(一)Cortex cerebralis [Pallium](大脳皮質[外套])Cerebral cortex

 大脳皮質の細胞構成の上から等皮質(新皮質)と不等皮質(原始皮質と古皮質)に大別する。等皮質は分子層、外顆粒層、外錐体層、内顆粒層、内錐体層、多形細胞層の6層からなり、高等動物でよく発達しているが、不等皮質は6層からならず下等動物でよく発達している。ヒトの不等皮質は嗅脳に認められる。
 大脳皮質の機能はその全般にわたって一様なものではなくて、各部位がそれぞれに決まった役割を演じている、これを機能局在という。すなわち特定の機能は特定の場所で行われるのであって、このような場所をそれぞれの機能の中枢という。大脳皮質の諸中枢の主要なものをあげると、つぎのとおりである。

1,運動領

これは随意運動の中枢、言い換えると錐体路の起始細胞がある領域である。中心前回とその隣接部で、その中でさらに身体の各部の中枢が分かれている。すなわち中心前回の上部1/4と半球内側面におけるそれに相当する範囲は下肢、中心前回の中央部約1/2は上肢、中心前回の下部1/4は頭部の運動中枢である。なお下肢と上肢との間には胴すなわち胸腹部、上肢と頭部との間には頸部の運動中枢があるが、いずれもその拡がりが小さくて明瞭でない。運動領はこれから発する錐体路が交叉するので、身体の左半を支配する中枢は右の半球に、右半を支配する中枢は左の半球にある。

2,体知覚領

 主として皮膚や粘膜のに知覚(触覚・圧覚・痛覚・温覚・冷覚)を受け入れるところで、中心後回およびその隣接部である。身体各部との対応関係はやはり運動領と同じで、中心後回の上の方から下の方に向かって下肢・胴・上肢・頸・頭という配列を示し、また身体の左右が交叉性に脳の両半球に位置を占めている。

3,視覚領

 大脳半球内側面の鳥距溝の周囲の領域にある。これは左右の眼球の右側半の網膜から来る刺激(視野の左半)が右の半球に、左側半の網膜から来る刺激(視野の右半)が左の半球に受け入れられる。

4,聴覚領

 側頭葉の島に面した側にある横側頭回の中央部にある。主として、右耳の刺激は左の半球に、左耳の刺激は右の半球に入る。

5,味覚領

 海馬旁回にあるといわれるが、確かなことはわかっていない。

6,嗅覚領

 これも海馬旁回で、前記の味覚領の近くにあるという。

7,連合領

 上記した中枢はいずれも大脳皮質では第一次の、すなわち下位の、単純な中枢である。だから運動領といっても、それは単に各個の筋を収縮させるだけの中枢で、複雑なしかも調和のとれた運動はさらに高次の中枢によって支配される。また知覚領ではたとえばポケットの中に手をつっこんで財布に触れたとしても、ただ触れたという感じだけで、それが財布であることを判断するまでには至らない。視覚領や聴覚領でも同じで、ただ物が見える、音が聞こえるというだけで、見えるものが何であるか、聞こえるものが何という言葉であるかを知り分けることはできないのである。これらの一次中枢の上に第二次、第三次などのもっと高位の中枢が存在して、関係のある他の諸中枢と連絡をとって(それで「連合」という),より高級な、またより複雑な神経機能や精神活動を行なう。これらの中枢を総称して連合領という。
連合領に属する高次の中枢の一例として、言語中枢があげられる。言語中枢としては一般に次の三つが考えられるが、形態学的に証明されたものではない。

(1)運動言語中枢

 一名ブロカの中枢Broca's centerとして有名で、左の大脳半球において下前頭回の後部にある(すなわち頭頸部に対応する運動領のすぐ前方にとなりあっている)。これは意味のある言葉を発音するのに必要な微妙かつ総合的な運動を支配する。ゆえにもしこの中枢が機能を失うと、運動性失語症といって発語運動が不可能になる。ただし同じ筋を必要としながら呼吸運動・嚥下運動・咀嚼運動などは侵されない。

(2)聴覚性言語中枢

 ウェルニッケの中枢ともいい、左側の大脳半球において上側頭回の後上部およびその付近を占めている(すなわち聴覚領の後上方の近くにある)。これは聞いた言葉の意味を理解する中枢である。ゆえに、もしその機能が停止すると、聴覚性失語症といって言葉は聞こえていてもその意味を理解することができなくなる。

(3)視覚性言語中枢

 上側頭回に接する頭頂葉の部分で、その位置は上記の角回にあたっている。これは文字を見てその意味を理解するところで、もしその作用がなくなると失読症といって、文字は見えていても、その意味を解することができなくなる。

(4)書中枢

 中前頭回の後部に局在するといわれている。この中枢が機能を失うと、失書症といって、書くことができなくなる。これらの四つの中枢を統合する、さらに高次の言語中枢の存在も想像できる。

最終更新日:2010年12月20日