脳と精神は如何に出会うか(脳と音楽の周辺)

川村光毅

1]はじめに
2]音楽傾聴と聴覚連合野
3]聴覚機能と視覚機能の類似性
4]演奏と前頭葉の活動
5]ゲシュタルトによる認識作用
6]情動の発現と大脳辺縁系
7]テンポとズレとその調和
8]おわりに

1] はじめに

 脳の高次機能は大別して、認知機能と情動機能に分けられる。サカナやカエルにも認知機構が備わっているが、高等な動物が高い認識能力を発揮できるのは、それに相応しい脳をもっているからである。ヒトが高いレベルの認知機能を発揮できるのは、言葉すなわち、信号を信号化したもの(パブロフの条件反射第二次信号系)を理解できる段階に達した脳をもっていることに基づく。感覚器官からの入力刺激を感覚的に認知することは広く動物一般に認められるが、刺激が視床から大脳皮質の第一(次)知覚野 (V1、A1、S1など)に達し、さらにいくつかのシナプスを介して連合野に達して初めてより高いレベルの認識がなされる。  大脳辺縁系、とくに扁桃体を中心とした情動機構についても、単に無条件反射的に反応するレベル(魚、両生類)から大脳皮質が関与する第一次信号系の条件反射的レベル、さらに高等哺乳類(とくにヒト)に備わった第二次信号系が関与する高いレベルまでの段階が存在する。すなわち、認知機構同様にあらゆる動物に、情動機構が備わっており、しかもその動物のもつ脳の発達段階に応じた発現の仕方がある。認識機構において、言語機能の有無により質的な相違がみられると同様に、一般に新皮質よりも"下層"にある辺縁系の働きに大きく依存すると見られている情動機構においても、それが言語機能と結びついたとき、発現形態に質的な相違が生じる。つまり、情動機能は高次の認識機構と結びついたときに、芸術や文学の分野において格段に高いレベルの機能が発揮される。  ヒトの頭頂連合野にある縁上回(40野)、角回(39野)は、感覚性言語野(ここの障害で感覚性失語症が現れる)や、観念性行為構築(ここの障害で失行症、失認症が現れる)に関与する領域である。統括的にまとめあげる行為に関係する皮質領域と言うことができる。視覚的には、絵画を描くときの全体的バランスの取り方や、物体を調和のとれたものとして認識すること、聴覚的には、音を(単)純音、さらに複合音、和音、協和音、調性、さらにその連続としてのメロディー、リズムをもった調和された響きとして認識することに関与する。また、言語活動における概念形成において、それが全体としてうまく働き総合的に調和のとれた思考の路筋をたどることができて初めて、人はコミュニケーションの内容を理解でき、正しく伝えられるようになる。このように視覚や聴覚の全体的調和、さらに押し進めて概念形成、思考伝達までを含めると、広い意味で具象化されたものとしてのGestaltが理解される。いわば、言葉(ロゴス)と情動(パトス)の調和/融合と呼んで然るべきものであり、造語を用いればLogopathos/Pathologosが醸成されたものとしてGestaltの概念を捉えることができよう。  この大脳皮質関連領域は、頭頂葉(体性知覚の連合野がある)、後頭葉(視覚連合野がある)、側頭葉(聴覚連合野がある)が互いに接している部位で、ここに知覚性の言語野が存在することは、認識の問題を論じる上で重要な視点である。  ヒトにおいて、大脳辺縁系と密接に関連している皮質領域、すなわち、前部側頭葉と眼窩面前頭葉−この2つの領域は鈎状束とよばれる皮質・皮質間線維によって強く結ばれている−と知覚性言語野が上縦束や下縦束という連合線維によってpolysynapticに密接に結びつけられている可能性が大きい。このことは、非常に重要な意味をもつ。すなわち、ヒトの脳では言語系(第二次信号系)条件反射が形成され得る条件に達しているということである。  以上、受動的脳活動を担っている後連合領野を中心に論じてきたが、情動機能と結びつきながら、能動的脳活動の座である前(頭)連合野(前頭前野、前頭葉)に話の中心を移すと、創造活動と動的表現の関わり合いの問題に入ることになる。

2] 音楽傾聴と聴覚連合野

 視覚系に比較して研究が遅れているが、聴覚領も幾つかの機能領域に区分される。すなわち、高等哺乳動物の大脳皮質において、視覚皮質がV1, V2, V3, V4, TEO, TE, MT, MST, ・・・と分かれているように、聴覚皮質もA1,A2,Ep, あるいは、core(AI, R, RT), Belt(CL, ML, AL), Parabelt(STGc, CPB, RPB, STGr)・・・(Romanski et al. 1999; Kaas and Hackett, 1999)に区別される。しかし、ニューロンレベルで検証するのはこれからで現在は仮説提唱の段階である。最近の研究によれば、視覚系認知に、点の表示と消滅、線分の認識、色の識別、運動方向選択性応答、四角形と三角形の弁別、対象物体の再認、ヒトの顔貌の認知およびその意味づけなど、一種の階層性が見られるように、聴覚系にも(単)純音から和音、協和音と不協和音、異なる調性と変調、フォルテとピアノ、そしてそれらの連続系としてのメロディーなど各々の質的に異なる性質をもった(神経科学の言葉でいえば、それぞれ個性のあるものに分化した)ニューロン群が特定の皮質部位にまとまって(多くの場合、柱状 に整列して)存在し、その結果機能的、形態的に独立した(特徴のある)幾つかの領野に区分される。これら多数のニューロン群は、皮質皮質間線維により互いに結合しており、この神経回路を活性化させることにより (能動的には演奏により、受動的には聴受により) その結合が強化される。そして、いわゆる低次から高次への反応形態をもったニューロン群に順次伝えられることにより統合されていく。このような反応の連続性の上に特徴を抽出されて確定された「個」が統合へと導かれていく。これらの過程が後連合野内で行われる。これらの脳内の形態的基盤が存在することにより、単なる音の羅列ではなく統一された連続的な響きとしての音の調べが、演奏者から聴衆にパトス/アフェクトとして伝達される。

 このように聴く側の立場として聴覚皮質域の階層性(この順序に従って大脳皮質内の興奮は伝達される)があり、ヒトの脳では聴覚連合野の後背部に隣接して知覚性言語野(受動性−与えられた言語を理解するという意味の−言語野)が存在している。また、この言語領野は視覚性連合野の前方域に発達している。このように音楽に関与する機能領域は脳の言語領域と密接に関連している。言うまでもなく言語を用いることにより概念化が可能となり、その理解はヒト脳で初めて可能になるもので、これはパブロフの条件反射第二信号系に属する脳の高次機能である。当然のことながら、音楽傾聴における脳機能の働きは、個人の当該領域の発達(先天的および後天的−教育、訓練、環境−要因)によって差が生じてくるし、この脳の機能上の差は個人の音楽への理解の差として現れてくる。ひとつの言語、ひとつの響き、またその連続性、統一性に多層的意味が内在していればいるほど脳の活動的機能の反映としてこの差は大きくなる。言語理解の多様性と結びついたこの音楽の多層的内在性の中から特定の意味を表現する際の特定のアフェクトが働きかけとして現れるのは、これまで述べてきた新皮質レベルの活動の基礎にある辺縁系に属する古い皮質や核集団(扁桃体や側坐核など)および視床下部や中脳ドパミン系を含む情動発現機構に起因する。すなわち、これら皮質および皮質下の機構を活性化させフル回転させるart / techne を習得したもののみが、この多層性を捉えることができる。

3] 聴覚機能と視覚機能の類似性

 空気中の音の振動は内耳の有毛感覚細胞内で電気的信号に変換され、その興奮は延髄・橋・中脳・間脳内を順次ニューロンを替えて聴覚伝導路を上行し終脳内の聴覚皮質領野(第一次聴覚野)において分析される。そして、そこでその振動数 / 周波数に定められた特定の高さの音が知覚される。その興奮は聴覚連合皮質内を段階的に、より「高次」の皮質域へと向かって進行する。音楽は単に音(響)の無秩序な集積ではない。旋律(メロディー)があり、和音(高さの異なる2つ以上の音が同時に鳴らされた音を和音という。また、一定の秩序に従って組み合わされた幾つかの音の集合体をいう)があり、リズムがある。複数の音を組織化し、モジュールをもたせ、時間的に構造化させている。

  このように聴覚領皮質のcore部分(A1; auditory core area, R; rostral core, RT; rostrotemporal core) は、各振動数に対応した単純な音を受け取る。Romanski et al., (1999)によれば、coreからmedial & lateral belts (CL, ML, AL) に興奮が伝わり、さらに lateral belt から parabelt へと進行する。そして、内容が高次化する。すなわち単純音から複雑音、和音、協和音、不協和音、メロディー、調性の流れや転換、テンポの緩急等々と発展する。これは点、線分、曲線、単純な形、複雑な形象、顔貌(表情)、動き、色、配色、二次元から三次元へと形象認知が発展する視覚系における階層的領域区分と類似している。

 最近聴覚皮質野の研究は注目されるようになってきたが、視覚皮質野の仕事がHubel and Wiesel (1965, 1968, 1969) の詳細な仕事に比べて、Merzenich and Brugge (1973) がmulti-unitのfield potentialを最初に聴覚領で記録したのが70年後期であるのをみても、10年以上も遅れている。Mountcastleら(1952, 1957, 1975)の体性感覚野における研究も視覚野に匹敵するほど早くから進展していた。

 このように視覚, 体性知覚, 聴覚の各皮質域内で区分された低次から高次の領域へと進行する機能域の存在が明らかになるにつれて、これらの3つの機能領野にかこまれた所に polymodal (多種感覚様態)に反応するニューロンが存在し、進化論的立場からみて、ここに知覚性言語領野(Wernicke) が発達してくることは注目に値する(川村、1970, 1973a, b, c, 1977)。つまり、この後連合領内のニューロンは種々の感覚様態に反応する性質を備えており、高次に信号化された情報を処理する領野と考えられる。

 第一次聴覚野(A1)から belt へ軸索が伸びているが、音(楽)との関連で言えば、幾つかの音が混在する22野 (belt, parabelt) では、雑音 (white noise) に反応するニューロンが存在することが知られている。ネコにおいてもA1域に種々の性質をもったニューロンが存在することが知られている(He ら,1999)。すなわち、音を聞かせたときの反応性をみて、tuningの幅がシャープなものから長いものまである。また潜伏時間(音を聞いてから反応するまでの時間)にも長短があり様々である。tuningの幅が広いもの、潜伏時間が長いものはA1域の背方域に多くみられ、A2域にはさらにこのような特徴をもったニューロンが多数みられる。また、サルの実験で、white noiseに反応するニューロンはA1域には認められない。また、同種のサルの(クウーという)鳴き声を聞かせたときA1では多くのニューロンが反応するが、そのテープを逆方向に回転させてサルにとって奇妙な意味のない声(楽)として聞かせると22野の中央部から後部域にあるニューロンが反応するという。もとに戻して仲間のサルのここちよい鳴き声を聞かせると、22野の前方域で扁桃体に結合をもつ皮質域に多くのニューロンが反応する。

