人Geniale Menschen,1949年精神療法Psychotherapeutische Studienなどの著書がある。その研究方法は生理学的心理学と力動的心理学によるが、精神分析ほど空論でなく、了解心理学より深いものである。1919年多元診断法 mehrdimensionale Diagnostikを唱えたが、これは構造分析Strukturanalyse(Birnbaum)と似た考え方である。構造分析は疾患単位を認めたうえで症状の由来を分析し、多元診断は疾患単位によらない。

クレペリン  Emil Kraepelin(1856-1926)

 1878年ミュンヘン、1882年ライブチヒ、1885年ドレスデンに学びグッデンの弟子、1886年に30才でドルパートの精神科教授、1891年からハイデルベルクでフュルストナーFurstnerの後任、共同研究者はアルツハイマー、アシュッフェブルク、ガウプ、ニスル、ワイガント、ウィルマンスなどであった。1903年にミュンヘンのブムBummの後任となり、1917年にミュンヘンに精神医学研究所Forschungsanstalt fur Psychiatrie(カイザーウィルヘルム研究所の一つ)を設立。教科書は1883年
 Kompendium der Psychiatrie, 1910年代の第8版Psychiatrieは4冊、1927年第9版は弟子のランゲLangeが初めの2冊を改訂して出しただけであった。1892年のEinfuhrung in die psychiatrische Klinikは臨床講義集である。1892年精神薬理研究、1896年の体系論は内因性痴呆(早発性痴呆)と躁うつ病を規定、これをそれぞれ一つの病気、疾患単位としようとした。クレペリンは経過からみて躁うつ病は循環性にきて欠陥なしに治り、早発性痴呆は永続的な欠陥をきたすことを目標としたが、ことに後者は一つの病気が症状群かのきめ手はない。クレペリン病Kraepelinsche Krankheit(1936 Grunthal命名)は老人病で速かに進行する痴呆、興奮。言語障害、緊張症状を呈し、経過は1~2年で、皮質神経細胞のニッスル顆粒の消失、神経細胞の喰現象が前頭薬、時にアンモン角、後頭葉、ことに第3、第5皮質層にみられる。クレペリン症状群Kraepelinsches Syndrom syndrome de Kraepelin(1915)は災害後の驚愕しん神経症Schreckneuroseで心気症状を呈するもの。クレペリン連続加算法Kr-aepelinscher Rechentest, Dauerrechenversuch, cahier de Kraepelinは練習、疲労、発動性をしらべる数字加算の心理テストで、計算量を作業曲線Arbeits-kurveとしてあらわして成績を比較する。

現存在分析 英existential analysis, ontoanalysis, 独Daseinsanalyse,仏an-alyse existentielle

 現象学Phanomenologieという概念は元来精神現象すなわち体験を観察してそれを記述することであったがフッサールHusserlはその本質absolute essence, Wesenを直感することであるとし、ハイデガーHeideggerは人間の存在の本質は世界の中にあることBeing-in-the-world, In-der-Welt-sein,
etre-dans-le-mondeであるとした。ビンスワンガーBinswangerは精神病患者の現象を通してその本質を患者の世界の中のあり方の違いによる考え、症状を通して本質を明らかにしその本質から症状を解しようとした。フロイトが精神障害またはその症状を性の挫折や退行などの観念から解するのと同じであるが、この考え方は了解Verstehenをひどく拡張した解釈interpreting, Deutungであり、解釈学Hermeneutikであり、自然科学によらない、心理学的あるいは哲学的な意味づけである。マイヤーMeyerは常識common sense的意味づけを行っている。神経症を人間存在の根底にある無nothingness, Nichts,neantへの不安anxiety, Angst, angoisseから解するとか、分裂病を自閉世界へのひきこもりから解するごときである。

サルペトリエール 仏Hospice de la Salpetriere

 ルイ13世の建てた火薬工場で、1650年に娼婦の収容病院となり、一時は8,000人も収容、ピネルPinelにより正規の精神病院となり、エスキロールEsquirolがあとをつぎ、1862年にシャルコーCharcotが主任となった。ビセートルBicetreはやはりルイ13世の作った負傷兵病院で、のち監獄となり、精神病患者の浮浪者も収容され、1793年にピネルがここで40人を開放した。

サロンのばか 独Salonblodsinn(Hoche)

 釣合痴呆、利巧ぶりばかVerhaltnisblodsinn(Bleuler)と似たもの。利巧ぶりばかは能力と意欲のつりあいがとれぬもので自分の能力にあまる高いものを目ざして失敗する。サロンのばかは、いろいろ知っていて頭がよさそうに見えて能力はないもので、サロンでは本当は実がないがうまいことをいって才能がありそうにみえて実生活では失敗する。

ジャクソン John Hughlings Jackson(1835-1911)

 イギリスの神経学者、ロンドンのてんかん病院長、1863年ジャクソンてんかん、1864-1872ジャクソン症状群またはジャクソン麻痺(交代麻痺)、1866年失認を記載した。ジャクソン選集は1931年にJames Taylorに編集され出版された。進化論の哲学者スペンサーHerbert Spencerにより、神経系の機能の発達evolution, Aufbauと、破壊の際のその逆の退化、解体dissolution, Abbauの理論をたて、神経学では1920年代に失語 失行 の古典論に代わる全体論にとり入れられた(Monakow, Head, Pick, Goldstein, Sittig, Kroll)。また精神医学ではフランスの新ジャクソン説 neojacksonisme,器質力説動説organodynamisme(Henri Ey)に大きな影響を与えた。

ジャネ Pierre Janet(1859-1947)

 フランスの哲学-心理学-医学者。初め哲学を学び7年間リセで哲学の教師をし、のち医学に転じシャルコーに学んだ。フロイドと似た説であるが対立者である。1890年サルペトリエールの心理学研究室主任、1895-1934年リボーの後任として、コレージュ ド フランスの実験および比較心理学教授。精神活動を自動性と統合性の二種とし、心理学的緊張tension psychologiqueと精神衰弱psychasthenie(ジャネ病)の説をたてた。

シュナイダー Kurt Schneider(1887~1967)

