条件反射(パブロフ)[英]conditioned reflex [独]bedingter Reflex [仏]reflexe conditionne 川村光毅のホームページへ
“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用
ソ連のギリヤロフスキー V.A. Giljarovskiは、条件反射を「環境刺激と機関の特定機能との一時的な神経の興奮結合によって惹起された学習過程」と定義づける。条件反射は生来性の無条件反射を基礎に成立するが、無条件反射と異なり、個人の生活過程のうちにつくられ、より一定せず、その発現性も変化しやすい。この条件反射の総計が「高次神経活動」を形成する。パブロフI.P. Pavlovはもと消化生理学者であったが、犬の唾液の研究をおこなっていたとき、飼育者の足音のみによって犬が唾液分泌を示したことから、メトロノームをきかせると同時に食物を与える強化工作を続けることによって、条件反射が生じることを発見した。この際、食物のように唾液反射を起こさせる刺激を無条件刺激、メトロノームのように唾液条件反射を起こさせる刺激を条件刺激と名付けた。パブロフは条件反射によって大脳生理学を明らかにし、とくに興奮過程(陽性過程)と制止過程(陰性過程)を、メトロノームによる唾液分泌(陽性唾液反射)と光刺激による唾液抑制(陰性唾液反射)の実験から明らかにした。この大脳興奮過程と制止過程は、大脳の一部で生じたものが全脳にひろがる傾向があり、これを拡延(irradiation)という。この興奮・制止過程は拡延したあと次第に消失して、原点にのみしばらく残遺するが、これを集中(concentration)という。大脳のある部位に興奮過程が起こると、その周辺に制止過程が生じて、この二つが運動するが、これを誘導(induction)といい、局所的、時間的な誘導現象が起こる。また、条件反射による陽性過程は汎化(generalization)を生じ、原刺激より少ない刺激量で興奮が起こる。この汎化が生じたあとで、刺激量により異なる結果が生ずる並列強化工作を行なうと分化(differentiation)が起こり、ある量の刺激では興奮過程が、他の量では制止過程が生ずるようになる。さらに、種々の条件刺激を一定の順序で与えると、それによって大脳活動が起こり、順序を乱すと活動が停止するが、これを系化(systematization)という。パブロフは1902年にイヌで条件反射の研究をはじめ、1918年から精神病患者についての研究をすすめた。1907年クラスノゴルスキー N.I Krasnogorskiは人間についてはじめて条件反射研究をおこない、グレケルR.A. Grekerは1911年に精神病患者についての条件反射を研究した。以後ソ連の精神医学における条件反射学説の比重はたかまり、とくにイワノフースモレンスキー Ivanov-Smolenskiをはじめ、プロトポポフV.P. Protopopov,スハレバG.F. Sukhareva, ギリヤロフスキーなどによる精神医学への条件反射学説の導入が試みられた。それは神経系の型、第一次、第二次信号型学説、超限抑制、保護抑制説などによって代表され、1950年の科学アカデミー会議以後、条件反射学説への過大評価があったが、1962年の同会議以後はクレペリンの疾病学の正しい継承を主体とし、高次神経活動学説の位置づけを適切に再評価するようになった。
(加藤正明)