 視覚系と聴覚系は中枢神経系内の種々の領域で重複ないし隣接している。Snider, Stowell, Eldred (1944, 1948, 1951) はネコ、サルの大脳皮質の視覚領や皮質聴覚領を電気刺激したとき小脳虫部の中央部(虫部葉VIIAと虫部隆起VIIB)から teleceptive impulse(化学物質が直接の受容体に接触して刺激する体性感覚や味覚や嗅覚に対して、視覚や聴覚のように媒体を介して間接的に受容体に働くインパルスをいう)の反応を得た。これらの反応は小脳の室頂核の尾部でシナプスを替えて中脳(上丘の深部中間部と下丘の外核と周辺核)に伝えられる。。これは小脳が関与するいわゆるvisuomotor (視覚性運動), audiomotor (聴覚性運動)の反応で動く視点や動く音源の同定に関係するシステムである。視聴覚系が動く視点や音源の同定に協同して作働している可能性がある。

 他方、認識系では、ヒト、サルにおいてもネコにおいても明瞭に区別された大脳皮質領域で視床からの視覚および聴覚の入力を受け二次、三次のニューロンへ伝達が進行したとき、深い脳溝(ネコでは中S上溝 MSS、サルでは上側頭溝 STS)で境されてその両壁皮質域に反応するニューロンが存在する。また、ネコの MSS 後部域やサルの STS のほとんど全域には、多種の感覚様態に反応する多種感覚反応性ニューロンが認められる。さらに、サルでは STS域を含めて後連合野から前頭連合野に広範囲に局在性の投射があり (kawamura and Naito, 1984)、前頭前野の弓状溝の前方域の前頭眼野の前方に隣接して、主溝の周囲域(とくに背方域)にかなり広い範囲に視覚性の空間的位置の認定に関わるニューロンが認められる。これらの視覚性位置反応ニューロンの周辺域には聴覚性位置に反応するニューロンが同定されている(Azuma and Suzuki,1984; Suzuki, 1985)。
これに連関して、たとえば、動く棒を見た時ある一定方向にものが動いた時に反応するが、軌跡は同じでも反対方向に棒が動いた時には全く反応しない視覚性ニューロンが視覚連合野に存在する。聴覚領内でも音が一定の周波数をもつ高音から一定の周波数の低音というベクトル方向が定まった連続音を聞いたときには反応するが、反対ベクトル方向の変化連続音に対しては全く反応しないという性質のニューロンが belt, parabelt 域に発見されている。

 ところでV4は色に反応するニューロンが発見されている領域であるが、それに相応する聴覚性のニューロンとして何んなものが考えられるか。存在が認定されれば、「響き」と言う鍵概念に迫れるものとして注目されてくるように思われる。

 次に下部側頭回の前方域を研究している Saleem ら (2000) のデータを考えてみる。視覚刺激は37野→TEO→TE と進行するが、TE域は扁桃体と相互に結合している。さらにこの領域は腹側線条体(側坐核と嗅結節)と結合している。側坐核や扁桃核は辺縁系に属し、また視床下部へは扁桃体から分界条という名称の線維束が投射しており、その他に、扁桃体腹側遠心路が分散性に側坐核や視床下部に投射している。これらの神経路は本能的行動誘発および意欲・情動の発現に関与すると考えられる。

 TG野( 22野の最前部)は聴覚連合野に属しているが、扁桃体との結合もみられることから聴覚系の感情表現に関連する領域と思われる。このSTS周囲の皮質域は1970年代に川村( 総説、1977, ほか)が詳しく調べた領域で、後背部は言語系に、前腹部は情動系に、また、中央部を含めて全域的に多種感覚性ニューロンが存在し、数種の感覚様態の入力が集中するところである。また、この皮質壁の領域は前頭前野に局在性をもって出力連合線維を与えている。さらに、STSの背側(または上側)壁には体性知覚や味覚からの興奮も入ってくる。また、この領域は、体性知覚連合野( 5野,7野) と、さらに興味深いことに島域との結合が証明されている。

 前述したように、この側頭連合野に属するTG域やTE前方域皮質は鈎状束と呼ばれる両方向性の連合線維によって、前頭用葉眼窩面皮質(OF, orbitofrontal cortex)と相互に強く結び付けられている。これらの皮質 (TG,TE,OF) はともに扁桃核と密接に相互結合をもっている(Kawamura and Norita,1980)。つまり、後連合野の扁桃体関連皮質領野と前連合野の同類領域とが相互に結びついている。実際の所、前連合野から後連合野へ向かう成分は、反対方向の成分に比べて少ないが、その殆ど全部がこの鈎状束を通るもので、この皮質皮質間の投射成分は無視できない重要な構成である。最近、宮下グループ (Hasegawa et al., 1999) は、特定の連合線維路に障害を加えるという実験を施行して、鈎状束を通る前連合野から後連合野への投射成分は記憶の想起に関係することを明らかにした。ここで注目したいことは、感覚性言語野と結びついた受動的な情動表現/認識が、運動性言語野と関わりをもつ能動的情動行動と結びついて、その結果この前頭前野内で「組みかえ処理」がなされ、ついで前補足運動野に伝えられ、意欲に関係のある帯状回(帯状皮質運動野前および後部)との結びつきをもった補足運動野、腹側および背側運動前野に興奮がシナプスを替えつつ伝播する。この一部は随意運動を司る一次運動領へ入力し、そして錐体路系を作働させる。他の大部分は皮質の広い範囲から皮質下の運動系組織である線条体へ投射する(動物が高等になるにつれて運動系関連皮質以外のところからも線条体に投射するようになる)。この線条体運動系は他に小脳系、網様体系の"不随意運動系システム"をも含めて錐体外路系と呼ばれ、全体的なバランスを統御・調節的に司るところである。言葉をかえて言えば、「運動系のGestalt 機構」と言えるところであろうか。

 視覚系の背側および腹側神経路(dorsal and ventral pathways)(Goodale and Milner, 1992) になぞらえて、最近の興味深い仮説として聴覚系でも後連合野から前頭前野へ興奮の流れに背側および腹側神経路を相当させて、各々、「where」と「what」の機能を推定している(Romanski et al. 1999)。すなわち、視覚系について言えば、外側膝状体から第一視覚領皮質に達した視覚性興奮は、 17野から 5野、7  野へと向かう背側路と、17野 からTEO,TE,TG域へと向かう腹側路と二つの皮質内経路を通って段階的に進行することが知られている。空間知覚とかかわる視覚認知路(where course)と丸・三角やさらには顔貌の表情の認知などに関わる視覚情動路(what course)とも言えよう。Romanski et al. (1999)は、聴覚系皮質にも視覚領と同様な形態・機能上の構成を一つの仮説として提唱している。

 ここで大脳皮質における聴覚と視覚の問題を論じてみたい。メロディーや楽曲など動く音(それぞれが個々に特徴をもった音素は断続したものである)の連続性を時間的に保持させるメカニズムが聴覚皮質において、あるいは、聴覚系組織のなかで、どのように働いているのか。また、物体(視覚対象)の空間的に切れた線分や切れた絵画の要素を空間的に連続的にさせるメカニズムが視覚系組織においてどのように働いているのか。
なぜなら単なる音素の結合や単なる線や点の結合だけでは音楽たり得ず、また、絵画たり得ない。鑑賞者(すなわち受動者)の場合でも音楽や絵画おいて、音(素)や形質(素)を相対的にゲシュタルト的に組み上げてまとめ上げる過程(プロセス)こそが芸術を作る上で大切なことである。
まず、聴覚皮質における音の形質とその発展的プロセスについて考えてみる。先に触れたように聴覚領皮質に達したインパルスは、A1/core(AI, R, RT)→medial & lateral belt (CL, ML, AL)→parabelt (STGc, CPB, RPB, STGr) と進行し、後連合野皮質内で、ニューロン活動に対応して音の質(テンポ、音色、ピッチ、和音、協和音など)が形成され、変革され、消去され、また、再構成されるというように変化すると考えられる。これが鑑賞ないし聴受の際に脳内に起こるプロセスではないだろうか。



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図1 大脳聴覚皮質内の形態・機能上の区域間の情報伝達経路を示す模式図。Kaas and Hackett, 1999より。


 これに対して、より詳しく研究されてきた視覚系の方はどうであろうか?区分としては、V1、ついでV2,V3,V4,MT、その他にTEO,TE,さらにPG(これは頭頂葉皮質に属する)などに区分される。PG野は本来体性感覚連合野として知られている領野で視覚系の背側路が前頭前野に向かう領域である。また、ここは体性知覚と視覚とが結合した機能、すなわち立体的認知に関係する。視覚性特徴抽出ニューロンの種類としては、色、動き、texture(物体表面の粗、緻などの感じや、手触りなど)、明るさの性質、また、点、縁、隅などの形態に反応するものが存在する。また運動の方向性シグナルはV1で最初に得られるが、MT (middle temporal visual area) ニューロンの90%が刺激の方向と速さに著しい選択性を持っている。MTはPGに,さらに前頭前野(主に背側運動前野)へと背側路を送る。他方V1−V2−V3−V4−TEO−TE、さらに前頭前野(主に主溝腹側部)へと腹側路を送る。
また、V3A(static disprity, 静的視差、stereopsis) →CIA(手の形、向き、方位) →AIP;
   MT(MST) →7a,VIP,LIP の流れがある。

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図2 視覚関連領野の情報伝達経路を示す階層ネットワーク。Ungerleider and Desemone, 1986, より。


