脳波[EEG] [英]electroencephalogram [独]Elektroenzephalogramm [仏]elecctroencephalogramme 川村光毅のホームページへ
“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用
脳が示す電気活動(電位差)を、増幅器を用いて増幅してオッシログラフや用紙上に記録したものである。一般には頭皮上においた電極より導出した電気活動の記録を「脳波」とよび、大脳皮質に直接に接触している電極から導出したもの皮質脳波、脳の深部から導出したもの深部脳波と分けている。脳波は、変動する電位を縦軸に、時間的推移を横軸に画かせ、ある場所の電位を基準の場所の電位と比べた電位差の刻々の変動を表現する。電位差が陰性のとき波が上方にふれ、陽性のとき下方にふれるようにしてある。画かれた個個の波は高さ(振幅)と幅(持続時間あるいは周期)とをもち、多数の波の連なり方から種々の律動(リズム)が形成される。脳波は、直接的には、電極の下にある大脳皮質の多数の神経細胞やシナプシスの電気活動(とくに錐体細胞の尖頭樹状突起のシナプス後電圧)の集積・総和を示すと考えられている。しかし、間接的には、より下にある視床と中脳網様体を主とする皮質下構造の活動によって大きな影響を受けている。動物の脳の電気活動を初めて記載したのはケイトン R. Caton (1875)であるといわれているが、初めて人間の脳波を観察したのはベルガー H. Berger (1924)である。脳波の振幅は、心電図のほぼ1/1000と小さく一般に数μvから100μvくらいであるが、小児、睡眠、病的状態などでは数百μvに達することもある。周波数は、ふつう0.5 c/sから30〜40c/sくらいまでで、正常成人の安静閉眠時にみられる10c/sを中心とした8〜13c/sをα波と名づけ、より速い波を速波(β波)、より遅い波を徐波(θ波とδ波)と帯域分けしている。ふつうの脳波は正弦波様の波形をとるが、波は横と縦の組み合わせで種々の波形を示し、てんかんなどでみられる棘波、鋭波、棘徐波複合などの特殊な波形もある。また、波のふれ方から陰性波、陽性波、単相、二相、三相性の波などに区別される。脳波は時々刻々に変動する脳機能を直接的かつ動的にとらえるほとんど唯一の検査法といえ、脳波検査の「対象」とされる病状には、意識障害、知能障害一般や、失神、けいれん、行動異常、、中枢性運動感覚障害、言語障害その他があり、対象とされる病名には、てんかん、脳腫瘍、頭部外傷、脳血管障害、脳炎、脳性麻痺、偏頭痛、発作性自律神経失調、神経症状をもつ内分泌性または代謝性障害、非定型精神障害などがある。神経症その他には脳障害の否定のために用いられることがある。多くの疾患では徐波など疾患に特異的でない一般的脳波異常の見られることが多いが、てんかんや肝脳疾患などで得られる脳波はほぼ疾患特異的で疾患診断にも役立つ。臨床脳波診断では、個々の波の周期、振幅、形や、波の連なり方からみた出現量、連続性、時間的推移、さらには部位差や位相関係などが多面的に観察され、脳障害の性質と程度と広がりや経過の憎悪、改善などが総合的に解釈される。
(宮坂松衛・山本紘世)