層理論 [独]Schichtentheorie, Schichttheorie 川村光毅のホームページへ

“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用

 人間の心的生活、あるいはそれに身体、物質界までもふくめたものが層的構造をもつという理論である。このような考え方は古代ギリシャのプラトンPlatonにまでさかのぼり、彼は人間の行動は三つの源、すなわち欲望、感情、認識から流れるでるとした。層理論を完成したと考えられるのはホフマンH.F. HoffmannとロータッケルE. Rothackerである。しかし、層理論的抗争を抱いた学者は数多く、神経学者のジャクソンJ.H. Jackson, 哲学者のハルトマンN. Hartmannらは有名である。性格学者で層理論を性格学に応用したレルシュP. Lerschによると、層理論形成の刺激になったのは、フロイトS. Freudの精神分析、近代の脳研究、哲学的存在論とくにハルトマンの学説、の三つであるという。ホフマンは地殻の層構造に類比させて、自然界に物質、生物の層があり、生物に身体、心、精神などの層があるとし、とくに人格を欲動―心―精神の三層に分けた。ロータッケルは全人格を深部人格と自我の二つの層に大別し、さらに深部人格の中にもいくつかの層をとりあげようとし、自我のすぐ下に人格層というものを考えて、自我と深部人格の橋わたしをさせている。ハルトマンは物質的なもの、有機的なもの、心的存在、精神的存在のあいだの成層構造を論じ、上層は下層に依存しつつも独立であるという依存と独立の関係を明らかにした。層理論(完成されたものでなくとも)は性格学に応用され(ホンブルガー A. Homburger, カーンE. Kahn, シュルツJ. H.. Schultz, レルシュ、ティーレR. Thieleら)、精神医学に応用された(ホフマン、シュナイダー K. Schneider, ブラウンE. Braun, クレチマー E. Kretschmerら)。ことにジャクソンの進展と退行の学説を精神病に応用して器質力動学説を展開したエーH. Eyの業績は有名である。層理論と脳局在の関係も大きな発展を遂げつつある。

(中田 修)