 Goodale and Milner (1992) は、背側の流れは視覚−空間認知 ("where" 何処) (後にGarwi らにより"how", 如何に、とされた)に関連し、腹側の流れは対象認知 ("what" 何) に関連するとの見解をもっている。そしてさらに情動と深い関係をもつ。これら後連合野におこる視覚認知・認識は多様性に富んでおり、連合線維の働きによってニューロンレベルで多様の組合せが成立し、調和した活動が起こったとき、object(人物、風景)が描かれる下地が準備されたということになる。
ここで後連合野から前連合野への皮質皮質間投射についてまとめてみると、5野からは弓状溝上枝に隣接した背側域(背側運動前野)へ、PG (7a proper) からは前頭前野の内の主溝を含んでその背側域(46野)へ、TE(下部側頭野、IT)からは前頭前野の腹側域(12野)へ連合線維を送る。また、頭頂間溝壁(IPS)内のAIP からは腹側運動前野へ投射する。それぞれの投射系はそれぞれ機能的な特徴を備えている。すなわち、背側路 は、背側運動前野(6野) という一次運動野(4野) の前方に接した運動関連域に直接投射するが、腹側路 の終止域は 10野 ( 一部 45野) に相当する非運動野である。これら後連合野からの多種のmodules がそのまま能動的性格を有する運動系に送られてしまうとすると、おそらく個々の行為がばらばらとなり、まとまった形の行為(action)は成立しないであろう。しばしば論じているように、前頭前野を介する神経回路を経て運動系に高次神経活動が伝達されると言うことは、それらのmodule/informationが能動的発現をするに際して、その前段階で前頭前野内で組みかえられ、"reduction"を受けるという、行動への意味づけをする上に必要な converter の役割を演じているものと思われる。
われわれが絵画や彫刻を鑑賞するとき、そこに表現された概念や思想を、具象的にしろ抽象的にしろ、理解しようとする。この際の脳内活動は、視覚性言語、つまり文字の認知に近いもので、主として角回で行われる。さらにむずかしい解釈であるが、高度な視覚信号の"音楽的"認識(音階、音程、ピッチなど)である楽譜の読みとりというものがある。これは視覚と聴覚との接点であり縁上回を中心とするWernicke areaと思われる。
このように、受動的鑑賞に限っても、音楽的性格と絵画的性格とは相似かよった点があると思う。脳の機構の上でも視覚系同様聴覚系にも背側路と腹側路の存在する。これらは上側頭回から直接に、または上側頭溝を介して間接的に前頭前野に投射しており、背側路は眼球運動やワーキングメモリー(作業記憶と訳されているが判りにくい。状況に応じて適切な情報を取捨選択して一時的に保持して操作して処理する認識機能を言い、運動−行動−に導くもの)の空間的タスクの遂行に関与し、腹側路は物の同定や情動に関与しているという (Goodale and Milner, 1992)。視覚系におけると同様に、聴覚系にも背側および腹側神経路が存在する。この際かなり視覚と聴覚の神経路は似かよった皮質・皮質間投射系をもっているように思われる。そして聞きことばの認識、すなわち、原始感覚性言語野 Wernicke も包含されて、背側の流れは主溝より背側へ腹側の流れは主溝より腹側に投射する(サル)(川村、1977)。
脳内に存在する視聴覚間の類似性と補充性は、以上のように、小脳運動系にも大脳認知系にも認められる。これまでの論旨の道筋としては、音楽と美術/建築との間には、同一性とは言わないまでも、かなりの類似性がみられ、それは、視覚に映る調和=聴き取られる調和という関係が、自然が備えている数的比例の響きの調和と一致するものとして領域的近似性として捉えられよう。

4]演奏と前頭葉の活動

 前頭前野が関与する能動系発現の問題を取り扱う。すなわち、絵画を描き、音楽を演奏する際の運動系の働きである。視覚系において、演劇を観る(ものの動きをみる)ことと、聴覚系において、音楽を聴く(音の流れ、動きを聞く)ことは、どう関係づけられるのだろうか。演劇や音の響きとして捉えられる運動に内在する秩序、これらの運動を支配している「調和」のとれた秩序を人は心に思い留めることができるのであろうか。「本能」と称するものが、この「調和」を感じうるのであろうか。そうだとすれば、それは脳の作用であり、それを感知し得る能力の構造的基盤が必ず脳に存在するからに他ならない。

 視覚系も聴覚系も体性感覚(触、圧、痛、温、冷覚)系も、各々の特殊な視床核から入力をうける第一感覚野から後(皮質)連合野内(各々、後頭連合野内、側頭連合野内、頭頂連合野内)を段階的に興奮が進行したのち(形態的には連合線維により)、背側の流れと腹側の流れを作って前頭葉に刺激信号を送っている。

 前頭葉はしばしば触れたように、能動的活動を発揮させる領域で、広義の運動系すなわち自発性を計画し、命令し、実行させる脳の領域である。
Charvis and Pandya (1976)は、視覚(V1,V2,V3)、聴覚(A1,A2,A3)、体性感覚   (S1,S2,S3) から前頭葉への投射域をサルで調べた。そして第1連合野(V1,A1,S1)、第2連合野(V2,A2,S2)、第3連合野(V3,A3,S3)からの終止域を弓状溝および主溝の周囲部で詳細に調べた。その結果、以下のようなデータを得た。すなわち第1連合野からは弓状溝の前方周辺部にまとまって終わり、また、第2連合野からの投射も弓状溝の周囲にまとまって終止するが、第3連合野からの終止域はもっと前頭前野の広い範囲の領域に分散して認められる。この意味づけは難しいが、この3つの主要感覚系の後連合野から前連合野への入力、すなわち、受容から能動への変換の第一ステップを集合と分散の形態として見てみると興味深い。

 それにしても4野, 6野の運動系領域へは後連合野から全く投射がみられないことは注目に価する。以下にみるように、後連合野からの直接入力が終止する前頭葉域から、幾つかの段階を経て、一次運動野に興奮が伝えられるのである。一方、サルの一連の大脳皮質―線条体結合の仕事をまとめてみると、主溝を中心としたその周囲領域からはもっぱら尾状核に、その背側(6野, 前頭前野)や眼窩面に近い腹側野からは尾状核と被殻と両方に投射しており、第1運動野、体性感覚野を中心とする領野からはもっぱら被殻に投射がある。その他に頭頂葉(尾状核と被殻両者へ)や側頭葉(特に尾状核へ)などの広い領野からも線条体に投射する。

 線条体については電顕を用いた微細構造の研究などはかなりの成果が挙げられていたにもかかわらず、かなり前まで、神経回路や機能的な研究、まして発生学的研究については遅れていた。すなわち、大脳皮質や黒質から入力をうけ、視床や淡蒼球・黒質に出力を与える前脳内の構造物で運動の調節や統合に関係しているという類の大雑把なものであった。線条体は細胞構築上不均一でモザイク状を示し、アセチルコリンエステラーゼ(AchE)に濃染する部分と淡染する部分からなっている。前者が matrix compartment、後者が patch compartmentとよばれる区画である。Patch は striosomes とも呼ばれ、matrix によって糸巻き状に囲まれた複雑な配列をしている。霊長類では patch/matrix の境界は明瞭でNissl 標本でも分かるが(サル)、鳥類や爬虫類では不明瞭である。発生学的にはラットでは、胎生13〜15日(E13〜E15)で patch が形成され、E18〜E20で matrix が形成される。黒質からのドパミン含有入力が最初の patch 形成に強く関与するといわれている。入力としては、古い辺縁皮質関連野からは主に patch に、新皮質からは主に matrix に、また、ドパミン投射に関しては、中脳の腹側被蓋野(VTA)、黒質緻密質(SNc)の背側部からは matrix に、SNcの腹側部と黒質網様部からは patch に投射している。なお、腹側線条体に投射するVTAのドパミン細胞はコレチストキニン(CCK)、ニューロテンシン(NT)を含有する。また、神経伝達物質や受容体の分布にも patch と matrix とでは差が認められる。しかしながら、線条体を発生学的知見に基づいて動的に解釈しうる研究段階には達していない。

 再び大脳皮質の問題に戻るが、大脳の後連合野からの多種感覚性の刺激が入力する皮質域は運動性の言語野およびその周辺に発展する領域と考えられる。言語表現能力を備えた領域ないしその近傍域でいわゆる音や形象の「組みかえ」がなされ、音楽の演奏となり、絵画の創作表現へと発展するのであろう。別の表現を借りれば音や形の内容が解釈され、その結果が自発性の発露となって表現されてくるのである。
フローチャート式に書けば、感覚野→後連合野→前連合野→高次運動野→第一次運動野という図式になる。高次運動野とは、この十数年 Evertz や丹治らにより研究されてきた領域で、運動前野(6野もっと詳しく云えば6DR, 6DC, 4C, 6Va, 6Vb)、補足運動野(内側面6野)、帯状皮質運動領が含まれる(丹治、1999, を参照)。

 運動前野は、6野に相当する領野で背側と腹側に2分され少しずつ違った働きをすると考えられている。6野の前方の8野は前頭眼野と呼ばれ、眼球運動の発現と調節に関与する。内側面の帯状溝より背側にある部分で6野に相当する領野は補足運動野と呼ばれ、またその前方に前補足運動野がある。これらとは別に帯状溝に埋まった領域に帯状皮質運動野が存在する。これらを総称して高次運動野と呼んでいる。すなわち第一次運動野(4野)以外の運動野をこのように呼ぶ。

 現在、サルの実験から種々の運動領について明らかにされているが、これらを簡潔に下にまとめておく。
○前頭前野:物体の認知→動作への変換→運動のサブプログラム形式→筋活動の出力司令。
○補足運動野:Penfield and Welch(1949)によって発見された。領域的に区分され、下肢、体幹、上肢、顔の動きを電気刺激で誘発できる。欠落徴候として、強制把握とか、動作の順序の組み立て障害がある。
○前補足運動野は前頭前野から入力をうけるが補足運動野はその入力をうけない。

 音楽作品に内在する「表現」は、それを演奏者が"運動"することによって成立する能動的表現と、それを聴くことによって伝達される受動的表現との2つの面に分けて考えられる。後者の受動的表現については、前項で論じた。ここでは聴受におけるアフェクトに対比されるものとして、前者の問題、すなわち、演奏におけるアフェクトの問題に焦点をあてて考えてみたい。
ここで脳研究者として、@情動と運動との関連について、また、Aそもそも脳の機能として、運動とは何を包含するものか、という2つの問題について考えてみたいと思う。

 そもそも運動とは何であろうか。大脳皮質一次運動野が興奮することにより、その第5層の大型錐体細胞からの神経突起内の電気的興奮が下行性投射神経路を通って、脳幹にある脳神経運動核ニューロンおよび脊髄にある前角運動神経細胞に伝えられ、その活動が身体の筋肉を随意的に動かすという古典的「錐体路系」という神経投射路がある。しかし、人はいつも随意的な運動にだけ支えられているわけではない。身体全体の運動系を調和させ、統御し、運動を円滑ならしめる機構が存在するはずである。前脳(終脳と間脳)が未発達の動物にもすでに、環境に働きかける上で必須の基本的なシステムが能動的作用として備わっている。それはいわゆる「錐体外路系」といわれるシステムで、あるものは小脳を中心とした回路、他のものは大脳基底核を中心とした回路(網)、またあるものは脳幹網様体や脊髄を中心とした運動系の回路と言われるものがある。この「錐体外路系」は動物一般に基本的な形態的基盤を提供するもので、「錐体路系」よりも系統発生的に古いシステムである。
さらに、呼吸、循環、発汗、消化、食欲、性欲などいわゆる植物性機能に関係する自律神経性の運動がある。この自律神経系は交感系と副交感系という互いに拮抗する機能をもつ二つの系統から成っており、これまた動物に本来的に備わっているシステムである。そして、大脳辺縁系を中心とする情動系回路と形態的にも機能的にも密接に結びついている。下等動物を含めた動物には以下のような機構が備わっている。すなわち、脳幹レベルにみられる呼吸、循環、唾液分泌、性機能、食欲中枢、意識、睡眠に関係する自律中枢および視床下部、下垂体、さらには扁桃核、海馬を連絡する情動・記憶のシステムや副腎皮質、甲状腺、性腺を含むホルモン調節系が存在する。さらに、前脳が発達して動物が高等になると、大脳基底核、大脳皮質、とくに新皮質、その中でもとくに前頭葉皮質が著しく発達してくる。

