エネルギー恒存の法則 [英] low of constancy [独]Konstanz-Prinzip [仏]principe de constance 川村光毅のホームページへ

“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用

 心的過程は発生した興奮(心的エネルギーの高まり)をできるだけ解消して安定した無の状態に向かおうとする基本法則に支配されているという精神分析の基本仮定。精神分析以前に、すでにフロイトS. Freud (1895)は、物理学者フェヒナー Fechnerによるエネルギー恒存の法則を神経系に適用し、各ニューロンは備給されたエネルギー量の緊張を失ってゆこうとする「ニューロン慣性の原理」(principle of neuronic inertia)を仮定したが、やがてフロイト(1914)は、(心的エネルギー)「恒存の法則」が心的過程を支配し、欲動緊張の増大が不快、その減少が快として経験され、心理的には、この法則が快感原則(pleasure principle)として現れると考えた。またフロイト(1914, 1920)は、バーバラ・ロー Barbara Lowの提起した涅槃原則(nirvana principle)とこの「恒存の法則」を同義のものとみなしている。しかし、1924年になると「恒存の法則」ないし「涅槃原則」と「快感原則」を区別するようになり、当時の本能二元論(エロスとタナトス)の見地から「恒存の法則」つまり「涅槃原則」は、死の本能に由来するが、生の本能と結合することによってそれが「快感原則」に変容されると述べている。一般に、フロイトの「死の本能」論に批判的な人々も、飢え、性欲などの本能的欲動に関して、このエネルギー恒存の法則ないし安定への傾向が働き、この法則が心理学的な原則としては「快感原則」の形に現れるという見解には同意するものが多い。

(小此木啓吾)