これは皮筋(顔面表情筋)と咀嚼筋の2群を含んでいる。皮筋の中には頭蓋頂、後部、鼻部、眼部、耳部等の主として表情を作る筋が含まれる。
顔面(表情)筋は扁平な薄い皮筋で、頭蓋骨の異なる部位から起こり、顔面の皮膚に着く。主に顔面の開口部の周りに、たとえば眼臉裂・口裂・鼻孔の周りに輪状あるいは放射状に分布する。これらの開口部を開閉する作用があり、喜怒哀楽などを表す豊かな表情は人だけにとくに発達しているものである。
人類の顔面筋は他の動物より発達しており、これは人類の大脳が発達し、思想と言葉の活動と関係があるからである。
(一)M. epicranius(頭蓋表筋)Epicranical muscle
頭蓋冠を包む薄板状の筋群である。まず後頭筋として外後頭隆起の両側において後頭骨から起こり、頭蓋の後頭部を包んで上行したのち、帽状腱膜という幅広い薄い腱となって頭頂部を被い、その先は再び筋性となって前頭筋をなし、眉の皮膚に着いている。
眉を吊り上げ、額に横のシワを作る。
(二)M. orbicularis oculi(眼輪筋)Orbicularis oculi muscle
眼臉裂の周囲を輪状に取り巻く重要な筋で、主として眼窩内側部の骨から起こる。一部は眼臉のなかにあり、他はさらに周囲の皮膚のなかに広がっている。主として眼臉裂を閉じる作用を持つ。少量の筋の束は涙嚢の後ろに付着し、収縮すると涙嚢が拡張され、涙嚢を陰圧にして涙を吸いこむ。
輪状と放射状2種類の筋がある。放射状の筋は口の上と下にあり、上唇を引き上げ、下唇を引き下げ、口角を上・下・外方に引くなどの作用がある。
頬の深部に一対の頬筋がある。この筋は口角を外後方に引き、また口角が固定されていると頬を内方に向かって歯列に押しつける。後者は咀嚼のときや、物を吹くときや物を吸い込むときなどに重要である。
二、Musculi masticatorii(咀嚼筋)Masticatory muscles
下顎骨に付着し、その運動を行なう。顔面筋と比べるといずれも強大な筋で、4対ある。
(一)M. masseter(咬筋)Masseter muscle
頬骨弓の下縁と内面から起こり、後下方へ向い下顎枝と下顎角の外側面に着く。
(二)M. temporalis(側頭筋)Temporal muscle
側頭窩から起こり、前下方に集まり、頬骨弓の内側を通って下顎骨の筋突起に着く扇形の筋である。
(三)M. pterygoideus medialis(内側翼突筋)Medial pterygoid muscle
翼突起窩から起こり、下顎枝と下顎角の内側面に着く。
(四)M. pterygoideus lateralis(外側翼突筋)Lateral pterygoid muscle
側頭下窩にあり、翼状突起の外側面と蝶形骨大翼の下面などから起こり、水平に後方に走って下顎頸に着く。
咀嚼筋の作用 咬筋・側頭筋・内側翼突筋はいずれも下顎を引き上げる。外側翼突筋は両側が同時に働くときは下顎を前方に突き出し、側頭筋の後部はその線維はほぼ水平に走っているから外側翼突筋と対抗して下顎を後方に引き戻す。
外側翼突筋および内側翼突筋が一側のみ働くときは下顎は他側の関節頭を中心として前方に回転する。これを両側交互に行えば、いわゆる臼磨(うすすり)運動がおこる。下顎を下に引く運動には咀嚼筋はほとんど関係せず、舌骨上・下筋群がこれに関与する。