 このように、動物の発達史にそってみると、脳機能は高次化していく。皮質連合野について言えば、後連合野がはじめに機能を発揮し、その次の段階で、動物間のコミュニケーション、協同作業を中心とする労働、それに加えて、道具を使用することを可能にした環境(自然)への能動的働きかけなどの協同社会体制の中で、前頭葉、とくに運動性言語野を含む前頭前野が発達してくる。内側面には中古皮質に属する帯状回(とくに前方域 24野)がある。サルが環境条件を変えられたとき、自分で新たに適切な課題解決を考え出した時のみ報酬を与えるとういうパラダイムを施行させて、「意欲」に関する研究を行ったShima and Tanji(1999)の実験により、その際に特異的に反応するニューロンが、帯状回運動関連域で見出されている。ここは外側面の前頭前野域との相互連絡を有する領域で意欲に関係する領域と言われている。なお、帯状回や前頭前野には中脳VTA域からのA10 ドパミン投射が密に終始する。このように前頭葉にも意欲、情操、道徳、運動などに関係する異なる機能をもった皮質域区分があり、この領域が障害されると運動性麻痺、運動性失語、自発性(あるいは運動性)低下、情緒不安症、などいわゆる能動性機能の障害に相当する種々の症状が現れる。

 ここで視床から大脳皮質第一感覚野に到達した電気的な神経細胞の興奮が運動野に達して能動的行為を起こすまでの過程を簡潔に整理しておく。動物の感覚器官として嗅覚と味覚は重要で考察を欠くことができないが、−とくに嗅覚刺激は扁桃体に入力し、海馬も含めた大脳辺縁系と深い関わりをもっている− ここでは視覚系と聴覚系に限って論を進めることにする。網膜の錐体細胞と杆体細胞および内耳にあるコルチ氏器官の有毛細胞という感覚細胞が各々外界からの視覚的および聴覚的刺激を受容し、電気的興奮が生じ、いくつかのシナップスを替えたのちに間脳の外側および内側膝状体に伝達される。そこから視覚および聴覚の興奮は同側性に視床皮質線維を通って第一視覚領および第一聴覚領に伝わり、この大脳皮質の分析器(パブロフの用語)で最初の処理(認知作用の第一歩)が行われる。

 上述のように、視覚領においても、聴覚領においても、そこに存在するニューロン群は特徴ある個性をもっており、多数の細かい領野に区分されている。このように皮質レベルで形態学的に区分されていても、必ずしも機能的に解明されているわけではない。われわれは現在ニューロン活動を実験的に調べる手段を得ているので、その機能類推を安易に受けれることなく、科学的に検討し、実験データの上に立って考察することが要求されている。

 ここでさらに考察すると、両感覚系には、@頭頂連合野を経由して前頭葉の背側運動前野に向かう興奮の流れ(背側経路)と、A側頭葉前部を経由して前頭前野の主溝に接する腹側域(10野)に向かう興奮の流れ( 腹側経路)が霊長類(サル)の脳で存在し、視覚情報はこれらの2つの経路にわかれて処理されることが知られている (Ungerleider and Mushkin, 1982)。背側経路は自己を中心として (egocentric) 物体(視覚的又は聴覚的対象)がどこに (where)、どのように (how) 配置されているかという、視覚刺激の空間位置の情報を処理することに関与している。他方、腹側経路は、視覚的または聴覚的事象が Gestalt (形や色;旋律や音色、別項で詳述する)としてどんなもので (what)、どんな意味ないし評価がなされるかということに関与している。勿論これに単純な説明を下すことには相当な無理があるだろう。このプロセスを通じて視覚系では、単純な形(点とか線とか)から複雑な形象を認知し、色彩や動きなども加味されて情動的な視覚反応も示すようになる。視覚系のヒエラルキーの機能現象論と考えておく。同様に、聴覚系にも振動数に対応した(単)純音、基音から、複合音、(協)和音、不(協)和音、メロディー、ハーモニー、さらに、リズム、ピッチ(これは、脳幹、小脳レベルの事象が大きく関わる)の問題も入ってくる。音の長さ、音と音との間の間歇(休符)、音階を伴った動的働き、リズム等々。これらは、小脳の半球後部が関係しているという(後述)。また、小脳虫部中央部は視覚・聴覚の動く物体の認知に関係していることが1940年代からSniderら(1944, 1948, 1951) の研究により明らかにされている。

 興味あることは、egocentric perceptionに関わりのある背側経路が、第一次運動野(4野)への直接投射はないが、4野と強い結合関係をもっている運動前野に投射を持していることとと対照的に、Gestaltや情動の処理と関わりのある腹側経路は4野や6野などの運動関連領域に直接投射することなく、その前段階として規定される前頭前野(皮質)の10野に投射していることである。

 視覚系についても、聴覚系についても、後連合野で受容し、処理された上述の情報が、目的行動(演奏や彫刻)に進行されるためには、適応的な行動(運動、動作)をする必要がある。その意味で視覚および聴覚の後連合野から前頭葉への2つ投射経路を考察することは重要で興味あることである。

 まず、「背側経路」について。頭頂葉と運動前野のニューロンを調べてみると、類似した応答特性をもったニューロンが両域で存在していることが知られているいる。従って、背側経路の空間情報は比較的"ダイレクト"に運動の企画(プログラミング)に利用されているようである(Wise et al., 1997)。視空間、音空間から運動空間への写像変換(conversion)がこの経路を用いて比較的容易に施行される。その運動を行うための視覚情報処理経路と考えられている(Goodale and Milner, 1992)。

 次に、「腹側経路」ついて述べる。この経路は、視覚および聴覚の情報が側頭葉前方域に伝わったのち、鈎状束を通って前頭葉の(少なくともサルの段階では)主に前頭前野の腹側部あるいは腹外側部に投射する。この経路で運ばれる"Gestalt"(形象、全体的ハーモニー、色彩、音色も含めてこの用語を使用することにする)の情報は、背側経路で運ばれる空間情報と比べると運動情報との関係は直接的ではなく、比較的独立しているようにみえる。そして、複雑な情報を伝達していると考えられる。視聴覚刺激が運動情報に変換される前に、前頭前野の前頭葉腹(外)側部(10野)のニューロンを発火させて、情報を処理し、それを運動系に伝達させるという方式を脳はとっているのである。

 視覚系でこの問題を研究している坂上ら(1999a, 1999b)によればこの前頭前野のニューロンの約半数は、視覚刺激に対して短い潜時(100ミリ秒前後)で発火活動を変化させるという。しかし、その応答は、色や形といった視覚刺激の物理的な特徴ではなく、視覚刺激がどのような行動を指示しているかを反映するものである(筋運動そのものには応答しない)。このような情報を"behavioral significance (connotation)"(行動的意味)と呼ぶ。感覚情報でも運動命令でもない、その間を媒介する「意味の表象」である。前頭前野腹外側部においては、この「意味の表象」は、少なくとも視覚情報との関係では、「腹側経路」の出力に基づいたものとなる(Sakagami and Tsutsui, 1999a)。色や形といった視覚情報は、空間情報と異なり、特定の筋運動と結びつく必然性はない。逆にいえば、特定の情報を行動に結びつけるために、学習が必要となる。事実、前頭前野の「行動的意味」をコードするニューロンは、学習によってその活動を、より適切な刺激―反応関係を反映せる方向に変化させる(Asaad et al., 1998)。よって、前頭前野腹外側部からの出力は、もはや感覚情報ではなく、運動プログラミングに利用可能な翻訳された行動情報として、運動前野や補足運動野に送られる。

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図3 視覚、聴覚の皮質内伝導を示す模式図。後連合野と前連合野を結ぶ背側経路と腹側経路、および運動関連領域との関連を示す。


 以上述べてきた2つの視覚情報処理の経路と前頭葉の関係をまとめると、3図のようになる。長期にわたる学習の結果、すばやく感覚―運動の情報変換が行われるようになった頭頂葉−運動前野系によって準備された運動の候補を、下部側頭葉−前頭前野腹外側部系が、その場その場の状況に即した形で取捨選択していくことにより、より適応的な行動選択を可能にする、という図式である。最近、この図式が視覚以外のモダリティー、すなわち、聴覚のモダリティーにも当てはまるという研究もでてきた(Romanski et al. 1999)。

 坂上らは、ニホンザルに、異なる色や形の組合せからなる複合視覚刺激を使った、go/no-go反応タイプ(ある状況(条件)下では行動をgoせよ(行なえ)、また他の状況(条件)下ではno-go(行なうな)というタイプの実験パラダイム)の選択的注意課題を学習させ、その課題遂行中に前頭前野のニューロン活動の記録を行った(Sakagami and Niki, 1994)。この課題では、サルは、色に注目するときには、形を無視して、たとえば、緑色が提示されたときには、go反応を、赤色が提示されたときにはno-go反応を行う。形に注目する場合には、○でgo,+でno-go反応を行う。組み合せによっては、たとえば赤い○は、色に注目するときには、no-go反応を意味する刺激になるが、形に注目するときには、go反応を意味する刺激となる。前頭前野腹外側部の「行動的意味」をコードするニューロン、たとえば、go反応を意味する刺激に強く応答するニューロンは、この刺激に対して、サルが形に注目しているときには、発火活動を上昇させるが、注意を色の次元に切り替えると、即座に発火の上昇は見られなくなる。発火活動の変化は、明らかに視覚刺激の呈示に同期しているのに、注意の文脈の変化で同じ刺激に対する応答が逆転してしまう。このことは、前頭前野腹外側部のニューロンが、単に個々の刺激−反応関係の「行動学的意味」をコードしているだけでなく、複数の刺激−反応関係を包含・制御するルールを実現するようなネットワークを形成していることを示唆する。

 このように脳の機能をみたとき、狭義の運動は随意的なものであるが、広義の運動は情動や意欲を含めた能動性機能と見なすことができる。この視点に立って演奏における運動とアフェクトの問題をみてみることにする。