 1919年ケルンのアシャフェンブルクの許で資格を取り、1931年ミュンヘンのドイツ国立精神医学研究所臨床部主任、1946-1955年ハイデルベルク大学教授。ドイツのオーソドクスの精神医学で、ヤスパース流の精神医学病理学。1923年「精神病質人格」、1931年「一般医家のための精神医学」、これがのちに「臨床精神病理学」に発展、1928年「宗教精神病理学」を著わす。

シュピールマイヤー Walter Spielmeyer(1879-1935)

 ホッヘの弟子で、1917-1935年ミュンヘンのドイツ精神医学研究所の組織病理の主任。脳炎とてんかんと錐体外路疾患の研究が多く、神経系の組織病理学Histopathologie des Nervensysteme(1922)を著わし、黒白障白痴の若年型(1905, 1908 Spielmeyer-Vogt)型を見出した。1910年代のアシャフェンブルクの精神医学全集に老年精神病の項を書き、1930年代のブムケの精神病全集に精神病の組織病理の巻を編集した。

神経症 英neurosis, 独Neurose, 仏nevrose

 (1777 Cullen)カレンWilliam Cullen(1710-1790)は原因なしに起こった神経の病気全体をいい、精神病にもこういう神経症が基になっているとした。フロイドは1895-1900年に精神的条件によるとし、精神的葛藤の直後の結果によるもの(現実神経症Aktualneurose)と、それの抑圧による現象的表現によるもの(精神神経症Psychoneurose)とに分った。葛藤は幼児の発達時期に根ざし、欲求とその実現を抑えることの妥協の結果、形を変えて欲求を一応満たすのが神経症である。
 神経症は精神的動機で現れるので心因反応psychogene Reaktion, 体験反応Erlebnisreaktionであるが、ある出来事に出会っていきなり起こる反応、たとえば地震のときの驚愕反応などには用いず葛藤が長く続いて、積もり積もって爆発するか、じわじわと現われるとか、心の底に隠れているとかという形をとるものをいう。これをシュナイダーは内的葛藤反応innere Konfliktreaktionといい、神経症という名称はこの病の本質を現わしていないから不適当だという。神経症の場合に心因を古い時代に見いだそうとすれば、いきおい無意識の心因と葛藤をもってこなければならず、この無意識なものを認めないならば、素質的な異常性格をもってこなければならないが、神経症説者は性格神経症として異常性格さえも神経症的にでき上がるものと考える。自律神経失調-神経質-心身症-異常性格-神経症-内的葛藤反応-心因反応が一連の系列をなすが、このいずれとするかは見解の相違にもよる。
 Schultzは他者神経症Fremdneurose(外部の影響による)、辺縁神経症Randneurose(人格の辺縁の身体的なものから起こったもの)、層神経症Schichtneurose(人格の中間層の精神から)、核神経症Kernneurose(人格の中核から)を分かつが、これは大体外的体験反応、器官神経症、内的葛藤反応、神経症、精神病質に当たる。知因神経症noogene Neurose[nous知力]、実存神経症existentielle Neuroseは人間存在の意味や価値を見失って精神的貧困に陥るための神経症(Gebsattel , Frankl)、実験神経症experimental neurosis(Pavlov)は動物にどっちにしてよいか分からぬ課題を与えて起こる落ち着きのなさ、医原神経症iatrogene Neurose(Frankl)は医師が患者に病気の懸念を起こさせるため、社会神経症social neurosisは幼時時代からの家庭環境や家庭外の社会構造による人格発展障害から神経症となるものをいう。植物神経症vegetative neurosisは神経症による感情緊張に伴う植物神経機能障害で、転換神経症のように葛藤を象徴的にあらわして発散するものではないので、現実神経症に入る。それ故、植物神経症状は植物神経失調症、植物神経症、転換神経症のいずれかに分けられることになる。ある患者がなぜこの形の神経症となるかの構造分析を神経症選択choice ofaneurosis, Neurosenwahl, choix de la nevroseという。

心情 独Gemut

 ドイツ独持の言葉で、geは集まり、mutは英のmoodに当たる。Geist(英のghost)霊、精神に対する、情意的な心の状態で、他国語に訳し難い。心の内面性のしんみりした深み、もののあわれのごときものである。心情病Gemutskrankheit, affective psychosisは躁うつ病で、精神病Geisteskrankheitのように狂気という重大さがない。情性欠乏gemutsarm, 情性欠如gemutlosは冷血な性格の精神病質、情性荒廃emotional flattening, Gemutsverodung, baisse de l'affectiviteは感情鈍麻と同義で、分裂病のことに古いものにも、脳器質精神病の古いものにもある。カント時代(Immanuel Kant 1724-1804)には、Gemutは心Seelと同じ意味に用いられ、Gemutskrankheitは精神病全体をいったので、人間学Anthropologie(1798)で、この言葉を用いている。

精神力動論 英psychodynamics, 独Psychodynamik, 仏psychodynamique
 精神現象がいくつもの精神的な部分の力の働きによって現れてくると解する見方で、精神分析はこれである。意識-無意識、エス-自我-超自我という人間機械の部分があって、その機械仕掛mechanismの力の働きで精神現象があらわれる。人間の精神活動における了解性Verstandlichkeit, 意味含有性meaningfulnessを機械仕掛で説明する。

精神論者と身体論者 英Psychiker und Somatiker
 ドイツ19世紀の両極論で、精神論者は精神病は心の病気で体の変化は二次的なものとし、精神病の原因は罪とか情欲のつのりであると考えた。ハインロートHeinroth, ベネケBeneke,イーデラーIdelerがその代表者である。身体論者は精神障害は体の病気によるのであって、体が不死の霊が現われる仲介をする役に立たなくなるのであると考えた。ナッセNasseヤコビJacobi, ガルGall, フリードライヒFriedreich, ライルReil, フレミングFlemming, マイネルトMeynertがその代表者である。この2つの流れの間の論争や考え方の違いは今日に至るまで続いている。

相貌学 英physiognomy, 独Physiognomik, 仏physionomie[ギphysis生じてできた自然、ギphyo生じる、ギginosko, ギgno知る]顔や体の形から心を知ること。表情の動きの運動でなく動かない形から知る。精神分裂病患者の分裂病くささpraecox feeling, Praecox-Gefuhlは相貌によるところが多い。ヘビやケムシのきみの悪さ、小鳥のかわいさも相貌による。

