第三章 Pars peripherica [Systema nervosum periphericum](末梢部[末梢神経系])Peripheral nervous system

A,Nervi craniales [Encephalici](脳神経)Cranial nerves
1,Nervi olfactorii (I)(嗅神経)Olfactory nerves (I)
2,Nervus opticus (II)(視神経)Optic nerve (II)
3,Nervus oculomotorius (III)(動眼神経)Oculomotor nerve (III)
4,Nervus trochlearis(IV)(滑車神経)Trochlear nerve (IV)
5,Nervus trigeminus(V)(三叉神経)Trigeminal nerve (V)
6,Nervus abducens (VI)(外転神経)Abducent nerve (VI)
7,Nervus facialis [Nervus intermediofacialis](VII)(顔面神経[中間顔面神経])Facial nerve (VII)
8,Nervus vestibulocochlearis (VIII)(内耳神経)Vestibulocochlear nerve (VIII)
9,Nervus glossopharyngeus (IX)(舌咽神経)Glossopharyngeal nerve (IX)
10,Nervus vagus (X)(迷走神経)Vagus nerve (X)
11,Nervus accessorius (XI)(副神経)Accessory nerve (XI)
12,Nervus hypoglossus (XII)(舌下神経)Hypoglossal nerve (XII)

A,Nervi craniales [Encephalici](脳神経)Cranial nerves

 脳神経は脳から出る末梢神経で12対あり、あるものは感覚性ないし知覚性、あるものは運動性、またはあるものは混合性である。そのうち嗅神経は嗅上皮細胞の突起であり、視神経は本来は大脳の一部と見なすべきものであるが、古くから便宜上脳神経のなかに加えられている。

1,Nervi olfactorii (I)(嗅神経)Olfactory nerves (I)

 嗅神経は嗅覚を司る感覚神経で、各側約20条ある。各嗅神経は大脳の嗅球の下面から起こり、篩骨の篩板を貫いて鼻腔粘膜の嗅部に分布している。知覚性線維で実際の刺激興奮の方向は逆方向である。すなわち、嗅神経を作っている神経線維は嗅部粘膜の嗅細胞の突起であることを忘れてはならない。

2,Nervus opticus (II)(視神経)Optic nerve (II)

 視神経は網膜の視覚刺激を脳に導く道である。脳底で視神経交叉をしたのち、前外側の方向に走って視神経孔から眼窩に入り、眼球の後極の近くで強膜を貫く。
視神経を構成している線維は網膜の第3神経元の求心性線維で、視神経交叉のなかで半交叉を行なう。すなわち網膜の外側半からくる線維は交叉せずに同側の視覚の中枢に行くし、内側半からくる線維は左右のものが交叉して反対側の中枢に入る。

3,Nervus oculomotorius (III)(動眼神経)Oculomotor nerve (III)

 動眼神経は大部分の眼筋と上眼瞼挙筋に分布する運動性の神経で、そのために動眼神経と名づけられる。大脳脚の内側から起こって前方に進み、上眼窩裂を通って眼窩に入り、眼球に達する。この神経の線維のうち、動眼神経核から起こるのは上眼瞼挙筋・上直筋・内側直筋・下直筋・下斜筋の運動を司る。
 動眼神経副核からの線維は細枝を毛様体神経節に与えている。そのなかを通る神経線維は眼球内部の平滑筋(毛様体筋・瞳孔括約筋)の運動を司る副交感性のものとされている。

4,Nervus trochlearis(IV)(滑車神経)Trochlear nerve (IV)

 滑車神経も動眼神経と同様に眼筋の運動に関与している。中心灰白質の背側で上髄帆で交叉して下丘の直後で上髄帆の外側縁から出る。大脳脚の外下方に回り、前走して上眼窩裂から眼窩に入り、上斜筋に分布する。
 脳神経は一般に脳の腹側から発しているのであって、滑車神経はただ一つの例外であることに注意されたい。この神経は中脳の滑車神経核を出ると中脳水道の背側で左右のものが交叉して脳外に出るので、たとえば右の滑車神経は他の運動性脳神経の左のものに相当する。

5,Nervus trigeminus(V)(三叉神経)Trigeminal nerve (V)

