ジャクソン学説 [英]Jacksonism [独]Jacksonismus [仏]jacksonisme  川村光毅のホームページへ

“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用

 イギリスの神経学者ジャクソンJ. H. Jacksonによる学説。彼はたとえばてんかん、失語などの神経学的臨床観察と理論において独創的な見解を示した。スペンサー H. Spencerの進化論哲学の影響のもとに「神経系統の進化と解体」(evolution and dissolution of nervous system)の思想を展開したが、それによると神経系統の進化とは、(1)高度に組織化された下級の中枢から、組織化の少ない高次中枢への移行であり、(2)単純な下級中枢から複雑なより高次の中枢への移行であり、(3)もっとも自動的なものから随意的(意図的)なものへの移行である。いいかえると神経精神的最高中枢は組織化の程度がもっとも少なく、もっとも複雑でもっとも随意的なものである。このように神経系統は階層構造(hierarchy)をなす。ところが神経系統の病的解体ないし退行は進化の過程を逆行する。つまり退行は最高次の中枢から低次の中枢へ、より組織化の少ないものからより組織化されたものへとすすむ。しかも、そのとき重要なのは陰性症状(negative symptom)と陽性症状(positive symptom)の区別であって、前者は器質的侵襲による機能の喪失であるが、後者は病的過程によって破壊をまぬがれた下位中枢の解放症状である。この理論は種々の神経疾患に適用されるが、たとえば失語において自動的、情緒的でない感情言語が保たれ、高級で複雑な意図的な知的言語が消失する。かれの言語理論は後輩のヘッドH. Headやフランスの神経学者アラジュアニーヌTh. Alajouanineらに受けつがれた。ジャクソンは同じ原理を精神疾患にも適用しようとしているが、充分に徹底されていない。この路線は現代フランスの代表的精神医学者エー H. Eyによって新ジャクソニズム(neo-jacksonisme)として展開された。

(大橋博司)