条件づけ [英]conditioning [独]Dressieren [仏]conditionnement 川村光毅のホームページへ
“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用
生理学的な反射概念にとどまらず、広く有機体の全身的反応をふくむ行動単位としての条件反射を形成する過程をさしている。ヒルガードE.R. HilgardとマーキスD.G. Marquisは古典的条件づけと道具的条件づけに分け、スキナー B.F. Skinnerは、前者をレスポンデント条件づけ(respondent conditioning),後者をオペラント条件づけ(operant conditioning)と名づけた。古典的条件づけの原型はパブロフI.P. Pavlovの条件反射であり、このばあい条件反射によって環境状況に働きかけることはなく、受動的に反応している。これに対して道具的条件づけは、条件刺激に対し新たな反応を習得し反応の遂行によって報酬を得たり、先行するサイン刺激に反応することによって有害刺激を回避したりする。これらの報酬訓練や回避訓練によって環境に積極的に働きかけ、満足が得られるという強化機能が働く。道具的条件づけは古典的条件づけよりも巨視的な有機体全体の反応であり、ワトソンJ.B.Watson以来行動科学の中心課題とされた。古典的条件づけが主として大脳生理学者の関心事であったのに比べ、道具的条件づけは心理学者の関心事であった。ことに後者はパーソナリティ研究において、情動の定着の説明に関係をもち、ある種の神経病理学的症状の形成や消失の説明にも用いられる。ワトソンとレイナーR.Reynerは、ネズミ恐怖症の児童の治療に条件づけ訓練を用いて成功した。また、実験神経症や薬物依存の動物実験に、道具的条件づけがしばしば用いられ、これらの症状形成のメカニズムを条件づけの理論から説明しようとするものは少なくない。しかし動物実験での条件づけは主として生理的な動機づけによるものであり、人間のもつパーソナリティと社会的要請との間の葛藤は、条件づけのみでは明らかにならない。その他、アルコール依存者に対する条件づけ療法、精神薄弱児の教育における条件づけの利用など、実際面での応用はひろい。
(加藤正明)