層理論 英stratification theory, 独Schichtenlehre

 精神を層構造をなすと考える理論。ジャクソンの発達と解体、フロイトのエス、自我、超自我、あるいは口唇期、肛門期、性器期の発達段階、クレッチマーの下層意志と下層知性、アリストテレスの質料、物体、生物、心、精神など、昔からいくらも層的な考え方がある。感情についても身体感情leibliches Gefuhl,生気感情vitales Gefuhl, 心的感情seelisches Gefuhl,精神的感情geistiges Gefuhlと分かつのは層的であり、活動性についても、本能Instinkt, 欲動Trieb, 願望 Begehren, 努力Streben, 意志Wollenと分かつのも層的である。上層は高級で下層は下級であり、精神神経病のときには上層の働きがなくなり、下層の働きがあらわれると考える。上層は抑制、調節をしているものであり、下層は盲目的発動力である。

大脳化 英cerebralization, encephalization, 独Verhirnlichung, 仏cerebration

 系統発生でも、個体発生でも、発達につれて機能が脳幹から大脳に移ること。

てんかん(癲癇)英epilepsy, 独Epilepsie, 仏epilepsie[ギepi上に、ギlepsis lambanoとらえる]

 《発作病Anfallsleiden, 痙攣病Krampfkrankheit, 民会病mal comitial〔ラcom=cum共に, itus, ire, eo行く,comitium集会,てんかんを起こす人があるとやめた〕、卒倒病Fallsucht, morbus caducus〔ラcado落ちる〕、神聖病morbus sacer〔=sacred〕、morbus divinus, morbus deificus〔ラdivus=deus神〕、morbus daemoniacus〔ギdaimon神霊、神的なものにいきなりとりつかれたように健康な状態から突然起こる〕》意識障害と痙攣、運動-行動異常の発作。
 大発作grand mal, grosser Anfallは、前駆期prodrome, 前兆aura [いき、微風]、意識喪失と同時の強直期tonic phaseにつづく間代期clonic phase, 意識混濁、疲憊exhaustion, Erschopfung,終末睡眠postictal sleep,Terminalschlaf,覚醒と健忘というごとく経過する。てんかん発作重積status epilepticus, etat de malは大発作の連続をいう。発作の起こる時刻により睡眠てんかんSchlafepilepsie,覚醒てんかんAufwachepilepsie, 汎発てんかんdiffuse Epilepsie(昼と夜)という。
 小発作petit mal, kleiner Anfallは短時間の意識障害と運動-行動症状(自動症automatism, ひきつりspasm, Zuckung,筋緊張変化)を起こすものである。年齢に無関係の小発作には巣的focalなジャクソン発作Jacksonian attack(巣に担当した運動-感覚現象から大発作へ移行することもある)、精神運動発作psychomotor attack(もうろう発作Dammerattacke, 側頭葉てんかんtemporal lobe epilepsy, 夢幻状態dreamy state, 自動症、 口部自動症oral automatism,既視、鉤発作uncinate fit, crise uncinee)、小発作重積Petit-Mal-Statusがある。年齢に関係した小発作には、ピクノレプシー小発作pyknoleptic petit mal[ギpyknos密な、しばしばの](欠神absence,後屈小発作Retropulsiv-Petit-Mal, 頻繁な短時間の意識中絶, 児童、毎秒3回のスパイク アンド ウェーブspoke and wave, Spitze-Welle, pointe-onde)、サラームてんかんsalaam con-vulsion(電光点頭礼拝痙攣Blitz-Nick-Salaam-Krampf, BNS-Krampf[サラーム、シャローム、中東のあいさつ]、前屈小発作Propulsiv-Petit-Mal, 乳児、高い余波と棘波hypsarhythmia[hypsi高く]、予後不良)、ミオクロニック失立小発作myoklonisch-astatisches Petit-Mal発(無動作akinetic attack, 失立発作astatic attack, Lennox syndrome, 種々の筋クローヌスとくずれ、幼児、spike-wave variant, ミオクローヌスてかんMyoklonusepilepsie Unverricht-Lundborgは持続的間代筋痙攣のあるもので別)、衝撃小発作Impulsiv-Petit-Mal(びくっと体が大きく動く、思春期以後の少年、polyspikes and wave)などがある。
 精神障害の一時性のものは代理症equivalent, Aquivalent(周期性不機嫌periodic ill-humor, periodische Verstimmung, もうろう状態twilight state, befogged state, Dammerzustand, etat de crepuscule, 精神病的挿入psychic epilepsy, psychotische Episode-幻覚妄想状態)。持続性のものはてんかん性痴呆epileptic dementiaと人格変化Wesensanderung(迂遠、粘着、頑固、易怒)である真正idiopathic epilepsy genuin epilepsy, essential epilepsyは遺伝体質的genetic epilepsyで児童-小青年期に始まり、覚醒大発作、欠神、衝撃小発作、脳波は中心脳性centrecephalic。 症状性てんかんsymptomatic epilepsyのプロセスてんかんprocess epilepsyは脳病や中毒によるもので成人に多く、巣性、睡眠てんかんまたは汎発diffuse(昼と夜)大発作、精神運動発作、脳波は巣性か汎発スパイク、残遺てんかんresidual epilepsyは脳病の古い傷によるもので、巣発作、精神運動発作、前屈小発作、睡眠大発作、汎発大発作。
 特殊発作型として、反射てんかんreflex epilepsy(感覚刺激ことに光によるもの)、潜状てんかんlatent epilepsy(脳波はてんかんで臨床的に発作がないもの)、熱痙攣Fieberkrampf(幼児の高熱時の大発作)、コシェフニコフ持続的部分的てんかんepilepsia partialis continua Kojevnikovはジャクソン巣てんかんの重積、ジャクソン巣発作に属するものには精神運動発作psychomotor attack、精神感覚発作psychosensoory attack、植物性発作vegetative attack, 間脳性発作diencephalic attack, 内臓発作visceral attck, 腹部発作abdominal attack, 皮質下発作subcortical attack(強直性、錐体外路性)などの形がある。
 てんかん性素質epileptic constitutionは、体格は闘士型、性格はてんかん病質epileptoide Psychopathieで、鈍重、迂遠、固陋pedantry, 几帳面、易怒、粘着素質enechetische Konstitution[ギen中に、echo持つ]である。
 脳波は棘波spike, Spitze, pointeと徐波slow wave, langsame Welle, onde lenteの混合で、多焦点棘波multifocal spikes(大発作)、中心脳型centrencephalic patternの汎発性毎秒3回のspike-wave(欠神小発作)、局在的棘波(巣)などがあり、カルジアゾル、メジマイド、深呼吸、反復感覚刺激で誘発される。治療には多くの抗てんかん剤antiepilepticumがある。