 能動的 logos の座であるBroca言語野を含む前頭前野と、受動的 logos の座であるWernicke言語野は連合線維により結びつけられており、各logos野の近傍の前頭葉下部(眼窩面皮質)と側頭葉前方部はそれぞれ投射線維系により辺縁系(扁桃体、海馬傍回)と結びついている。このように、passiveおよびactiveなlogosとpathosの座である皮質連合野と大脳辺縁系が相互に密な関連性を形態的に有していることは注意すべきである。ここで、重要な点は、後連合野内で処理された興奮(=脳の活動)が、狭義の運動野である一次運動野(4野)に直接に伝達されるのではないことである。皮質皮質間結合の研究結果によれば、一旦、運動性言語中枢近傍の前頭葉皮質でシナプスを形成し(ニューロンを替え)、この"仲介域"で「組みかえ」(pathosとlogosとの質的向上を含んだ相互浸透)を起こしたのちに、運動系皮質域(補足運動野→前運動野→運動野)に伝達されるのである。感覚性の認識が情動と結びつき、その合体が直接的に動物の運動系を働かせるという方式をとらずに、生物体にとって外界の情報が集約される最高機能をもつと考えられる前頭前野における処理を介して運動系にを活性化させるという方式をとっている。情動機能の発言は扁桃体または側坐核からの入力により、また意欲の衝動は帯状回(とくに前方域)からの入力により、維持されている。この際、視床下部や中脳からのぺプチドやドパミン系からの入力が加味される。この経路を通った後に広義の運動野が活動してはじめて演奏におけるアフェクトの関係が了解される。この際、重要な役割を演じているのは、先にみた小脳の学習機構と共に、線条体の運動調節統御、バランス的・全体的・ゲシュタルト的な役割であろう。
この際注目したいことは、ネコのレベルでは、皮質‐線条体(尾状核と被殻)路の起始領域は前頭葉の運動関連領域(主として 4野と 6野)に限局されているが、サルの段階になると前頭葉の主溝周囲および腹側部や頭頂葉、側頭葉、17野を除く後頭葉、さらに内側面では帯状回前部を含んだ皮質域に広がっている('70−'80年代の研究で明らかにされている)。この皮質線条体投射は単なる純粋な運動に関係しているのではなく、能動性の総合的、協調的な運動機能を動物が発揮する上で重要なシステムであることから考えて、ヒトでは、ほとんど全皮質域から線条体への投射が発達していると思われる。

 これまで大脳基底核、とくに、線条体の細胞構築と線維連絡の概略について述べてきたが、ここで視点を変えて、大脳基底核・視床・大脳皮質を神経回路のシステムとしてみた時、どのような意味が付加されてくるかについて考えてみよう。Alexander et al. (1986) は、以下に述べるように複雑な神経回路網を整理して、このシステム回路は、形態、機能ごとに並列的チャンネルを作っており、個別的、並列的な情報処理 (parallel processing) をする場であるという概念を提示した。この大脳基底核−視床−皮質系の線維連絡は、閉鎖回路を形成し、運動系、連合系および辺縁系の3ループに分けられる。また、線条体という構造物を主役に考えれば、線条体は線維連絡および機能的に@感覚運動線条体、A連合線条体、B辺縁線条体(尾状核頭の腹側部で主に側坐核と嗅結節の深層部にあたる。免疫組織化学的に中心部 core ―運動系と連絡し、辺縁系のインターフェイスとしても働く―と周辺部 shell ―視床下部、扁桃体など辺縁系と連絡する―に分けられる)に分類される。以下にこれらの3つのループについて模式的に説明する。

T.運動系ループ
  1)運動感覚系ループ(この系は運動の高次機能に関与する)
知覚運動野→被殻(運動系線条体)→淡蒼球外節/内節(GPe/GPi)(外側部、運動系−淡蒼球))→VLo→運動野
  2)固有補足運動野(SMA-proper)系ループ
SMA-proper→被殻→GPe/GPiの中間部(補足運動野関連淡蒼球)→VLo内側部→SMA-proper
  3)前補足運動野(pre-SMA)系ループ
pre-SMA→尾状核(CN)の外側部→GPe/Gpiの中間部→VApcの外側部→pre-SMA(pre-SMAはヒエラルキーが最も上位にあり、このループは運動のプログラム、準備に深く関与する)
  4)運動前野(PM)系ループ
PM→CNの外側部→GPe/GPiの背内側部→VApcの内側部→PM
  5)眼球運動系ループ
前頭眼野(FEF)/補足前野眼野(SFEF)→CNの中央部→黒質網様部(SNr)の外側部→VAmc,MDpl→FEF/SFEF

U.連合系ループ(この系は認知などの高次の脳機能に関与する)
前頭連合野/頭頂連合野→CNの外側と腹内側を除く大部分及び被殻の前部(連合線条体)→SNr及びGPe/GPiの背内側部(連合系淡蒼球)→MDpcの中央部と一部VAmc→連合野

V.辺縁系グループ(この系は動機づけ、情動行動に関与する)
辺縁皮質・扁桃体・海馬→辺縁(または腹側)線条体→腹側淡蒼球→MDmc内側部→辺縁皮質

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図4 大脳皮質、視床、大脳基底核の関連を示す模式図。


  ここで脳の能動性(運動性)機能として最近注目されているワーキングメモリー(作業記憶)と音楽演奏との関連について一言述べてみたい。ワーキングメモリーとは、前述の如く、情報の処理と保持の並列処理を可能とするシステムであると考えられており、操作によって記憶の内容が書き換えられるような短期記憶を言う。当初の意識的コントロール下で譜面を見て手の指を動かす随意的運動から、旋律に対応した一連の運動系が練習を繰り返すことにより自動化されて(小脳学習)、演奏をするまでの段階に達する。この時脳はどのように働いているのであろうか。記憶の貯蔵庫から、その情報を取り出し、一時的に保持し、それに対応した運動反応に変換する(運動系プログラムへの変換)。同時に並列的に、次の旋律を長期記憶からほぼ自動的に検索する。このような、運動制御を行いつつ並列的に次の動きを検索するというワーキングメモリーの脳内局在はサルの実験では前頭連合野が関連していると言われている(Goldman-Rakic, 1992)。ヒトの脳でPET (positron emission tomography, 陽電子放出断層撮影装置)やMEG (magnetoencephalography、脳磁図)を用いて調べてみると、前頭前野に限局しているものでなく、広範囲におよぶ皮質域に活性化が認められる。概念化する能力を備えたヒトの脳は他の動物とは質的に異なる情報処理、課題遂行を統一的に施行することができる。メモリーが動的に関与する高等動物においては、言語系、すなわち第二次信号系(パブロフ)が関与する。この古典的言語系は知覚野、運動野、補足運動野の3皮質領域に存在するとされていたが、最近のrCBFやfMRIの検査の結果は言葉を発する時には、大脳皮質領域内の広い範囲で多数の領域のニューロン群が反応していることが明らかにされている。この多領域言語 (logos)系の 反応ニューロンの分布をみたとき、情動と言語との結びつきを考えて、皮質内情動反応ニューロンの分布も側頭葉前部や前頭葉腹側部を含む広い範囲に認められて然るべきと考えられる。ヒトのような言語活動可能の高等動物においては、言語野と前頭前野の発達により、高度なアフェクトを発揮させることが可能となった。そして、高度な信号である音譜を解読し、形成されたPathologosの基盤の上に立って演奏(作曲)という能動的活動(運動)がなされる。そのゲシュタルト的響きは数的比例の秩序に支配されており、聴受者や演奏家の聴覚系機構内で判断される。これが、具象化されたPathologosの吟味であり、これが再び前頭連合野を介して統御され演奏(運動)にフィードバックされる。以上を支える脳内の神経回路は形態的に皮質皮質間結合が@後連合野内で、A前連合野内で、B後連合野と前連合野との間で、存在するという形で証明されている。この点は将来、発展的に考察されるだろう。

 ここで、音楽家や演奏者が楽譜を見たとき、音を聴かずにその音をどのようにして認識するのかという点について考えてみたい。この場合、第一聴覚領は興奮しないが聴覚連合野と音声言語の領野(Wernickeの一部)は活動しているという所見がある。このことは、音を波動の分析として捉えているのではなく、視覚的(信号/音符)に捉えていることを意味している。そればかりか、その音符の連続としての楽曲が誰によって、いつ、どのような状況で作曲されたのかを理解して聴いているときは、小説を理解しながら読んでいるときのように文字化しているのである。音楽家(作曲家や演奏家)は自分の認識と経験の深さに応じて、楽譜を見たとき"頭"の中に響きをもつことができるという。高い水準に達した演奏家とは、ある楽譜を"理解"したとき自己の脳内にそれに相応する"響き"を形成することができ、その響きにできるだけ一致させて演奏させる art / techneを持っている人のことを言う。この場合、信号を言語化(文字化)させたものとして認識しているのである。一見極端に聞こえるが、音楽を聴受し演奏することは、高いレベルで知的会話をやりとりしているように、抽象的認識、すなわち概念化の作用が基盤にあって成立しているものであろう。さらに音の流れ、調べの中に意味や思想をもたせることができるが、これは完全に高い次元のロゴスの世界であり、感情をこめて演奏するパトス、アフェクトの世界を超えて昇華された内容に立ちいたっている。後連合野での感性的認識の段階が知覚性言語領域の機能と結びついた、自己を中心とした空間認知作用を通じての背側経路と、形象的、情動的認知作用を通じての腹側経路と、二つの経路を介して前頭葉に興奮が伝達される。この際、背側経路の方からは知覚興奮が写像的に運動系に伝わるが、腹側経路の方からは"情"が加味されてより複雑な多重性のある情報が前頭前野に伝えられ、そこで"組みかえられた"結果が、運動司令・実行の系に伝達される。アフェクトに訴え、さらにアフェクトを超えた演奏とは"空間に音の響きがふくらむ"とも表現されるのはこのことを言う。

5]ゲシュタルトによる認識作用

形あるものを部分の集合とみて各々の位置に配置して全体として統一的に組み立てられたものが形態(Gestalt)である。心理学では感覚されたものの総体であるとか、それを構成する部分の総和以上のものである全体などと言う。ところで、最近の脳科学の研究は、視覚系認識についても、聴覚系認識についても、かなり説明ができるところまで進展している。たとえば、視覚的認識とは、物体からの反射光が網膜を刺激し、それが視床に伝わり、大脳皮質の第1視覚野(17野)に伝達される。次に、18野,19野、37野、…→と伝達され、その過程で、点→線→単純な形(丸や三角形など)→複雑な形(図形、景色、ヒトの顔など)へと知覚作用としての認知/認識が深まっていく。その形態的基盤は、その部位にある特殊に分化した神経細胞の反応を反映する形で、いわば階層的に低次から高次へと質的発展をとげつつその認識過程が進行する。画像(図形)の認知、その連続性の認識である図形の連想(あることを思い出したときに、その記憶に関連した別のことを思い出す現象)作用も側頭葉にある視覚性連合野のニューロンが機能の一端を担っているとして理解されている。すなわち、サルを用いて宮下らは(1999−2000)図形を2個ずつペアにして学習させる。そしてそのサルの側頭葉ニューロンの活動状況をその一方の図形を提示した後に、他方をみせて調べた。すると、時間の経過と共に活動性が徐々に高まってくるというのである。