 三叉神経は脳神経のうちで最も大きく、知覚性の部分と運動性の部分とから成っている。知覚性の部分は顔面の皮膚と鼻腔および口腔の粘膜、および歯髄、に分布してその知覚を司り、運動性の部分は咀嚼筋その他若干の小筋の運動を支配している。知覚性の部分を知覚根というが、これは運動性の部分すなわち運動根に比べると遙かに太いから、これをまた「大部」といい、これに対して運動性の部分「小部」という。両根は相並んで橋の外側部から起こり、蝶形骨体の後外側で脳硬膜の両葉の間に三叉神経節を作って眼神経・上顎神経・下顎神経の3枝に分かれる。三叉神経という名はこれに由来する。運動根は神経節の形成に関与せず、知覚根の内側を通って下顎神経に合流する。

「1」Nervus ophthalmicus(眼神経)Ophthalmic nerve

 眼神経は三叉神経の第1枝で、同名の動脈と分布域を同じうし、眼窩内、前頭部・鼻腔などの知覚を司る。(この神経は視覚とは何も直接の関係はないのであって、その作用の上で視神経と混同せぬように注意されたい。)三叉神経節から前上方に向かって分かれた眼神経は上眼窩裂から眼窩に入り、そのなかでつぎの諸枝に分かれる:

A,Ramus tentorii [meningeus](テント枝)Tentorial [Meningeal] branch
 眼神経がまだ眼窩にはいらないうちに分かれる細枝で、後走して脳硬膜、とりわけ、小脳テント、に分布する。

B,Nervus lacrimalis(涙腺神経)Lacrimal nerve
 涙腺・外眼角付近の皮膚・粘膜に分布してその知覚を司る。(涙腺の分泌線維は吻合によって頬骨神経からこの神経の末梢部に伝えられる。)

C,Nervus frontalis(前頭神経)Frontal nerve
 眼神経の本幹で、上眼瞼挙筋の上を前方に走り、滑車上神経と眼窩上神経の内・外側枝の3枝に分かれて、動脈とともに眼窩口の上縁をまわって前頭部に現われ、前頭部およびその付近の皮膚に分布する。

D,Nervus nasociliaris(鼻毛様体神経)Nasociliary nerve
 前頭神経の下方で上直筋と視神経の間を前方へ走り、本幹は2条(前と後)の篩骨神経となって眼窩の内側壁を貫き、鼻腔の上前半の粘膜に分布する。数条の細い長毛様体神経は後方から眼球のなかに進入し、強膜・角膜・眼球血管膜「葡萄膜」などの知覚を司っている。 毛様体神経節:自律神経系に属する神経節で、眼窩の後隅に近く視神経の外側に接している。米粒よりも小さい。その後側では動眼神経・鼻毛様体神経・交感神経と細い枝で連絡し、前側からは数条の細い短毛様体神経が出て眼球に分布している。この神経より動眼神経と交感神経との運動線維が毛様体と虹彩に送られる。

「2」Nervus maxillaris(上顎神経)Maxillary nerve

 三叉神経の第2枝で、知覚根からくる知覚性の線維のみから成り、上顔部の皮膚・口蓋および上顎部の粘膜(および歯髄)・鼻粘膜の後部に行く。三叉神経節から前方に出て、蝶形骨大翼の正円孔を貫いて翼口蓋窩に入り、つぎの諸枝に分かれる。

A,Ramus meningeus (medius)((中)硬膜枝)Meningeal nerve
 すでに頭蓋腔のなかで本幹から分かれ、脳硬膜に分布する細枝である。

B,Nervus zygomaticus(頬骨神経)Zygomatic nerve
 翼口蓋窩で分かれて下眼窩裂を通って眼窩に入り、その外側壁に沿って前進し、頬骨側頭枝と頬骨顔面枝の2枝に分かれ、おのおのの頬骨を貫いて側頭部と頬骨部の皮膚に分布する。

C,Nervus infraorbitalis(眼窩下神経)Infraorbital nerve
 上顎神経の最大枝である。翼口蓋窩から前に進み、下眼窩裂を通って眼窩に入り、眼窩下溝・眼窩下管を経て眼窩下孔から顔面に現れる。上顔部の皮膚と粘膜に分布する。すなわち下眼瞼・上唇・鼻翼・上顎の歯肉などの知覚はこの神経の支配を受けている。