ニッスル Franz Nissl(1860-1919)

 ドイツの精神医、神経組織学者、フランクフルトの市立病院でアルツハイマーとともにおり、1895年二人ともクレペリンに呼ばれてハイデルベルクへ行き、1901年助教授、1904年正教授、1918年に止めてクレペリンのミュンヘンの国立精神医学研究所へ行く。1885年に大脳皮質の神経細胞の病的変化を見出した。ニッスル染色、ニッスル小体などの名がある。ヤスパース、グルーレはニッスルの弟子であった。ニッスル染色はチオニンにより原形質内のリボヌクレイン酸の多いニッスル魂を青く染める方法で、侵害によって溶け、回復によってまた現われる。神経細胞の病的変化はこの方法で非常によく把握されるようになった。主として大脳皮質をしらべた。

バイヤルジェ Jules Gabriel Francois Baillarger(1809~1890)

フランスの精神医で、1843年に雑誌Annales medicopsychologiquesを創刊し、今日まで続く。複形精神病folie a double formeすなわち躁うつ病の研究(1854)、クレチン病の研究(1873)を行った。

ハインロート Johann Christian August Heinroth(1773~1843)1811年ライプチヒ精神科教授(ドイツで初めて)。1818年に教科書Lehrbuch der Storungen des Seelenlebens を著わす。精神障害は罪の結果であるとし、これはロマン時代の見解によるが、今日の精神分析や人間学的精神医学の先駆者でもある。精神医学が独立した学問であるとした創始者の一人である。

破瓜病 英hebephrenia独Hebephrenie, lappiche Verblodung, 仏hebephrenie(1871 Ewald Hecker 1843-1909)[ギhebe若年、phren横隔膜、心]

 今日の分裂病の破瓜型で、思春期に、感情鈍麻と意欲減退、ばかばかしい、子供っぽい、若者的脱線行為Flegelei, teenager symptomsを示し、欠陥状態に陥りやすい。カールバウム(Kahlbaum,緊張病の概念を作った人)の疾患単位の概念に従って作ったもので、あとでクレペリンが早発性痴呆の見地の下にまとめた。カールバウムは破瓜病の軽いものを類破瓜病Heboid, Heboidophrenie(1889)といった。情意鈍麻が主症状の、単純型も破瓜型に入れてもよい。

プトレマイオス的転換 独ptolemaische Wendung(Conrad)

 自分が中心になって世界の事象が起こると意識されること。分裂病の初めの関係妄想、すなわち自己への関係づけEigenbeziehungは何でもない周囲の出来事が皆自分に関係があるように思えることで、これは自己をのりこえて(ubersteigen)、他に中心を移せる自由性を失い、コペルニクス的転換kopernikanische Wendungができないことによると説明される。トレマ、アポフェニー、アナストロフェ、コペルニクス的転換を参照

ブラウン-セカール症状群 英Brown-Sequard's syndrome(1851 Charles Edouard Brown-Sequard 1818-1894)

 英系仏人の生理学者、1878年からClaude Bernardの後継でコレージュ・ド・フランスの実験医学講座主任) 脊髄の片側症状群、すなわち感覚解離sensory dissociation, dissoziierte Sensibilitatsstorung, dissociation sensitiveで、侵害の高さでは弛緩麻痺と無感覚、その下では同じ側の痙麻痺、腹皮反射欠徐、深部感覚と識別(epikritisch)表面感覚の障害、反対側の痛覚と温度感覚の障害を起こす。

フロイト Sigmund Freud(1856-1939)

 フライベルク(メーレン)で生まれ4才のときからウィーン、1938年ナチの反ユダヤ主義のためロンドンへ亡命、上顎癌で死亡した。1885年マイネルトの許でウィーン大学神経学私講師、初め組織学や神経学を研究したが(失語の研究が有名)、1885-86年シャルコーの許でヒステリーや催眠を学び、ヨゼフ ブロイアーJoseph Breuerとともに催眠カタルシスを行い、1895年ヒステリー研究を著した。次に記憶を催眠によって呼び起こすのでなく自由連想を精神分析の根本法則とし、性的動機を強調した。次の時期には1905年まで欲動の発達、夢解釈、性理論を説いた。この後は転移Ubertragungを問題にし、1915年以後は哲学的宗教的なテーマが主となった。初めは性欲Libido, Erosと自我との争いを神経症のもとと考えたが、最後には生の欲求と死Thanatos[死の神、ローマならMors]の欲求の争いを考えるようになった。

ブロイラー Eugen Bleuler(1857-1939)

 スイスのチューリッヒ大学の教授(1898-1927)。クレペリンの早発性痴呆の説から精神分裂病Schizophrenieの概念と名称を作る(1911)。フロイトの説も取り入れ力動説な考え方をした。連合障害Assoziationsstorung, 両価性Ambivalenz,自閉Autismusを分裂病の3つの根本的障害としたが、自閉の概念はその後の種々の学説の根底となった。早発性痴呆またの名は精神分裂病(複)の群Dementia praecox oder Gruppe der Schizophrenien(1911)はアシャフェンブルクの精神医学全書の1冊、このほか1916年に精神医学教科書を作り、息子のManfredが改定、1972年に12版、英訳もある。

ブロードマン Korbinian Brodmann(1868-1918)

 1901年ベルリンの脳研究所オスカー フォークトの許にあり、1910年チュービンゲンの講師を経て、1918年ミュンヘンのクレペリンのカイザー-ウィルヘルム精神医学研究所の研究部長となる。人と動物の細胞構築の研究が有名で、大脳皮質を47領域に分った。コルサコフ症状群と容積脈波計plethysmographの研究もある。その後エコモノEconomoがさらにくわしい細胞構築を研究したが、一般にブロードマンの領野areaの番号の方が用いやすい。たとえば運動中枢はブロードマンは4、エコノモはFA、視中枢は17、OCのごときである。

