脳内アミン [英]amine in brain [独]Amin im Hirn [仏]amine dans I'encephale 川村光毅のホームページへ
“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用
脳組織にみいだせる生物学的活性芳香族アミンを脳内アミンと総称しているが、この中にはカテコールアミン、セロトニンおよびその他のアミンが含まれる。カテコールアミンは脳内でも生合成されるが、その経路はチロジン→3.4-ジオキシフェニールアラニン(DOPA)→ドーパミン→ノルアドレナリンであることが明らかにされている。末梢に投与したノルアドレナリン、ドーパミンは血液脳関門を通過しないので脳組織内には達しない。このうちノルアドレナリンは視床下部およびいわゆる網様体(reticular
formation)に高濃度に分布し、一方ドーパミンは視床下部、尾状核およびレンズ核をはじめとする錐体外路系の諸核に選択的に局在する。これは両アミンがこの局在部分でなんらかの機能的役割を果たすことが推測される。事実錐体外路疾患であるパーキンソンニムズの場合錐体外路諸核のドーパミン量は減少し、前駆物質であるL-ドーパを投入すると、振戦、筋強剛、寡動などの神経症状が改善されることもドーパミンの生理的役割を示すものであろう。また躁うつ病のカテコールアミン仮説として中枢神経系の興奮に脳内ノルアドレナリンの増加、抑制に減少が深い関係を持ち、躁病患者で脳内ノルアドナリンの絶対的または比較的過剰、うつ病患者は減少を持つかも知れぬという意見、あるいは抗うつ剤が脳内ノルアドレナリンの増量をもたらすこともカテコールアミンの果す役割を示唆している。脳細胞中のカテコールアミンの約半分は顆粒分画に不活性の形で貯蔵され、約半分がcytoplasma中に活性の形で存在するとされ、前者はreleaseされて後者になる。レセルピンは遊離作用を持ちノルアドレナリ脳内濃度を低下させる。細胞質内のカテコールアミンはモノアミン酸化酸素やO-メチルトランスフェラーゼの働きで代謝され、ドーパミン→ホモワニリン酸
ノルアドレナリン
→ノルメタネフリン→ワニルマンデル酸
→3メトキシ−4−ヒドロキシフェニールグルコール
へと代謝産物を生じる。次にセロトニン(5-ハイドロキシトリプタミン)(5-HT)も脳内活性アミンの一つである。脳内でも5-ハイドロキシトリプトファン→セロトニンへと生合成され、セロトニン→5-ハイドロキシインドールアセトアルデヒド→5−ハイドロキシ醋酸へと代謝される。セロトニンも脳細胞内では顆粒内に貯蔵される。脳内局在は哺乳動物では扁桃核、梨状核、海馬角、中隔野を経て視床下部にいたるポリシナップス性下降線に沿った灰白質に多く含まれ、したがって情動に関係した自律神経系の機能に関係していると論ぜられている。カテコールアミン仮説をそのままセロトニンにかえたのがうつ病のセロトニン仮説で、うつ病疾患者尿中のトリプタミン減少、血中セロトニンの減少、髄液中5-ハイドロキシインドール醋酸の減少、うつ病自殺者の脳内セロトニン、5−ハイドロキシインドール醋酸の低下、うつ病患者に5-ハイドロキシトリプトファン(5-HTP)投与による症状改善などがこの仮説の裏付けとなっている。その他の脳内アミンとしては、β−フェニルエチルアミン、チラミン、トリプタミン、メラトニン、ヒスタミンその他の存在が報告されている。
(伊藤 斉)