 以上みてきたように、段階的に進むヒエラルキーを持った図形(画像)認識のGestalt構成は視覚系領域で起こる脳機能の反映であるが、聴覚系領域においても、音を素材とする芸術である音楽のGestalt機構も同様に考えられるであろう。すなわち、視覚の場合は第1視覚野で感覚された不連続な図形要素が空間的近接度を基準として、つながり(連続性)と切れ目(不連続性)を(再)構成する過程で、つまりフレージングによって輪郭を構築し、また再編していく。同様に聴覚の場合は時間的に近い音、高さが近い音、大きさが近い音がつながり、音の流れ、すなわち、旋律が形成される。たとえば、楽曲は一つの形態あるいは構造をもっており、それはいわば要素の上にある何かであり、幾つかの音符から構成されている。このように、複数の連続した音符が一つの構造的パタンを構成することによって感性と統覚(apperception)的に結びついて楽曲が生まれる。この事象は、内耳有毛細胞で受けられた刺激が一次聴覚領皮質に到達し、さらに聴覚連合野へと連続的に起こるエネルギーの伝達機構を基盤にしている。聴覚皮質内においても、このような近似的性質のニューロンが集団をなして存在している。このように構築された形態的基盤に基づいて、不連続な単音から連続性(旋律)、総合性(和音、協和音、テンポ)がニューロンの集合と結合からなる回路網の活動の結果として形成される。このように構成された一定の曲想の連想作用から、まとまった楽曲が作られ、聴受され、そしてワーキングメモリー(作業記憶)の作用を通じて演奏がなされる。この際、後連合野で知覚、認知され、統合された視覚・聴覚・体性感覚の複合体が前頭連合野で組み変え(convert)られる。

 作曲ないし演奏とは、単なる音(素)を連続させることではなく、音(素)を何等かの法則=人間の思惟の運動・秩序などによって「組み変え」たものである。組み変えることは音(素)それ自体の存在性とは異なる存在性に移置されることを意味する。「総和以上のものである全体」とは、この「組み変えられた」新たな存在=個としての全体を指すと考えられる。

 視覚系においては、点→線→簡単なまとまり(三角、丸、四角)→それらが組み合わされた意味ある形象という風に複雑化されていく。同じように、聴覚系においても、単(純)音→協和音→メロディー→主題音楽というように"総合化"されていく。この諸要素を融合へと導く過程は、第一視覚野や第一聴覚野における形質素や音素のニューロン群が電気反応的に刻印されて、特徴づけられた次元からスタートする。それがシナプスを替えるに従って、前にみたように、階層性の高いレベルの要素の反応ニューロン群に発展する。
これらのプロセスは活動電位の測定や波形分析などにより解明され、後連合野内で生起することが、論理的に考えて、確かな現象として知られている。これらの抽出された「個(性)」−音素や形質素−は或いは連続し、或いは断絶して、らせん状的に肯定と否定と統合をくり返して、Gestalt の世界が具象化される。感覚要素のヒエラルキーが上行するなかで扁桃体を主とする大脳辺縁系の活動である pathos(情動)と新皮質内の言語野の活動である logos(言葉、思考)が協同して(すなわち、皮質皮質間線維を介する相互作用によりニューロン活動が影響しあって)内容がさらに深められていく。単純要素反応ニューロン群領域と複雑要素反応ニューロン群領域との間は相互に結合している。つまり皮質内の電気的興奮が一方向性でなく両方向性をもって伝達されることが証明されている。それを式で表すと、AI (V1) ⇔ belt (V2, V3) ⇔ parabelt (V4, MT etc) ⇔ post.assoc.cx ⇔prefront.cx ⇔ mot.related areasとなる。

 さらにコミュニケーションの手段として言語をもつに至った動物、すなわち、人間の脳においては、以上の視覚、聴覚のGestalt機構の質的に発展したものとして、視覚性言語(文字)や聴覚性言語(話し言葉)を了解し、抽象化し、概念化するという、感覚的認識から抽象的認識に段階的に発展する概念化の機構が存在する。以上みてきたGestalt認識に関連する大脳皮質内の領域は連合野内で互いに隣接しており、短い連合線維(弓状線維)によって密に結合されている。

 このように言語機構が加わることにより、視・聴覚表現の単純から複雑へ、また具象化から抽象化を包含した脳機能は低次から高次の段階へと発展する。すなわち、情動に関する扁桃体と強い結びつきをもつ、腹側側頭葉や側頭葉前方部は、これらのGestalt 皮質関連域に直接隣接してその腹側域にあり、この領域で皮質皮質間線維によりGestaltsと情動の発現が結びつく。しかる後に、先にみたように、音楽の affectや絵画のaffectは前頭連合野に結びついて能動的活動の所産である創造性を生ぜしめるのであろう。

6]情動の発現と大脳辺縁系

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図5 情動機構を説明するうえでのキーワードとなる構造物とそれらを連結する神経回路(Papez 回路、Yakovlev 回路)を示す模式図。

 扁桃体は、快・不快などの感覚刺激の生物学的価値評価および条件づけの獲得や情動体験によるエピソード記憶の固定過程(短期記憶から長期記憶への移行)に関与している。また、大脳辺縁系が関与する情動および/または記憶の回路として有名なものに、ぺーペッツ回路とヤコブレフYakovlev回路がある(図5)。現在、辺縁系は脳の情動系を構成しているとする情動の辺縁系説が有力であるが、海馬や扁桃体や嗅脳溝周囲皮質を含む側頭葉辺縁領域は情動とともに少なくとも記憶のような認識機構にも関与していることが示されている。

 情動の中心は扁桃体で、意欲の中心は大脳皮質内側面にある帯状回と言われている。共に、大脳辺縁系に属する系統発生学的に古い構造物で、前者は内側大脳基底核隆起(MGE)の最内側の神経上皮が増殖し、移動し(マウスでは胎生13〜14日頃)終脳の腹側部に形成される。扁桃体は内側核、外側核、基底外側核、中心核、皮質核などの亜域に区分され、投射、結合関係も調べられている。扁桃体には、味覚、嗅覚、内臓感覚、聴覚、視覚、体性感覚などあらゆる種類の感覚機能が直接的または間脳の視床核を介して間接的に入ってくる (Norita and Kawamura, 1980)。この環境からの情報をそのまま感覚的に受容する生の粗な感覚の他に、大脳皮質を経由していわば高次元で処理し、知覚した結果を時間的に少し遅れて伝達する適正な情報が入ってくる。すなわち、扁桃体の基底外側核は、梨状前皮質、内嗅領皮質(28野)、帯状回(とくに24野)、側頭葉、前頭前野からの線維を受ける。以上の粗と精、原始的と識別的、低次と高次という2種の情報が扁桃核内で遭着する。そのことにより、環境に対して瞬間的、反射的に反応した生得的な生体反応は、生体にとって快か不快か、有益か有害かの判断に基づいて環境適応的に修正されるのである。ここで行われるこの価値判断の機能の結果は、主要な遠心性ルートである分界条を経由して中隔核、視床下部へ伝えられる。そして、小部分が腹側扁桃体遠心路により、視床下部に伝えられる。視床下部は食欲、性欲、水分代謝、自律機能、ホルモン調節(内分泌系を支配する脳下垂体の機能を促進または抑制する)など生命維持に関わる重要な組織で外的または内的な誘因が存在するとき、この領域への興奮が来たとき周囲への働きかけの動因となり、有機体は行動(行為)を起こすことになる。そして視床下部の腹内側核(満腹中枢)や外側核(摂食中枢)のニューロンとシナプスを作る。これらの領域にあるニューロンは、グルコースに反応すると共に、肥満因子オプシンに対して、腹内側核には促進的(positive) に、外側核には抑制的(negative)に反応する受容体(レセプター)が存在する。

 自律神経系への入力にはすべての感覚があるが、自律神経系への出口の最大のものは体性感覚(内臓感覚を含めて)である。その自律系反射は、視床下部を"最高中枢"として、室傍核(PVN)から延髄の迷走神経背側核や孤束核などに神経投射しているほか、下垂体を介する液性(ホルモンや伝達物質)系の流れがある。この視点は重要である。

 嗅覚や味覚の刺激は扁桃体の皮質・内側核群(系統発生的に古い部分)に直接入力されており(Norita & Kawamura,1980)、それらの情動への関与も無視できない。なお、嗅覚との関連は、とくに下等動物において、辺縁系/情動と強いつながりをもっている。或る知的な女性から「香りに接したとき、様々なことを思い出したり、せつない、悲しい気持ちなったりする」と不思議な話を聞かされたことがある。また、視・聴覚系は、扁桃体や視床下部との結合は弱く、原始的な生の情動とは関連性が低いと言われている。しかしながら、網膜からの視覚性入力と視床下部域での生体リズムの形成は別の視点からみて重要である。

 このほかに、扁桃体→(側頭葉)→前頭葉→帯状回(その前部→後部)→海馬傍回→扁桃体および扁桃体→視床背内側核(MD核)→帯状回前部を連絡するYakovlev回路とよばれる情動・意欲に関わる神経回路網が存在している。中古皮質に属する帯状回は、意欲に関連した行為を行ったとき局所循環血流量が増加する皮質野として知られている領域で、サルの実験でも独自に新しく工夫した有用な行為を行って報酬を獲得した時に活動する神経細胞(ニューロン)が存在する(Shima and Tanji, 1998, 前載)。

 ここで、視覚および聴覚刺激に関連して、情動(一部認知を含めた)の問題を進化の立場から論じてみる。広く動物界でみられる現象に類似性があるかどうかをみてみると、単純(突発)音を、サルが「キー」とか「パン」とか発声して危険(警告)音として仲間に知らせている。この自己を危険から守り、そして逃避する際に発声する音が昇華されたものが"和音"というものであろうか。このように音の構成に関して、というより、音という媒体を用いて、動物は発達した喉頭内により精緻な声帯器官をもつようになり、連続音/混合音/自然音を多用するようになる。

 また、別の例をあげると、蛾が鳥に襲われたときに、羽をパーンとひろげて"目玉模様"を突如として表出し、相手を一瞬驚かす。これも身の危険から逃避する際に動物が行動を表す単純化した色彩の表出(現)と言えよう。さらにまた、きわめて類似しているが、海中で群遊する小魚に下方向から大きな魚がこれを食せんと襲うときにみせる前者の反応がある。小魚の群は示し合わせたように(同時に)、瞬間的に、不連続的に、白い腹を反射によって輝かせて体をひねり、ひるがえして、方向を変えて逃亡する。

 このような下等動物にみられる原始的行動に伴う音や色を用いた単純反射が人間にも本性として備わっていることは、原始社会における危険を知らせる鋭い音や、共同作業への単純な呼びかけ音(声)−「ヤッホー・エッサー」−などの使用に表れている。人間の場合、それが感性として磨かれて感情・情緒の表現形態としてみられるのである。いわゆる、音を素材とした芸術、すなわち、音楽への原型である。これは、生活の糧を狩猟や漁労から得ていた古代人が、危険や害毒や悪魔から共同して身を守る手段として描いた洞窟の壁画にみられる美術の誕生とも軌を一にするものであろう。

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図6 マクリーンの三位一体脳説といわれる一見神秘的色彩を帯びた説で、進化する脳の階層性を示す模式図。MacLean, 1973 より。