一級症状 英first order symptoms, 独Symptome ersten Ranges(Kurt Schneider)

 精神分裂病とするのに特に重要な、分裂病特有の症状で、思考化声、話しかけとそれへのいいかえしの形の幻聴、自分のすることに口出しをする声の幻聴(随伴声running commentary of action, Begleitstimme, enonciation des actes)、身体的に影響を受ける感じ、思考奪取や思考被影響、思考伝播、妄想知覚、情意の領域でのさせられの感じなど、主として自我障害Ichstorungである。一級症状は分裂病特有ではなく症状精神病にもあるが、内因性のものなら分裂病で、心因性のものには全くない。しかし分裂病に必ずなければならないものではなく、却ってそう多くは見られないものである。二級症状は上記以外の妄覚、妄想着想、困惑、快やうつの気分変調、感情欠乏体験などで、こういう症状があればいろいろの関連を考えたうえで分裂病とする。躁うつ病の一級症状は生気的vitalな爽快や憂うつで、身体感情の好調不調であると考えられたが、これははっきりとは捕え難いし、心因性のものにもありうる。

解体 英dissolution, disintegration, deterioration, 独Abbau, 仏deterioration

 次第にでき上って、まとめられ、完成されたものが、こわれて逆もどりすること。構成construct, aufbauenされ、進化evolute, entwickelnしたものがこわれて退化すること。知的能力なら痴呆になる。人間の非可逆的な器質的変化は器質的人格変化organische Wesensanderungともいい(ここでWesenというのは人格personalityに当たる)、自発性spontaneity, initiativeの減退、元来の性格特徴の極端化、分化繊細度differentiationの喪失、知的能力の退化を示す。これが進むと大体4つの人格の型となり、上機嫌-多弁-迂遠、易怒-不機嫌-移り気、鈍感-茫然、憂うつな人格で、同時に知的の退化がある。また進化退化という意味には個々の認識や行為が個別的な、分化した、随意的な、意識的なものから、総体的な、不定形の、自動的な、無意識的なものへの転落ということもあり、これはダーウィン-スペンサ-ジャクソン-Darwin-Spencer-Jackson的な進化の逆行で、昔の古い機能が出現するものであり、精神症状、巣症状、神経症状がこのような見方でみられれば、ジャクソニズムJacksonismである。
 ジャネJanetは精神的水準の低下abaissement du niveau mentalという観念で身体的精神的なストレスで起こる神経症的精神病的症状をとらえるが、これも解体と同じことである。人間の精神的なものは層的に下級のものから高級のものへと積み重なっていて、障害と見られるものは上層がやられて下層のものが姿を現わしたものであるという説明はよく行われ、層理論Schichtenlehreといわれる。昔のリボーの法則loi de la regression de Ribotは記憶について、近いものから侵されて遠いものは残っているという規則で、これも層理論的解体である。

精神病 英psychosis, 独Psychose(1845-Feuchtersleben)〔ギpsyche精神、ギosis(病的)状態〕

 Geisteskrankheit,仏maladie mentale精神障害の中で比較的重いもの、異常性の強いものを漠然と精神病という。器質性脳病によるものに限るとすると、分裂病や躁うつ病には今のところそれは証明されないし、軽い器質性障害は神経衰弱状態しか示さないので精神病ともいえない。重い意識障害は重い精神病で脳侵害も重いが、これより分裂病の方ずっと狂ってcrazy, verruckt, fou, 精神病的に見える。躁うつ病は狂っては見えてないので精神病Geisteskrankheitに対し心情病Gemutskrankheitといわれる。心因性反応は精神病とはいいがたいが異常性の著しいものは心因性精神病ともいわれる。精神病ではパーソナリティが侵されるというのは人格というより人間性である。精神病という言葉は次第に用いられなくなる。アメリカでは器質反応、分裂反応、神経症反応というように見る。法律でいう精神病は責任能力の点からみるので、理非善悪弁別障害の重さによるべきで、精神病の質でなく量を見る。従って著しい精神病質も精神病に入れる。精神病という名称には種々の原則で形容詞が付加され、不安があれば不安精神病、自己意識障害があれば自己精神病、脳振盪があれば脳振盪精神病、年齢によれば更年期精神病、産後なら産褥精神病、手術後なら手術後精神病、典型的でないと非定型精神病、マラリアによればマラリア精神病、一種の精神病しかないとするなら単一精神病、原因によれば内因性精神病などがある。
 精神病院に当たる各国の言葉を、古くなったものや俗語も加えて並べると、insane asylum, institution, Narrenhaus(古い)、Irrenanstalt(1807)、Heil- und Pflege-anstalt, maison de sante, maison d'alienes, asile〔ギasylon, a否,ギsylao奪う、捕えられることのない避難所〕、Irrenkolonie(19世紀)などがある。
 精神医はpsychiatrist, Psychiater, Irrenarzt(19世紀)、alienistといわれる。精神病患者はinsane, craze, Irrer(19世紀)、Geisteskranker, psychisch Kranker, aliene(1838)と呼ばれる。
精神病は、insanity, lunacy, madness, Irrsinn(18世紀)、irresein(19世紀)、Psychose, alienatuon mentale, folieといわれる〔ラluna月,lunatic月に影響されて,ラfallis空袋〕。