D,Nervi alveolares superiores(上歯槽神経)Superior alveolar nerve
 数条あり、上顎神経の本幹と眼窩下神経とから分かれて、上顎洞の外側壁と前壁の歯槽管のなかを走り、たがいに吻合して上歯神経叢を作成したのち、上顎の歯に枝を送る。

E,Rami ganglionici [ganglionares](翼口蓋神経[神経節枝])Ganglionic branches
 翼口蓋窩のなかで本幹から下方に分かれ、口蓋神経となって下行口蓋動脈とともに口蓋管のなかを下降し、口蓋に至る。そのうち大口蓋神経は大口蓋孔を出ると前進して硬口蓋の粘膜および付近の歯肉に分布し、小口蓋神経は小口蓋孔を出て後走し、軟口蓋と口蓋扁桃に分布している。なおこの神経からは翼口蓋窩のなかで数条の後鼻枝に分かれ、蝶口蓋孔を通って鼻腔の後下半の粘膜に分布している。(鼻腔の前上半は篩骨神経により支配される。)
 翼口蓋神経節:これもまた自律神経系に属する神経節で、翼口蓋窩のなかで上顎神経の内側に密着している。翼口蓋神経と連絡するほかに、後方からは翼突管神経を受けている。翼突管神経は大錐体神経(顔面神経の枝)と深錐体神経(交感神経の枝)との合っしたもので、前者はそのなかに涙腺分泌線維を含むと考えられている。

「3」Nervus mandibularis(下顎神経)Mandibular nerve

 下顎神経は下顎から側頭部にかけての知覚を司るとともに、咀嚼筋その他若干の筋の運動を支配する神経で、三叉神経のなかを走っている運動性線維はすべてこの神経のなかに入る。三叉神経節を出た知覚根の第3枝は運動根を合せて蝶形骨大翼の卵円孔を貫いて側頭下窩に現れ、すぐに以下の諸枝に分かれる。

A,Ramus meningeus [N. spinosus](硬膜枝)Meningeal branch [nervus spinosus]
 卵円孔の直下で本幹から分かれ、中硬膜動脈とともに棘孔を通って再び頭蓋膣に入り、脳硬膜に分布する細枝である。

B,咀嚼筋枝
 主として運動性の神経で、三叉神経のなかの運動性線維は大部分がこのなかにはいっている。咬筋神経は外側翼突筋の上を通って下顎切痕から咬筋の内側面に入り、深側頭神経は前後2本あって、やはり外側翼突筋の上縁から側頭筋のなかに入り、また内側翼突筋神経と外側翼突筋神経は上方からそれぞれ同名の筋に進入する。なお口蓋帆張筋と鼓膜張筋も下顎神経によって支配されている。

C,Nervus buccalis(頬神経)Buccal nerve
 外側翼突筋を貫いて前下方に走り、頬部の粘膜と皮膚に分布してその知覚を司っている。(頬筋の運動は顔面神経の支配下にあり、頬神経は頬筋を素通りしている。)

D,Nervus auriculotemporalis(耳介側頭神経)Auriculotemporal nerve
 卵円孔の下から後方に走り、外側翼突筋と下顎頚の内側を経て、顎関節の後方から上方に曲がり、耳下腺を貫いて外耳道の前を上行し、浅側頭動脈に伴って側頭部の皮膚に分布する。耳下腺もまたこの神経から分泌枝を受けている。

E,Nervus alveolaris inferior(下歯槽神経)Inferior alveolar nerve
 両翼突筋の間を通って弓状に前下方に走り、同名の血管とともに下顎管のなかを前方へ走りながら細技を下顎の歯髄・歯根膜・歯槽壁などに与えたのち、本幹はオトガイ孔から下顎骨の外に出て、オトガイ神経となってオトガイ部・下唇および歯肉に分布する。 顎舌骨筋神経:下歯槽神経が下顎孔に入るすぐ上のところで分かれる細い枝で、下顎骨の内側面にある同名の溝のなかを前進し、オトガイ下部の皮膚に分布する。その経過中に運動性の線維を顎舌骨筋と顎二腹筋の前腹に与える。