 ここで、系統発生学的に情動機構を眺めてみる。古典的なヒエラルキー学説ではあるが、マクリーンMacLeanの三位一体脳説a triune brain(1973)を紹介する(図6)。マクリーンは動物の脳に3型のシステムから構成される階層性を考えた。いわゆる原始爬虫類脳、旧哺乳類脳および新哺乳類脳である。原始爬虫類脳は、脳幹、間脳、基底核よりなり、旧哺乳類脳は辺縁系が強力に加わり、新哺乳類脳は新皮質をもっている。ここで、動物の古い脳の上に新しい脳が付加されるという進化の方向の道筋と人間における精神の構成の生物学的基盤が示されている。
 原始爬虫類脳をもつ動物は、原始的な学習や記憶に基づいた、型にはまった行動を現わす。そして、この行動は個体維持と種族保存に基本的なものである。魚類や爬虫類では、大脳基底核が最高の運動機能の統合部位で大脳皮質は未発達である。これらの動物の行動反応は辺縁系と視床下部でなされ、そのパターンは柔軟性に乏しいタイプである。

 旧哺乳類脳は哺乳類においてはじめて発達した。この脳部位には明らかな情動の座があり、ステレオタイプな原始爬虫類脳の働きを、ある程度、柔軟に制御している。その条件下で辺縁系と視床下部は行動発現の開始部位の一つとしてさらに重要な意味をもつようになる。すなわち、「情動過程」そのものに基づく行動発現と結びついている。

 新哺乳類脳は高等哺乳類においてみられ、新皮質は、外界環境因子を分析し、高度の精神活動を行う。霊長類になると、大脳皮質、小脳、大脳基底核が著しく発達し、ここに行動発現に対する「認知過程」が大きく関与してくる。新皮質と辺縁系との相互連絡は動物が高等化するにつれて発達し、とくに側頭連合野、前頭前野と辺縁系との間の線維連絡は密になり、情動行動はさらに洗練されて複雑になり、質的にも発達したものとなる。ヒトの脳内には言語野が発達する。抽象概念を用いた思考が可能となり、情動状態を自省し、洞察できるようになる。ここでは辺縁系に対する前頭前野の支配と、「思考過程」の「情動状態」への関与が特徴的で、解剖学的にも連合野と視床下部・扁桃体との直接的または間接的(嗅内野を介して)結びつきが強くなっている。大脳辺縁系とくに扁桃体の機能異常は精神疾患のうちの情動障害と深く結びついている。

 ここで、3つの問題を提起したい。第一に情動を今の時点で研究することの重要性について。脳の高次機能の研究では、現在、認知機能に比して情動機能の研究は国際的に立ち遅れている。そして、広い意味でも動物の行動、認知・認識の結果を表出する際に、情動が深く関わっていることにもっと注意を払うべきである。

 第二に、あらゆる動物に情動機構は備わっているが、その脳の発展段階に応じて発現・表情発露が当然のことながら異なること。動物の高次機能を考えた場合、そこには以下のような本質的な相違がある。すなわち、信号化された信号を認識する機構に基づいて物事を概念化し、抽象的認識すなわち思考を可能にした言語を有している動物(すなわち人間)と言語を有していない(そこまで脳が発達していない)動物とを分けて考える必要がある。と同時に、動物は環境との相互作用を通じてより高次の機能を獲得して進化してきたのであるから、動物一般のもつ基本的な面から研究を進める必要がある。ここのことは矛盾した2つの事象ではなく統一して考えねばならない。

 第三に、脳機能を能動的面からみた時の、いわゆる精神(=心)の正常と異常の問題である。この側面の科学的研究は最も立ち遅れており、現在良識ある研究者が苦心して陣地を構築中である。いわゆる「脳と心」の問題であり、「文化・芸術」の継承の問題であり、「精神異常」や「教育」をいかに科学的に捉えるかの問題でもある。

 以下にわれわれの教室で行われたサカナとトリの情動発現の実験について述べる。その前に、硬骨魚類の終脳発生の特徴について一言しておく。哺乳類をはじめとする他の脊椎動物の終脳は、神経管からの発生の過程で脳が側方に膨れて、側脳室を中心に背側から、海馬、大脳皮質、梨状葉の順で発達するpallium領域と、さらに腹側につづいて線条体、扁桃体、中隔が発達するsubpallium領域が認められる。硬骨魚類(メダカ)の場合、神経管の最背側の蓋板が伸長し、脳が外側に逆転した形で形成される。その結果、脳の表面が脳室層となる。

 坪川,川村 (1999)はメダカの終脳で、Nissl 染色およびペプチド(CGRP, CCK, NPY, SS, SP)類やTH(カテコールアミン系)の免疫組織化学染色を行い、マウスにおけるそれらの分布と比較して、その類似性からextended amygdalaに相当する領域を想定した。つまりsubpalliumが背側、Dd- Dl region、に位置するところにventral striatum〜amygdala の近傍を推定した)この領域を両側性に破壊すると、メダカの情動障害のためか群集行動ができなくなる。

 次ぎに、トリのレベルになると、単に、単純行動を示す集合行為などの面からではなく、個体自身が発する音声によってより高次のコミュニケーションが成立し、互いを引き寄せるという異なるタイプの社会行動がみられるようになる。「鳥の鳴き声」については研究が進んでいる。キンカンチョウ、鶏を含む鳴禽類の研究はコミュニケーションにおいて、外来刺激に対して扁桃体の価値評価が大きな役割を果たすと同時に、種特異的な泣き声も重要であることを示している。鳥の鳴き声は、鳴官(synrix)という気管支のところにある器官の筋の緊張をXII 運動神経(舌下)が支配することによって、音が決められている。また、このXII運動神経(舌下)は中脳にある nuic(dm) の支配を受けており、さらにこの部分が、nurob(鳥の扁桃体相同部分)とHVC(鳥の運動皮質相同部分)の支配を受けていることが明らかにされている。この運動系のどの部分が種の特異性を司っているのか。竹内、Baraban ら (1988) は種特異性を解析すべくニワトリ/ウズラのキメラを作成するという実験系を作った。

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図7 トリ脳内における聴覚系と鳴声系を示す模式図。

 embryoの脳の一部を微小手術により交換移植して、キメラ動物をつくり、どちらの種特異的な行動が引き起こされるかを調べる方法である。この場合、雄の泣き声を生直後から実験を施行する7日目までテストステロンを投与して性分化を誘導した。ニワトリの場合は一鳴きに一回、ウズラの場合は3回の鳴動がみられることで、種特異性を確認した。孵化後2日目のニワトリの脳胞にウズラの終脳部、終脳+間脳部のみを移植したのでは、鶏の鳴き声のまま変化しなかったが、間脳+中脳、間脳+中脳+菱脳部を移植した場合にはウズラの鳴き声に変化した。
以上の結果から、鶏の鳴き声の種特異性を決めている領域は、先の鳴動運動系で間脳+中脳部分から発生するnurobの一部とnuic(dm)であることが示された。特にnuic(dm)は哺乳類の中脳網様体にあたる部分で、哺乳類では、ここが歩行など反復運動のパタンを形成するパタンジェネレーターであることからも、この部分が鳴き声のパタンを調節している可能性が考えられた。この研究により、社会行動の種特異性は扁桃体における価値評価という面のみならず、中脳網様体のMLR部も鳴き声のパタンの形成において、リズム発現と関連づけて重要であると考えられる。

 われわれの研究室では、特殊の遺伝子の発現や消滅が情動系にどのような影響を与えるかという点に関心を抱き以下の研究を行った。すなわち、大山と川村(2001)は、遺伝子欠損マウス(knock-out mice)たとえばNkx2.1欠損マウスの解析で扁桃体や梨状葉皮質の形成不全や前交連線維の正中部における交叉不全、視床下部、前頭葉間結合の異常増強(と思われる所見)などを認めた。また川野、川村(1999)はPax-6遺伝子変異体(mutant)ラットを解析して、視床から大脳皮質へ向かう線維が内包を通過することができずに、扁桃体核内に異常侵入するなど、情動辺縁系に異常所見を認めた。

 さらに動物が高等になると、言語交流の萌芽がみられるサルの段階に見られる情動・行動がある。終脳が発達し、皮質間結合が増強され、連合領が広く発達する。そしてヒトに至って言語性皮質が誕生する。これらを理解する上でパブロフの条件反射における言語系と情動系の関連について研究する必要がある。大脳皮質、とくに連合野が発達したサルの段階になると、価値判断ニューロンの存在する扁桃体の研究の外に、ある程度周りの状況を判断して行動する動物のパタン解析が実験的に可能になる。丸と四角の区別認識が可能になり、短期の記憶と長期の記憶の関連などを研究することができるようになるからである。

 それでは、ヒトの大脳皮質はサルに比べてどう違うか。それが脳の機能としてどのように反映されているか、パブロフの条件反射第2次信号系、言語系を機能し発揮できるヒトの脳はこの構造の複雑性、結合関係(回路網)の複雑性、発展性においてワニ・トカゲ(新皮質が初めて出現する;general cortex)→トリ→ネズミ→ネコ・イヌ→サルと進化して来た段階から飛躍的に発展する。新皮質の幅、ひろがり、結合などの面において、サルに比べてはるかに高度である。ミクロ的に密に、錐体細胞の分化とそれを中心とした回路の発達、道具の使用と労働、コミュニケーション社会の文化の継続性などからヒエラルキーの高い情動と言葉/言語が情報をひきつぐ過程で結びつき、ヒトでは分析力、解析力が格段に発達している。それをこの新皮質の構造が荷っている。ネコとサルとの間の皮質間結合の比較は図解して考察した(川村、1977)。それ(ネコとサル)以上の差がサルとヒトでは確実に存在し、それがこの格段なる解析性、明晰性の差/発展であろう。その形態的単位(基盤)は皮質のもつ個々の集団(mass)[視覚領や聴覚領、また、各機能域内に各々の異なる機能を荷ったニューロン集団がある]が、高度に分化している。たとえばトリでは、この集団が線条体である。これはヒトで云えば視床の集団に相当すると思われる。またヒトの大脳皮質は領域化の他に層状化にも特徴ある発展がみられ、これが高次脳機能をうけもつ分析性のもう一つの基盤である。つまり分析的な知覚(諸)野と後連合野、さらに、前頭前野への発展というように"上向"的にヒトの皮質をみたとき、下等動物には存在しないヒトの皮質の解析的性質(解析的仕事をすることが可能になる)が浮かび上がってくるのである。たとえばネコの段階では運動野と体性感覚野は混じていて分かれていないが、サル、ヒトとなり皮質の機能域は細かく分かれてくる。つまり解析的・分析的になってくる。それだけでは、高次の機能は活動せず、それらを統合し、総括する(組みかえて束ねる)機能をもつ皮質領域がヒトになり出現してくる。この最高の領域(物質的言語で云えば遠心性および求心性の皮質線維を含む高度に組織化された神経細胞群の結合網をもった大脳皮質)が連合野とくに前頭前野に相当する。