精神分析 英psychoanalysis,独Psychoanalyse(1893 Freud)、仏psychanalyse

 心因反応では動機から今の病的症状が了解しうるごとく(意味を持って)現われるのであるが、精神分析では意識されない動機、コンプレックスcomplexを想定して、了解されない病的症状にまで了解を広げる。動機は放置されえず、正しく消化されて解消abreagierenされないとそれは当人に不満の苦しみを与えるので、間に合わせの解消をはかる。これはすべて無意識的に自動的に行われるので、防御機構defence mechanism, Abwehrmechanismusといわれ、想定された無意識の動機からの症状の出現は了解されるものである。間に合わせの解消によって現われるものは意識された神経症やヒステリーの症状、あるいは夢である。動機は無意識的なものの場合には了解性が漠然としていて、象徴的に意味づけられるやっとのことでの了解なので、これを解釈interpretation, Deutungという。神経症の症状から無意識の動機を解釈的に想定してその存在が納得され正しく解決されれば動機は解消されるが、このためには同じ動機から出る夢(動機の象徴的出現の意味で神経症の症状と同列のもの)を解釈したり、実験的場面での自由連想free association, freie Assoziation, association libreで動機の姿が知らず知らずに出現するのを発見したりする。症状は全部動機から象徴的に意味づけられ、人間のあらゆる行動も性格もこのように意味づけられる。根本的は動機は無意識の性欲エスid, Esで、これを社会的規範、超自我superego, Uberichが抑圧repress, verdrangenするのであるが、こういう力の作用も無意識に動く。意識的な心は自我ego, Ichとしてこの2つの力の間に左右される。
 性感は乳幼児には口、2~3才では肛門、4~5才では性器に移るというように段階的に発達する。このおのおのの時期に性欲満足が得られず、哺乳、排便のしつけ、父母との関係――性的関係、エジプス-コンプレックス――の欲求不満が、後年の神経症のもととなる。神経症の症状も性格の型も性的発達のある段階のあらわれと解され、その段階から発達しない、あるいはその段階へ逆戻りするのであると解される。患者のあらゆる態度は意味づけられ、治療者の態度も意味づけられ、患者が治療者に好悪の情を感ずれば患者の子供のとき親に抱いた感情の再生とし、治療者が患者に感ずる好悪も同様に解され、それぞれ転移transference, Ubertragung, transfert,逆転移counter-transference, Gegenubertragung, contre-transfertといわれる。
 精神分析の諸派はフロイト根本的動機としての性欲の代りに、権勢欲、創造的生命力、社会人間関係、世界内存在のあり方を持ってきてその破錠から神経症ないし、精神病の発生と内容を解釈する。

精神分裂病 英schizophrenia, 独Schizophrenie, 仏schizophrenie[ギschizo分裂する、ギphren心、Spaltungsirresein]

 古い時代から幻覚も妄想も錯覚も鈍感も鈍感無為も痴呆様状態も記載されてはいたが、1つの病気としてまとめられなかった。1856年にモレルMorelが早発性痴呆demence precoce、1868年にカールバウムKahlbaumが緊張病Katatonie, 1870年にヘッカーHeckerが破瓜病Hebephrenieを規定し、1896年にクレペリンKraepelinが今日の分裂病に当たる早発性痴呆dementia praecoxを規定し、主として経過によって定めたがそれでも13%は完全に治癒することを認め。また早発しないもの、痴呆といっても器質性痴呆とは違うことを認めた。1908年にブロイラーBleulerは精神の各要素が連絡がなくなることから精神分裂とし、それも複数の(病気はいくつもある)精神分裂の群Gruppe der Schizophrenienとした。ブロイラーBleulerは連合障害や両価性や自閉を基礎症状とし、幻覚や妄想や緊張症状は付随症状とした。クレペリンは症状を列挙分類するのみであったが、ブロイラーは心理的基本障害から他の症状を導こうとした。ヤスパースJaspersは心理的に了解できないものは病的過程プロツェスProzessによるとし(精神的過程psychischer Prozess)、これを脳の病気とはいわなかったが、多くの人は未知の脳の病気を想定した。シュナイダーSchneiderは自我障害Ichstorungが質的に違うもので分裂病特有のものとした。その後、心理的に根本的なものは自閉とされ、現実との生きた接触の喪失perte du contact vital avec la realite(Minkowski)、自己愛への退行(フロイト)、分裂性の世界内存在(ビンスワンガー)からの説明は、皆、自閉世界に陥った患者の反応として解する。患者は脳の機能障害により、あるいは積もり積った困難から退くために別の世界に陥る。この世界にいる者は正常の世界にいる者と正しい接触がとれず、自閉的で、話も行動も通じない。これは概念崩壊、支離滅裂、奇妙な行動となる。初めこういう世界に陥ると不安を感じ、世界破壊感となるが、この不安を軽くするために幻の対象が作り出され、それが幻の声、特別の意味の発見で、幻覚妄想となる。病気が進めばこの自閉世界に安住して、外から見ると感情意欲のない欠陥分裂病となる。精神分裂病には、独特の冷たさ、硬さ、奇妙さ、気心の分らなさがあり、これが諸種の精神活動の特徴となる。全般的にみれば分裂病くささ、接触の悪さ、不可解性、人格の崩壊、個々にみれば独持の幻覚と妄想、精神活動のまとまりなさ、感情の鈍さ、無関心、奇妙な行動、意欲の減退がある。感情意欲の減退の主なものは破瓜型、奇妙な行動の増減が主ならば緊張型、幻覚妄想が主ならば妄想型というように分けられる。このほかさらにこまかく型を分けることもできる。
 放置しても治療しても長い目でみれば1/3は治り、1/3は欠陥を残して治り、1/3は痴呆様の欠陥状態に陥る。これを痴呆Demenzといわず鈍化Verblodung, Verodung, Versandungといって情意鈍麻性痴呆様状態として器質性痴呆と区別する。病気の経過には浮沈があり、周期性、増悪Schub,寛解remissionを示す。頻度は人口の1%、毎年人口1万人につき15人の新しい患者が発生、20~30才に多く発生、各文化圏における患者の差は非常に少ない。遺伝性は両親が分裂病なら50%、片親が分裂病なら15%、一卵性双生児なら70%、二卵性なら10%位である。原因は不明(内因性)、物質的には自家中毒、自己免疫、性ホルモン不全、細菌毒、酵素不全、代謝不全(カテコールアミン、インドールアミン)、心因的には幼時からの精神的外傷、家族成員間の矛盾した関係(たとえばダブルバインド情況doubie-bind situation, Bateson, Jackson,親の言葉と態度に矛盾があって、子供には何の情報か分からず、どうしていいのか分からない)などが論ぜられる。
 分裂病という名称のついた種々の表現には、非定型分裂病atypische Schizophrenie(中核群Kerngruppeでない、分裂病にふつうみられない症状や経過を示すもの)、遺伝変性分裂病heredodegenerative Schizophrenie(脳の遺伝変性病と仮定されるもの)、潜在分裂病latente Schizophrenie(単純型分裂病schizophrenia simplex)、偽神経症性分裂病pseudoneurotic schizophrenia(1949 Hoch, Polatin,神経症様の分裂病)=schizose(Claude)、症状性分裂病symptomatische Schizophrenie(外因反応型としての分裂病)、体感分裂病cenesthesic schizophrenia, zonasthetische Schizophrenie, koenasthetische Schizophrenie, schizophrenie cenesthesique(1957 Huber, 体感異常と第三脳室拡大のあるもの)、悪性、致死緊張病pernicjose Katatonie, todliche Katatonie(Stauder,激しい興奮と重い身体障害のあるもの)、欠陥分裂病Defektschizophrenie(欠陥治癒Heilung mit Defektまたは重い痴呆様状態Verblodung)などがある。経過の悪い分裂病はSchizocarie〔cariesくさること〕(1931 Mauz)といわれる。