F,Nervus lingualis(舌神経)Lingual nerve
 下歯槽神経の前方をこれと並んで走り、口腔底と舌の粘膜に分布する。 この神経にはその基部の近くで鼓索神経が合流している。鼓索神経は顔面神経の枝で、木綿糸ほどの太さに過ぎないが、そのなかには舌の前2/3から来る味覚線維ならびに顎下腺と舌下腺に対する分泌線維を含んでいるので重要なものである。顎下腺と舌下腺の分泌線維はあとで述べる顎下神経節を経てこれらの腺に分布している。
 耳神経節:自律神経系に属する神経節で、卵円孔のすぐ下で下顎神経の内側についている。小錐体神経は鼓室神経(舌咽神経の枝)の末梢で、そのなかに耳下腺の分泌線維を含むと考えられている。
 顎下神経節:前述の毛様体神経節・翼口蓋神経節・耳神経節と同系の自律性神経節で、舌神経に付属し、顎下腺のすぐ上にある。舌神経のなかを通る鼓室神経の分泌線維と顔面動脈にまつわりついている交感神経線維とはこの神経節に入り、これからは顎下腺と舌下腺への分泌線維が出ている。

6,Nervus abducens (VI)(外転神経)Abducent nerve (VI)

 外転神経は動眼神経および滑車神経と姉妹関係にあり、眼球の運動に関与している。橋と延髄との境から外転神経核より起こり、脳底を前進して上眼窩裂から眼窩に入り、外側直筋に内側から分布する。外側直筋は眼球を「外転」させるから、その筋に行く神経をこのように外転神経となづけたのである。

7,Nervus facialis [Nervus intermediofacialis](VII)(顔面神経[中間顔面神経])Facial nerve (VII)

 顔面神経は主として顔面筋に分布してその運動を司る。しかし、この神経にはこのほかになお僅かながら分泌線維と味覚線維が含まれていて、これらの線維ははじめのうちは運動性の線維とは明瞭に区別される別の束を成している。それでこれを特別に中間神経と名付ける。運動性の部分「狭義の顔面神経」と中間神経とは、あい並んで橋と延髄の境において外転神経のすぐ外側から始まっている。内耳神経とともに内耳道に入り、その道底で内耳神経と分かれて顔面神経管に入り、すぐに顔面神経膝を作って後外下方に屈曲し、鼓室の後壁のなかを弓状に下方に走り、茎乳突孔から頭蓋の外に出て、その終枝に分かれる。
 顔面神経膝は大錐体神経裂孔の部位で、ここに膝神経節がある。膝神経節は顔面神経が側頭骨の顔面神経管を通るときに膝のように曲がるところにあるからその名を得たもので、中間神経の求心性線維に属するものである。すなわち、他の知覚性脳神経に所属する神経節と同様に、脊髄における脊髄神経節に相当している。
 顔面神経の枝の主要なものをあげると:

「1」Nervus petrosus major(大錐体神経)Greater petrosal nerve
 顔面神経管のなかで膝神経節から起こって前内側の方に向い、深錐体神経(交感神経)と合して翼突管神経となり、翼突管を通って翼口蓋神経節に入っている。そのなかに涙腺の分泌線維が含まれている。

「2」Nervus stapedius(アブミ骨筋神経)Nerve to the stapedius
顔面神経管のなかで分かれてアブミ骨筋に行く小さい枝である。

「3」Chorda tympani(鼓索神経)Chorda tympani
 中間神経のつづきで、顔面神経が茎乳突孔を出る手前で分かれ、上の方へ逆行して鼓室に入り、ツチ骨とキヌタ骨との間を通り、錐体鼓室裂を貫いて顎関節の内側に出て、側頭下窩において舌神経に加わる細い神経である。その中には舌の前2/3の味覚線維と顎下腺・舌下腺への分泌線維が含まれている。

「4」終枝
 顔面神経管の中で以上の諸枝を派出した本幹は茎乳突孔を出る。茎乳突孔を出るとすぐに細い枝を後頭部の皮筋、顎二腹筋の後腹および茎突舌骨筋に与え、それから耳下腺のなかで網状に神経叢を作り、これから顔面に側頭枝・頬骨枝・頬枝・下顎縁枝・頚枝の5枝を派出して、すべての顔面筋に分布している。
 不注意な学習者は顔面神経は顔面に分布してその知覚を司るものであると記億していることが多いが、これは誤りで、顔面神経の知覚枝は舌の味覚に関与しているのみである。ゆえにもし顔面神経が茎乳突孔を出たのちに損傷その他の原因で伝導障害を受けると、顔面神経麻痺が起こって、その側の表情運動は停止するが、顔面の知覚は三叉神経の支配下にあるので、侵されることはない。伝導の中継が顔面神経管内で起こると、その位置に応じて上記の表情筋の麻痺のほかに、味覚障害と唾液分泌障害、またはこれらに加うるに聴覚障書(アブミ骨筋の麻痺)や涙の分泌障害が起こってくる。これらの症状は臨床上顔面神経の侵されている部位を診断するのによい目安となる。

