クリューヴァー・ビューシー症候群 [英]Kluver-Bucy-syndrome [独] Kluver Bucy-sches Syndrom [仏]syndrome de Kluver -Bucy  川村光毅のホームページへ

“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用

 1937年にクリューヴァーKluverとビューシーBucyがサル(rhesus monkey)の両側側頭葉切除を行なって、精神盲を主にした情動変化のおこるのを報告し、1939年にそれをくわしくまとめた。切除範囲は側頭葉皮質22.21.20領野、鈎、海馬(前4/5)、扁桃核の大部分である。出現する症状は(1)精神盲を思わせる症状、(2)いわゆるoral tendency (3) hypermetamorphosisまたはhypermetamorphic impulse to action, (4)情動の変化、(5)性行動の変化、(6)食習慣の変化、があげられている。このうち、(1)から(4)までの症状にはかなり共通したものがあるのでまとめて紹介すると、サルは何に対してもためらいなく近づき、恐れている蛇にさえも触れる。特徴的なのは手よりも口を用いてものをたしかめようとすることで、同じものを何回も口に入れてみる(oral tendency)。すなわち、何でも口に触れ、口に入れ、噛み、嗅ぐのである。このような行動はあたかも強制されているようにさえ見える。すなわち、あらゆる視覚的刺激に対して注意を向け反応するように強制される傾向をもつ(hypermetamorphosis)。また、怒りや恐れの感情を表出すべき状況でもまったく反応がなくなり、慣れ慣れしくなる。性行動はhomo-, hetero-, auto-hypersexualityがみられる(犬や猫では雌雄の見境なく何匹も重なり合ってしまう)。また、正常サルにはみられない肉食がおこるといもいう。
 以上のようなクリューヴァー−ビューシー症状群は人間においてもおこりうることをはじめて記載したのは、テルシアンTerzianとダレーオレDalle-Oreである。しかし、oral tendencyと視覚失認はなかったという。本邦では長谷川や原と岡田が報告しているが、もちろん、高次の精神機能をもつ人間とサルのそれとでは大分ニュアンスの違いがある。なお、扁桃核を両側とも脳定位手術的に破壊したのではクリューヴァー・ビューシー症状群は出現しない(楢林)。しかし扁桃核切除の目的でも表面からの侵襲を加えるとoral tendencyなども出現するところから、扁桃核や海馬のみならず、側頭葉外側皮質も含めて切除すると本症状群が出現するものと考えられる。

(原 俊夫)