躁うつ(欝)病 英manic-depressve psychosis,独manisch-depressives Irresein, 仏psychose maniaque-depressive《感情精神病affective-psychosis,感情循環病Zyklothymie,循環性精神病zirkulares Irresein, psychose circulaire》[deressiveという代りにmelancholicともいう。

 欝(ユー)は中国語では郁を用いる。depressionはde下へ premo押し下げる、押さえつける意味、melancholyは ギmelas黒い ギkhole胆汁で、ギリシアの4つの体液humor, sanguis血, phlegma粘液, chole胆汁, melanchole 黒胆汁により、それぞれ血気、不精鈍感、かんしゃく、憂うつに当たるもので、こうして気質を定めたことによる]爽快と憂うつ、行動の増減(興奮と抑制、思考-言語行動なら奔逸と抑制)が対なす主症状である。内因性とされ、発病期Phaseと健康な中間期Intervallの長さはまちまちであるが、数週から数カ月のことが多く、躁とうつ(鬱)とは必ずしも交代せず、うつ病の方がはるかに多い。うつ病の憂うつは生気的vitalで、生気感情vitales Gefuhlの憂うつで身体あるいは器官の不調devitalization, dysvitalizationといわれる。このため身体病としての疾病感、身体的不調――仮面うつ病masked depression, maskierte Depression, depression masquee――が現われうる。
 躁病では爽快と興奮、うつ病では憂うつ(不安)と抑制が組になっているが、爽快と抑制、憂うつまたは興奮が組になれば混合状態mixed state, Mischzustand, etat mixteで興奮性抑うつ、不安躁、躁性昏迷などの形もありうる。更年期にはうつ病が起こりやすいが不安な落ち着きなさ、単調な歎きmoan, Jammern, geindreのある興奮がよくある。うつ病の自発性や活動の減少を無為abuliaといわないのは習慣である。またうつ病患者は分裂病患者より精神的に影響されにくい点で「自閉的」であるがこれも習慣上自閉といわない。うつ病が精神的情況によって誘発されると心因反応的に見れば、ストレス、根こぎ、実存、引越し、荷おろし、喪失、抑うつであり、体因・内因・心因が併せ考えられ、反応性のものより生気的vitalである場合には内因反応性気分変調endoreaktive Dysthmie(Weitbrecht)である。更年期うつ病というと内因性よりよけい身体側に近よる。うつ病の危険は自殺、躁病の危険は向こうみずなやりすぎと脱線行為である。mania, depressionは躁病、うつ病というべきときと、躁、抑うつ(状態)というべき場合とある。

中国の術語 英chinese terminology

 中国の精神医学の術語は、大体わが国と同じか似ているかであるが、ときに見当のつかないのがあるので、いくつか列挙する。妄念(妄想)、木彊(昏迷)、功能性(機能性)、昏迷(昏睡)、交談(面接)、快慰(色情)、定向力(指南力)、協識脱離(ヒステリー xieshituoli)、社会工作者(ソシャルワーカー)、逆境反応(ストレス反応)、退転(退行)、重複動作(常同)、工作隊(チーム)、病前記憶缺失(逆向健忘)、休克(ショックxiuke)、被議感(関係妄想)、浮客(フューグfuke)、移情(転嫁)、虚談(作話)、淡漠(無関心)、焦慮(不安)、答非所問語無倫次(支離滅裂)、稚語(言葉のサラダ)意念奔馳(観念奔逸)、疑病・臆想(心気)、遺忘(健忘)、躁郁(躁うつ、郁も鬱も発音yu)、灌食・鼻飼(鼻孔栄養)、蝋様捲曲(蝋屈)、依狄柏斬情叢(エジプトコンプレックス)、皮奈爾(ピネル)、布魯勒爾(ブロイラー)、克莱普林(クレペリン)、梅耶(マイヤー)、仏洛依徳(フロイト)、易装(トランスベスチチズム)、恋物(フェチシズム)、窺淫(ヴォワイエリズム)、淫児(ペドフィリー)、性冷(フリジット)、護士(看護士)、逃学(登校拒否)、自言自語自笑(独語独笑)、消魂(エクスターゼ)、控制(制止)、抽風(痙攣)。

ヒステリー 英hysteria, 独Hysterie [ギhystera子宮]

 心因性反応のある形のもので、はでな症状を呈するもの、神経症はしけた症状のもの。精神症状では意識障害が主で、このほか不機嫌、昏迷、偽痴呆、記憶喪失、神経学的症状には感覚や運動の麻痺、失調、植物神経障害がある、両者混合のものもある。ヒステリー発作は意識障害と痙攣で、精神的発作accident mentalともいう。生物学的にはもともとある原始的機構が心因反応のときに一種の防御反応として現われるものと考えられる。病気になって得をしようという下心tendence, 目的Zweck, 病気への逃避flight into disease, Flucht in die Krankheit, fuite dans la maladieが意識下にあるとされるので、目的反応Zweckreaktionともいわれる。ヒステリー性格というと顕示欲性精神病質のことで、人の注目の中心となるためには評判を落とすことも辞さないが、ヒステリー反応を起こす人は誰でもこの性格をもととするとは限らない。大災害や死の危険のときには誰にも起こりうる。
 ヒポクラテスは子宮に病のもとがあると考えた。中世には憑き物や魔法と関連したヒステリー現象が多く、狂躁状態Tanzwutは大舞踏病chorea major, ドイツ舞踏病chorea Germanorumといわれ、小舞踏病chorea minor, Sydenhamは英国舞踏病chorea Anglorumである。舞踏病chorea Sancti Viti[ギchoreiaおどり、Sanctus Vitus聖者ヴァイト]、Veitstanzは14世紀の流行病の狂躁状態で聖ヴァイトSankt Veitが救った。現在ではヒステリーは少なく、神経症が多い。
 器質性、症状性、内因性精神病にヒステリー症状が加わると、ヒステリー性重畳hysterische Uberlagerungという。ヒステリーてんかんHysteroepilepsieは両者の混合したものか、ヒステリー症状のあるてんかんをいう。てんかんがヒステリー性に起こることはあるまいとされたが、てんかんが精神療法的に軽減することは思いのほかよくあり、またてんかん患者はてんかん発作のほかにてんかんをまねたヒステリー発作を起こすこともある。側頭葉てんかんの患者にはヒステリー性格を持つものが多い。
 ヒステリー惹起点hysterogenic zone, hysterogener Punkt, zone hysterogeneはそこを押すとヒステリー発作を起こす点であるが、これは暗示で、どこでもよい。もとは卵巣部や乳房などを圧したが、そこに何か意味があると思われた(性的)。