8,Nervus vestibulocochlearis (VIII)(内耳神経)Vestibulocochlear nerve (VIII)

 内耳神経は橋と延髄との境のところで顔面神経の外側に接して起こり、顔面神経とともに内耳道に入り、その道底で前庭神経と蝸牛神経に分かれる。

「1」Nervus vestibularis(前庭神経)Vestibular nerve
 前庭神経は内耳道底で前庭神経節を作ったのち、内耳の平衡斑と膨大部稜に分布し、平衡覚の伝導にあたる。

「2」Nervus cochlearis(蝸牛神経)Cochlear nerve
 蝸牛神経は蝸牛の骨軸のなかでラセン神経節を作って蝸牛のラセン器に分布し、聴覚を司っている。

9,Nervus glossopharyngeus (IX)(舌咽神経)Glossopharyngeal nerve (IX)

 舌咽神経はその名の示すように、主として舌と咽頭に分布して、その知覚・運動・分泌を司る。内耳神経の下方、すなわちオリーブの後方から起こり、頚静脈孔を通って頭蓋の外に出て、内頚動脈の外側を下行し、舌枝と咽頭枝に分かれる。その知覚線維束は頚静脈孔の下部で上神経節と下神経節を作っている。舌咽神経の主な枝をあげると

「1」Nervus tympanicus(鼓室神経)Tympanic nerve
 下神経節から起こり、鼓室の下壁を貫いて鼓室に入り、その内側壁を上行し、上壁を貫いて小錐体神経となって既述の耳神経節に入る。そのなかに耳下腺への分泌線維を含むと考えられている。

「2」Rami linguales(舌枝) Lingual branches
 前下方に走って、舌の後1/3すなわち舌根部の粘膜に分布し、その味覚と知覚を司る(舌の運動は舌咽神経とは関係なく、後述の舌下神経の支配下にあることに注意せよ)。

「3」Ramus musculi stylopharyngei(茎突咽頭筋枝)Ramus to stylopharyngeus muscle
 茎突咽頭筋に進入して、その運動を司る。

「4」Rami pharyngeales [pharyngei](咽頭枝)Pharyngeal branches
 数条あり、咽頭の外側を下行してその全壁に分布している。そのとき迷走神経および交感神経の咽頭枝とともに咽頭神経叢を作り、咽頭粘膜の知覚、咽頭腺の分泌、咽頭筋の運動を支配している。

10,Nervus vagus (X)(迷走神経)Vagus nerve (X)

 迷走神経は頚・胸・腹(骨盤を除く)部のすべての内臓に分布して、その知覚・運動・分泌を支配する重要な神経である。その太さは三叉神経には及ばないが、分布範囲の点では脳神経でありながら腹部までも伸びており、昔はその経過や末梢の分布が複雑で解りにくかったため「迷走」という名がつけられたのである。舌咽神経の下で延髄のオリーブの後側から起こり、舌咽神経および副神経とともに頚静脈孔を通って頭蓋外に出る。そこから内頚動脈、ついで総頚動脈の後外側に沿って側頚部を下行し、右は右鎖骨下動脈、左は大動脈弓の前を横ぎって胸腔に入り、気管支の後を経て食道の両側に達し、食道とともに横隔膜を貫いてさらに腹腔に入る。
 迷走神経の知覚線維は頚静脈孔の内と下とで、それぞれ上神経節・下神経節を作っている。経過中の枝の主要なものをあげると

「1」Ramus meningeus(硬膜枝)Meningeal branch
 上神経節から分かれる細枝で、逆行して頭蓋腔に入り、後頭蓋窩の脳硬膜に分布している。

「2」Ramus auricularis(耳介枝)Auricular branch
 上神経節から起こり、外側に向かって側頭骨を貫いて耳介と外耳道との一部に分布し、その知覚を司っている。