7]テンポとズレとその調和

 生体のリズムが抑制/調整されずにそのままフリーランすると、長い時間の方にずれて、1日のリズムが24時間+α(アルファ)となることが知られている。これは地球の自転を含む、天体の運行がもつ法則に基づいている。すなわち、この乱れ(ズレ)から来る差が、コスモス内の存在である生物体(ヒトを含めて)のリズムに反映されている。間脳における視交叉上核や松果体がその機能を荷っている。ここは外界の光やホルモン(液性調節)に関係する領域である。一方、斜めに物体を傾けて眺めた時に生ずる立体(奥行き)的視覚認知に関係する頭頂連合野の一つであるPG野近辺 (PF, PFG, PG, Opt, IPS, POa, など) は、前にみたように視覚性および聴覚性背側経路の重要な中継点と考えられている領野で、音楽のテンポのズレないしゆらぎなど聴覚系のdeviationとして起こる現象はおそらくこの領野およびここから前頭葉の背側運動前野へ投射する連合線維系に関連するものであろう。

 学問の上でも、完全な理論上のものと不完全な自然のものとの間には常にズレの修正が存在する。自然界の認知・認識の反映である脳内の視覚系や聴覚系に(体性感覚系や嗅覚系、味覚系も同様である)ズレの現象があって当然であり、それが前頭前野と運動系の活動を含めた芸術の美的解釈に大きな影響をもたらすことになろう。

 本来的にもっている誤差の世界(天体観測の測定にしても)から誕生した生物(ここでは原生動物からヒトまでを含む)で且つ、誤差/ゆらぎの世界という環境の内で、当時の哲学者/知識人たちは考察し、議論し、理論を創り出した。近代生物学の源流の祖であるデカルト、クロード−ベルナールにおいてさえ、この影響を強く受けていた。精神活動の研究というのは、脳の高次機能、すなわち、高次神経活動の所産を研究する生物学の分野で、実験的に正しいことを証明した(検証の上に立った)事実を思索の根拠とするものである。勿論、時代の科学水準に制約されたデータであるから、その得られるデータは相対的真理で、あって、絶対的真理ではない。この間には不可避的に誤差(ズレ)がある。数学とくに幾何学以外の学問はすべてこの誤差を小さくすべく進歩している。自然科学の分野で、最も大きな誤差/ズレ/ゆらぎに常時直面し、解決をせまられているのが生物学である。心理学、異常心理学、医学とくに精神医学において、然りである。

 一言すると、「自然のもつ不完全さの実体」と「人間が理論的に考案し創作した完全理論」との間の「ズレ」を視覚系においても、聴覚系においても修正して1つのGestaltに「ズレ」の範囲内でおさめるという行為が美の追求である。人間の脳には、ゆらぎを許容し、「ズレ」を修正する機構が備わっているものと思われる。

 身体の働き(体性運動感覚)や物体(形象)や音の動き(視覚性運動、聴覚性運動)、やリズムの形成など歩行とも関連した小脳・中脳および脳幹が関与するというデータが得られている。ネコの脳幹の様々なレベルを切断して自発歩行の開始機構(歩行リズムジェネレーター)の研究を行った結果(Matsukawa et al., 1982, 有働グループ)、視床下核( SUB, この核および近傍の領域をまとめて視床下歩行野、subthalamic locomotor region, SLR, という) からの刺激が中脳にある楔状核( NCF,別名中脳歩行誘発野,MLR)に加えられることが明らかになった。すなわち、SLRが自発歩行の開始機構に関与しており、その作働を待って歩行運動が駆動され、歩行が実現される。筆者は歩行を合目的に継続する中枢機構は小脳にあり、おそらくは大脳基底核が大きく関与しているのであろうと考えている。これに関連して、動く光源や音源の位置の同定には小脳−視蓋系が関与し、網膜から視蓋に入る視覚情報がズレの補正に関与することが明らかにされている(サル、ネコ)。他方では、静的な形や音の注視はサルの弓状溝前方の主溝を中心とした領域に存在する前頭前野のニューロン群が関与しており、後連合野から視覚、聴覚(さらに体性知覚)の高度に分析された入力をうけている(前述)。この他、扁桃体や視床下部から情動系や自律系の入力もこの領域に送られてくる。こうしてみると、前頭前野ニューロンは視覚系や聴覚系の活動ないし情報の単なるズレの修正というよりは、情動や内部環境および外部環境からの影響を含めた様々な要因を統括して、行動的意味へ変換して記憶、意味づけを伴う修正を加えていると解釈することができる。

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図8 リズム・テンポの問題を考察するために作成された、哺乳動物の大脳、小脳、脳幹を含む神経回路図。



 リズム、テンポの形成は、脳幹、小脳、中脳、視床下部、線条体、大脳皮質と脳全体のあらゆるレベルでこれに関係し、各レベルでそれぞれ特徴をもっている。そしてこれらが全体として総合されたものが運動系にconvert/convey し、表現される。幼児が音の調べに応じてリズムカルに全身を動かし、ジャズのメッカ New Orleans のFrench Quarter 通りで黒人の子供が手と足を上手なテンポ/リズムで踊っている姿をみると、皮質下レベルの本能的なものと感じさせる迫力がある。前に述べたように中脳には歩行開始(ジェネレータ)の領域がある。そこから脳幹網様体の中を幾つかのシナプスを替えて、脊髄の運動ニューロンに投射し、これを興奮させる。視床下部には大まかな昼夜リズムのセンターがあり、線条体には、純運動系の他に連合(認知)系、辺縁(情動)系をも包含した調和的、統合的バランス感覚のリズム調節機構がある。また、脳幹から身体感覚、聴覚、視覚、平衡覚、深部感覚などほとんどすべての感覚を受け入れている小脳の機能は無視することができない。考えてみると、リズムというのは音のみに限定して関連づけられるものではなく、光のフラッシュや踊りのステップなど、感覚や運動一般における、その開始と中止(ないし休止、断絶)の間のインターバル(時間の流れ)を言うのである。ヒトで、f MRI (functional magnetic resonance imaging)を用いて出来事(events)の連続性と間歇性という脳機能を調べた彦坂、坂井ら(1999-2000) によれば、小脳の後葉半球部は運動学習や仮想運動思考(頭の中でテニスのプレイをイメージするなど)や発声言語などの他に、ランダムに切られた連続音に反応するというようなリズムの形成過程にも関わっているという。すなわち、かれらはヒトに7つの音から成る連続リズムを聞かせて、短期記憶させたときの脳内活動をf MRIを用いた研究した。彼らによればリズムはインターバル比率に依存しており、2つのパタンがあるという。すなわち
@左側の運動前野、頭頂葉と右側の小脳前葉半球部は1: 2: 4及び1: 2: 3のリズムに反応し、
A右側の前頭前野、運動前野、頭頂葉及び両側の小脳後葉半球部は1: 2.5: 3.5のリズムに反応する(ニューロン群がある)。この解釈はかなりむずかしいが、@はわれわれの生活環境にある自然な馴染みのあるリズムであり、Aは、日常にない一瞬戸惑いを感じさせるリズムである。@をクラシックな響き、Aを奇抜な響きと連想づけるのは突飛であろうか。また、Aの"新奇"なリズムは小脳後葉で形成され、それが固定される(馴染み落着く)と小脳前葉の活動となるという。
以上の結果は、

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図9 リズム・テンポの形成に関わる脳内運動系のフローチャート。


という運動系に刺激が加わり、テンポ/リズムが発現すると考えられる。発生学的にみると、線条体/間脳→脳幹→脊髄が始めに、原始的な踊りとして歩行機構と結びついた形で発生し、辺縁系/情動系によって駆動され、感情移入された芸の源が見出されることになる。実際、尾状核の視覚性記憶ニューロンは、運動の報酬スケジュールによって強く修飾されることが示されている(Kawagoe et al., 1998)。かれらは、サルを用いて視野の中心部を注視させておいて、光を視野の上、下、左、右にランダムに点灯させて眼球運動を起こさせて大脳基底核ニューロンの活動を記録した。この時、ある特定の方向に眼球を動かした(外眼筋を自己の意志により活動させた)ときのみ甘いジュースという報酬が与えられる。この実験のパラダイムは、視覚系が空間を認知し、価値判断や動機とリンクさせて運動系に変換させるとき、大脳基底核のニューロンがどのように関与しているかを調べようとしたものである。このとき反応する基底核内の領域は、扁桃体から情動系の線維が終わる部位に相当し、また新奇物体に対する意欲的行為に関与する中脳の黒質からのドパミン入力が終止する部位とも一致する。実験結果は、この領域のニューロンは、サルが、形象を自己にとって意味のある空間内に認知し、その方向にむかって意欲的に行動を開始したときに活動しており、基底核(実験として尾状核を用いた)は報酬を期待することによって動機づけを評価し、その結果眼球を動かすという運動系の決定に関与していることを示している。なお、専門的になるが、線条体・視床・大脳皮質の並列系ループ(前述参照)を考えて、新線条体を構成する尾状核と被殻の内側部ほど、この結果を示す傾向がより強いかどうか知りたいところである。また、手足や体幹など全身的運動を調べているのではなく、外眼筋の活動で代表して、認識や動機づけによって行動がコントロール(制御)されるか否かを調べているのは、実験データを得る際のニューロン背景(バックグランド)活動による乱れを除去して観察する点ですばらしい手法と言える。すでに、中脳ドパミン系の大多数のニューロンは報酬期待性の視覚性のみならず、聴覚性の刺激に対してもphasicに反応(活動)するというデータが得られており、報酬情動の過程と接近行動の学習に関わっていることが知られている(Schultz, 1997, 1998a, 1998b)。従って、同様に線条体内に聴覚性記憶ニューロンも存在し、情動系によって(リズムをもった運動としての)行動(演奏を含む)が強く影響されると推察される。このように考えると、聴覚系である音の表現は、視覚系である形や色の表現に類似した脳内機構があるように思われる。

 この上に、大脳皮質とくに新皮質が発達すると(発達した動物の段階−哺乳類−になると)、リズム・テンポの表現が動と静、速と遅、長と短、さらに美と醜、純と不純、協和と不協和などと次第に質的に発展した表現方法が発現するようになる。

 最も上位にある大脳新皮質はこの過程の中で下位の線条体の運動を中心とした並列系ループの中でこれをコントロールする役目を演じる。聴覚領、視覚領のもつ知覚、認知、認識記憶のシステムは上にみたように、言語系(第二次信号系の確立)と結びついて、後連合野の内で段階的に高い段階に昇り、それが背側および腹側経路を通り、前頭葉、とくに前頭前野に内容的組換え(connotational convert)を起こし、運動系をゆり動かしている。

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図10 認知、情動、運動を中心に哺乳動物の脳の高次機能の全体像を示す機能図。彦坂ら(1999)より改変。

8]おわりに

 脳活動(高次神経活動)の産物の総体として動物の心、ヒトの精神と呼ばれるものを位置づけることができる。それが後の世代に継承されていくのが、絵画、彫刻、音楽、文学、科学、教育を含めた文学と芸術と学問が人間社会の中で抽象化された概念を理解し創造し、伝達することができる。繰り返すが、脳の活動の所産が精神活動といわれるものであり、その具現化されたものが文化・文明の社会を形成する。そして、文化が継承される。また、精神の異常ないし病的状態を生物学的に研究することが、精神医学を科学的に研究することに他ならない。このような広い視野に立って、将来の脳と精神の科学を結びつけて発展させていく義務と責任が良心的研究者に荷せられている。

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