ピネル Philippe Pinel(1745-1826)

 1793年にフランスの精神病院の改革、フランス革命の自由思想にのっとりビセートルで患者40人を鎖から解放したことが有名。ビセートルBicetre、次にサルペトリエールSalpetriereの院長となり、近代精神医学の基礎を築いた。精神病の分類は、マニー、メランコリー、デマンス(錯乱)、イディオティスム(痴呆)。精神病の医学哲学論Traite medicophilosophique sur l'alienation mentale, ou la manie. Paris, Richard, Caille et Ravier(1801)、第2版は1809年。第1版の英訳は1806年にDaniel Davis(1777-1841)によりA Treatise on Insanity, ディヴィスはロンドンの産科医でヴィクトリア女王をとりあげた。

分裂病基本症状 英primary symptoms of schizophrenia, 独Grundsymptome der Schizophrenie, symptomes primaires de la schizophrenie

 分裂病の診断に特に重要な症状や根本的な症状。ブロイラーBleulerの4つのA, Association(連合)、Affekt(感情空虚)、Autismus(自閉)、Ambivalenz(両価)が有名。このほかベルツェBerze, グルーレGruhle, シュナイダー Schneiderなどは一次症状Primar-symptomeや一級症状Symptome ersten Rangesをあげている。ミンコフスキーMinkowskiの現実との生きた接触の喪失perte du contact vital avec la realite など、今日において分裂病の根本障害を考えるときには、自閉Autismusの概念が最も用いやすい。ヤスパースは了解不能性、ベルツェは精神活力減退または意識緊張減退、グルーレは幻覚、自我障害、衝動障害、思考障害、言語障害、妄想を一次症状とする。シュナイダーの一級症状は主として自我障害である。ユングはコンプレックスの独立化、ジャネは心的水準の低下とする。

ミオクロニー 英myoclonus, 独Myoklonie, Myoklonus

 筋の一部、全体、筋群が突然不規則な間隔でひきつりを起こすが、体部のあまり大きな運動となるほどのことはなく、まもなくおさまり、また起こる。歯状核、赤核、下オリーブ核の細胞脱落があり、中毒、出産外傷、幼児の脳破壊、脳炎などによる。ミオクローヌスてんかんmyoclonus epilepsy, Myoklonusepilepsie, myoclonie epleptique(1891 Unverricht, 1903 Lundborg)は遺伝変性病heredodegenerative Krankheitで少年期に始まり大発作があり、そのうちにミオクロニーの発作となり、痴呆、虚弱に至る。これには炭水化物代謝障害のミオクローヌス体病Myoklonuskorperchenkrankheitによるものがあり、大きな神経細胞中にミオクローヌス小体、ラフォラの封入体Lafora's inclusion body, Einschlusskorperchen(塩基嗜好の中心と薄色の放射状の外側帯、ムコ多糖体)が網様系と錐体外路系、あるいは筋や肝にある。ミオクロニックてんかんmyoclonic epilepsy, myoklonische Epilepsie, epilepsie myocloniqueは小発作の衝撃小発作Impulsiv-Petit-Mal(Janz)のことである。

モニス Antonio Egas Moniz(1874-1955)

 これはペンネームで本名はAntonio Caetano de Abreu Freire. ポルトガルの神経医、1911年からリスボン大学、脳血管写の開発をし、ロボトミーを創始して1949年にノーベル賞(ヘスWalter Rudolf Hessと2人が1949年の医学賞)を受けた。

ヤスパース Karl Jaspers(1883-1969)

 1909-1915年ハイデンベルクの精神科、ニッスル(神経病理学者)の許で精神病理学研究、1921-1937年に哲学教授、夫人がユダヤ系なのでナチ下活動を禁ぜられ、1945-1948ハイデルベルク哲学教授、のちバーゼルに移った。1913年精神病理学総論Allgemeine Psychopathologie, 1946年全改定版。静的了解(現象学)と力動的了解と説明など、精神医学方法論の解明を行った。

ユーモア 英humour, 独Humor, 仏humeur [ラumeoぬれる、ラumor液]

 体液、ちょうどよい体液の状態、精神的な健康な調子。人間存在の不足を微笑で克服し、理想と現実の裂目の橋渡しをし、巨大な重大なことを人間の尺度にまで縮め、微少な反理性的なものにも人間としての意味を認め、人生の不完全さを認めつつそれを肯定する。ユーモアは皮肉irony, Ironie[ギeiroいう、つげる、ギeironeiaごまかし]よりも積極的であるが、鋭さがない。

両価性 英ambivalence, 独Ambivalenz 《両立傾向ambitendency, Ambitendenz, ambitendance》[ラambi両方の](1911 Bleuler)

 2つの逆な感情や欲求が同時にあること。愛と憎、引力と反発、たとえば性的な欲望と恥や嫌悪、出合いと分かれ、神と悪魔のごときで、分裂病によくある。1つの対象に関しては2つの逆の評価があるのであって、バラは花のために愛し刺のために嫌うというのとは違う。ダブルバインドdouble-bindの状況は子に対する親の両価的態度で、子供の情報受理を混乱に陥れ、交通ができなくなり、分裂病のもととなる(Bateson)。

("臨床精神医学辞典"、西丸四方著 1974、1985/2版、南山堂より)