G、Hepar(肝臓)Liver

 肝臓は、人体中最大の腺で、消化に重要な意義をもつ胆汁を作り、これを総胆管を介して十二指腸に送る。また血液中の糖分をグリコ-ゲンに変えて貯え、これを随時血液中に供給する。肝臓の重さは男性1,154~1,446g,女性1,028~1,378gで、体重の約1/40~1/15にあたる。胎児および新生児では、腹腔の半分以上を占め、体重の1/20に達する。肝臓は横隔膜の直下にあって腹腔の上右側部を占める。肝臓の機能は上記のほか、血中の有毒物質をとって無害となし、あるいは骨髄で赤血球の生産に必要な物質や血液凝固を防ぐヘパリンなどを血液に送る。その他、ビタミンの貯蔵や免疫物質の生産にもあずかるといわれている。

一、肝臓の形態
二、肝臓の位置
三、肝臓の区域
四、肝臓の血管
五、胆嚢と胆路
(一)Vesica biliaris [Fellea](胆嚢)Galbladder
(二)胆路

一、肝臓の形態

 肝臓は肉眼的に斑点のある暗褐色を呈し、楔形をしてる。肝臓に、横隔面および臓側面がある。横隔面は横隔膜に接する面で凸面をなす。肝臓の下面は臓側面ともいい、全体的には凹面をなす。臓側面の中央部は深く左右に陷凹し肝門をなし、門脈の枝、固有肝動脈の枝、肝管、神経およびリンパ管が出入する。肝門の左右両端には、各矢状位の溝すなわち右矢状窩と左矢状窩とがあって、肝門とともにH形を呈する。右矢状窩の前方にあるものを胆嚢窩、後ろにあるものを大静脈溝といい、それぞれ胆嚢および下大静脈を容れる。大静脈溝の上端には、数本の短い肝静脈が下大静脈に開いているので、この溝を第二肝門ともいう。左矢状窩の前方には臍静脈溝があり、後方には静脈管窩がある。臍静脈溝は胎生期に臍静脈の通っていた所で、出生後は閉鎖萎縮して結合組織性の肝円索となる。静脈管窩は胎生児に臍静脈と下大静脈とを連結する静脈管の通る所で、同じく閉鎖して静脈管索となる。肝臓に右葉、左葉、方形葉、尾状葉を区別する。
 肝臓の横隔面と臓側面は下縁で合して鋭縁をなす。下縁の経過中に2切痕を認める。そのうち、肝臓円索切痕は体のほぼ正中線に一致して左、右両葉の境をなす所にあり、胆嚢窩は肝円索切痕より約2-3横指右方に位置し、鈍切痕をなして右矢状窩の前端にあって、胆嚢底はこれよりわずか前方に突出する。
 肝臓の表面はその横隔面後部で横隔膜に直接に接する部と、臓側面の胆嚢に直接に接する部および肝門を除いて、すべて腹膜に覆われる。

二、肝臓の位置

 肝臓は上腹部および左、右下肋部を占め横隔膜円蓋に接し、その中部は横隔膜の腱中心に、後面は横隔膜腰椎部に接する。その他、付近の臓器と接触して圧痕を生じる。肝臓の高さは体位や呼吸運動によって変化し、静呼吸時でも約2-3cmの移動を示す。肝臓の上界は左、右鎖骨中線では第5肋骨と一致し、前正中線では胸骨と剣状突起の結合部と一致する。肝臓の下界は右肋骨弓に沿って前側に来たり、左右の肋骨弓間を右下方から斜めに左上方に延びて左側の第7肋軟骨に達する一線をなし、体正中部では剣状突起の下方約3横指の位置にある。

三、肝臓の区域

 肝臓の解剖学的の4葉区分(左、右、方形、尾状葉)はあくまでも外表面からの形態学的区分であり、肝内部における血管や胆管の分布流域区には相当しない。
 最近では、肝臓外科の発達により、肺における肺区域に相当する機能的単位による区分が臨床的に重要視されている。この臨床的区域の決定に主役を演ずるのは門脈の走行で、X線解剖学的に追求される。これによると、肝臓は左、右葉に分けられるが、その境界は肝下面での胆嚢窩と下大静脈溝を結ぶ矢状線であり、さらに左葉は内側、外側区に、右葉は前区、後区に分けられる。なお解剖学的区分による方形葉と尾状葉は機能的単位では左葉に属する。ちなみにこれら各区内の動脈系と胆管系は門脈に伴走するが、静脈系のみは各区間を走る肝静脈系に集まって下大静脈に流れる。

四、肝臓の血管

 肝門からは2種の血管が肝内に入る。細い固有肝動脈と太い門脈とである、両血管は小葉間血管となった後に、小葉内で肝細胞索周辺にひろがる毛細血管網を作った後に、すぐ近くの中心静脈に注ぐ、中心静脈は次第に集まり、最終的には肝臓後面からでる2-3本の太い、短い肝静脈となり下大静脈に開いている。
 以上、肝への出入血管は3種、固有肝動脈、門脈および肝静脈である。固有肝動脈は肝細胞の栄養血管であり、門脈は腹腔内諸器官からの血液を肝内に導入し、血液の浄化やクリコ-ゲンの生成または処理などをうけるための機能血管である。両者は肝内で毛細血管網を作って互いに交通した後に2-3本の肝静脈を通って下大静脈に流入する仕組みである。
 胆管、門脈および肝動脈は肝実質を構成する三要素であり、肝内ではこれら三者の分枝を互いに伴走する位置関係を保持するものである。これらを包括して、その繊維鞘とともに血管周囲繊維鞘(グリソン鞘)と呼ぶ、肝臓の区分はこの三者の肝内における分布による決定されるものである。

五、胆嚢と胆路

(一)Vesica biliaris [Fellea](胆嚢)Galbladder

 胆嚢は胆汁を貯える茄子形の嚢で、肝臓臓側面の胆嚢窩に位置し、その上面は結合組織によって肝臓臓側面と結合し、下面は腹膜によって覆われる。胆嚢に底、体および頸の三部と、これから出る導管である胆嚢管とを区別する。胆嚢底は肝の前縁を少し越えている。その場所は右の腹直筋の外側縁が肋骨弓と交わるところに当たる。胆嚢体は中央の大部分を占め、頸は後上端にて肝門の方に向かって細くなり胆嚢管につづく。胆嚢管の始部はS字形に弯曲して走り肝門の下方で肝管と合して総胆管となる。胆嚢管の内面にらせん状ひだがあり、これをらせんひだという。

(二)胆路

 胆路は肝臓内の小葉間胆間に始まり、この管が合して肝管を作る。左、右肝管の結合によって成立する総胆管は胆嚢につづく胆嚢管と合して大きな総胆管となり、小網の肝十二指腸間膜の中で門脈の前、固有肝動脈の右側を通って十二指腸下行部の後内側縁を下る。このようにして、十二指腸下行部の後内側壁を貫き、十二指腸縦ひだの上で、膵管と合し、大十二指腸乳頭に開口する。その開口直前に、膨大して胆膵管膨大(Vater憩室)となり、その壁にオッデイ括約筋(胆膵管括約筋)がある。なお、直接開口部にも輪走括約筋をみることがある。

最終更新日:2010年12月20日