第三章 MYOLOGIA(筋学)MYOLOGY

A,総論

 筋細胞または筋線維の集合によってできた器官を筋という。運動器系に取り扱う筋は骨格を運かる骨格筋である。骨格筋は意志によって支配されるから随意筋ともいわれる。骨格筋の一種に皮筋というものがある。骨格筋は体に広く分布し、約体重の約40/100を占める。人体には約600個の筋がある。各々の筋には一定の形態と機能があり、血管と神経が分布し、器官と見なされる。

一、筋の形態と構造
二、筋の起始・付着・分布と作用
三、筋の補助装置
(一)Fascia(筋膜)Fascia
(二)Bursa synovialis(滑液包)Synovial bursa
(三)Vigina tendinis(腱鞘)Tendon sheath
(四)Os sesamoideum(種子骨)Sesamoid bone

一、筋の形態と構造

 筋線維は集まって筋束となり、筋束は集まって筋となる。筋の表面が外筋周膜という薄い結合組織の膜に包まれ、これが筋の内部に入り、次第に筋の束と筋線維を包むようになって内筋周膜となる。
 筋の中央部を筋腹といい、両端は結合組織線維の腱もしくは腱膜となる。これによって筋を骨格に結び付けている。
 筋はそれぞれ固有の形をもっているが、これを総合して考えると紡錘状・羽状・板状・帯状・輪状などに分類することができる。板状筋の中にまた三角形・四角形・菱形・長方形など種々のものがある。筋の中央部を筋腹、両端のうち一方を筋頭、他方を筋尾という。筋頭は筋の運動に際して比較的固定されている端で、筋尾は反対によく動く方の端である。筋頭は2分、3分、または4分して各々異なる部に着くものをそれぞれ二頭筋。三頭筋・四頭筋などと呼ばれる。筋にはまたその筋腹が腱によって中断されることがあり、このようなものを二腹筋という。筋腹を中断する腱部がくびれずに筋腹と同じ幅をもって線状にこれを横断する場合には、このような中間腱を腱画といい、その典型的の例は腹直筋に見られる。

二、筋の起始・付着・分布と作用

 およそ筋は同一の骨の2点に張っていることはなく、かならず一つの骨から起こって他の骨に着いている。この場合は一つの骨からすぐ隣の骨に着くこともあるが、また一つあるいは数個の骨を飛び越えて遠くの骨に着くこともある。
 筋の両端の内で収縮のときに固定されているかまたは動きの少ない方を起始といい、他方を付着(または停止)という。ただし運動はすべて相対的のものであるから、起始・付着の関係は必ずしも明確ではない。たとえば体肢の筋ではこの関係が極めて明らかで、体幹に近い方の端すなわち近位端は起始、反対に遠位端は付着ときまっているが、体幹筋では両者の区別ははっきりしない。ある場合に起始と付着が交換されることもある。たとえば大胸筋の場合、手で鉄棒を握って体を吊り上げる時に起始点は付着となって、付着点は起始となる。
 骨格筋の分布は関節の軸と関係がある。たとえば一軸性の関節では運動軸の両側に分布して、作用も反するために対抗筋といわれる。関節の同側に付着するいくつかの筋は協力して同一方向に運動を行なうために協力筋という。二軸性の関節では屈・伸・内転・外転四組の筋がある。三軸性の関節ではこの外にまた回内と回外の筋が加わる。
 筋はその収縮によって骨と骨とを互いに接近させるもので、すなわち筋は自動的運動、骨格は受動的運動の器官である。両骨の間の角度を小さくにする運動を屈曲といい、この作用を行なう筋を屈筋という。両骨の間の角度を大きくする運動を伸展といい。この働きをする筋を伸筋という。内転は体肢を体幹に近づかせることで、この作用を営む筋を内転筋という。外転は前者と反対に、体肢を体幹から遠ざける作用で、この作用を営む筋を外転筋という。体肢または体幹の長軸を軸として回転させることを回旋という。この作用を営む筋を回旋筋という。上肢ではその回旋運動のうちで前方に向けた掌を体幹の方に向け、さらに後方に転じさせるものを回内といい、その反対を回外という。これらの作用を営む筋をそれぞれ回内筋・回外筋という。輪状筋の場合は収縮することを括約といい、弛緩することを散大という。

三、筋の補助装置

 筋はその機能を円滑にするために、次のような補助装置をもっている。

(一)Fascia(筋膜)Fascia

 筋膜は浅および深筋膜に分けられる。

1,Superficialis(浅筋膜)Superficial fascia
 または皮下筋膜という。真皮のすぐ下にあって、体の全周を被っている。疎性結合組織からできている。浅筋膜内に浅動脈・浅静脈・皮神経・リンパ節および脂肪などを含んでいる。体を保護する作用をしている。

2,Profunda(深筋膜)Deep fascia
 筋あるいは筋群の表面を包む結合組織性の膜であって、発達の程度はまったくまちまちである。厚い場合、また筋群を包む筋膜は一般に外周筋膜との間にわずか
 の疎性結合組織があって移動性であるが、強く癒着している場合もあり、また薄いときは外周筋膜と区別できない。またときには腱膜様を呈する。なお体肢では筋群を境する筋膜が厚くなって皮下筋膜と骨との間に張ることがある。これを筋間中隔という。筋膜は筋をその位置に支持し、収縮を制限する。したがって構成線維の方向は筋線維に対し直角のものが多い。また筋の起始あるいは停止となることがある。この場合はしばしば腱膜様である。

(二)Bursa synovialis(滑液包)Synovial bursa

 筋や腱が骨、軟骨または靱帯に接して存在する時、その間にあって摩擦を軽減する小嚢であって、薄い結合組織性の膜に包まれ、中には関節と同じく無色透明で、ぬるぬるした糸を引くような滑液を入れている。起始・停止の付近とくに関節の近くに多い。付近の関節腔と交通することも多い。滑液を分泌する滑膜内面の表層細胞は不規則な立方ないし円柱状である。

(三)Vigina tendinis(腱鞘)Tendon sheath

 体肢などの長い腱に見られる。内層は腱の滑液鞘と呼ばれ、もともと滑液包が長く腱をとりまいたものであって、筋支帯などの下を腱が大きく移動する部分に発達したものである。腱をとりまいた滑液包がたがいに接する部分から腱を養う血管と神経が入る。これを腱間膜という。腱間膜が一部または全部失われている場合も多い。指の屈筋腱に見られる腱のヒモは腱間膜の残った部分がヒモ状になったものである。腱の滑液鞘のさらに外面は多少とも強い腱の線維鞘によって包まれる。線維鞘は指の腱鞘では著しく強靱な部分があって、これを鞘状靱帯という。滑液鞘は腱を包む部分を内葉といい、線維鞘の内面に裏付ける部分は外葉といわれる。内葉と外葉の間に少量の滑液があって、腱の運動を円滑にさせている。

(四)Os sesamoideum(種子骨)Sesamoid bone

 この種類の骨は腱または靱帯のなかにある。運動する腱と骨の間におこる摩擦の強いところで、その摩擦を少なくする働きをもっている。

最終更新日:2010年12月20日