「3」Ramus pharyngealis [pharyngei](咽頭枝)Pharyngeal branche
 下神経節から出て咽頭の側壁から後壁に至り、舌咽神経・交感神経とともに咽頭神経叢を作っている。咽頭神経叢はすでに舌咽神経の項で述べたように、咽頭の諸筋に運動性線維を、咽頭と舌根部の粘膜に知覚性線維を送っている。咽頭筋のうち、茎突咽頭筋だけは舌咽神経から直接の運動枝を受けている。また、口蓋筋のうち、口蓋帆張筋以外のものはすべて咽頭神経叢から運動枝を受けている。(舌咽神経と迷走神経とは神経叢においてのみならず、もっと基部においても吻合を営んでいるから、末梢の枝が舌咽神経から発しているか、迷走神経から発しているかを解剖学的に識別することは不可能といえる。

「4」Nervus laryngealis superior(上喉頭神経)Superior laryngeal nerve
 下神経節から出て、下行して喉頭の上部に達し、内外の2枝に分かれる。外枝は主として運動性で、喉頭咽頭筋の外面に沿って下行し、この筋および輪状甲状筋に分布する。内枝は知覚性で、上喉頭動脈とともに舌骨と甲状軟骨の間に張っている膜を貫いて喉頭の内部に入り、舌根・喉頭蓋および喉頭の粘膜に分布している。

「5」Nervus laryngealis recurrens(反回神経)Recurrent laryngeal nerve
 右は右鎖骨下動脈の前で、左は大動脈弓の前で本幹から分かれ、それぞれこれらの動脈の下を回って再び上行し、気管と食道の間の溝を上行し、下喉頭神経n. laryngeus inferiorとなって輪状筋以外の喉頭筋を支配している。

「6」心臓枝rami cardiaci
 上下2対ある。上心臓枝は頚部において本幹から起こり、下心臓枝は反回神経から分かれ、ともに大動脈の壁上で交感神経とともに心臓神経叢を作り、心臓に分布している。そのうち迷走神経の線維は心臓の運動を抑制し、交感神経の方は反対に心臓の運動を促進する。

「7」Rami oesophageales(食道枝)Esophageal branches
 頚部では反回神経から、胸部では本幹から多数の枝が分かれて、食道壁に分布している。

「8」Rami tracheales(気管枝)Tracheal branches
 数本あって、反回神経から出ており、気管支枝は胸部の本幹から出る多数の小枝で、気管支の壁上で交感神経とともに肺神経叢を作って肺の内部に分布している。

「9」終枝
 食道とともに横隔膜を貫いて腹腔に入り、腹腔神経叢をはじめ若干の神経叢を作って、骨盤を除いた腹部のすべての内臓(胃・小腸・大腸上半・肝臓・膵臓・脾臓・腎臓・腎上体など)に分布する。ただし解剖学的方法によって迷走神経の正確な末梢部における分布域を決定することは不可能である。

11,Nervus accessorius (XI)(副神経)Accessory nerve (XI)

 副神経は多数の根によって迷走神経のすぐ下でオリーブの後側および頚髄の側索から起こり、全部が一幹となって迷走神経とともに頚静脈孔に入る。そのなかで2部に分かれ、内枝は直ちに迷走神経のなかに合してその一成分となるが、外枝は頚静脈孔を出て下外方に下り、上位の頚神経と合して胸鎖乳突筋と僧帽筋に分布する。内枝の線維も運動性で、前に述べた咽頭神経叢のうち口蓋筋・咽頭筋・喉頭筋に行く線維はおそらくこの内枝を通じて副神経から由来しているものと考えられる。

12,Nervus hypoglossus (XII)(舌下神経)Hypoglossal nerve (XII)

 舌下神経はすべての舌筋に運動線維を送る神経で、その分布領域が大体において舌下部に相当しているところからその名を得ている。延髄の錐体とオリーブとの間から発し、後頭骨の舌下神経管を貫いて頭蓋の外に出て、迷走神経・内頚動脈・外頚動脈などの外側を斜に前下方に横ぎり、2本の終枝に分かれる。

「1」Rami linguales(舌筋枝)Lingual branches
 前方に進み、すべての舌筋群およびオトガイ舌骨筋に分布する。

「2」吻合枝
 総頚動脈の外側を下行し、上位の頚神経の前枝の枝と吻合して頚神経ワナを作る。頚神経ワナからは舌骨下筋群の各筋に枝を送っている。

最終更新日:2010年12月20日