ハンチントン舞踏病 [英]Huntington's chorea [独]Huntingtonsche Chorea [仏]choree de Huntington 川村光毅のホームページへ
“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用
いわゆる舞踏病様の不随意運動と精神変調を特徴とする慢性進行性の脳変性疾患であり、優性遺伝を呈する。1972年にアメリカに住む同病疾患962名の家計をさかのぼると、かつて17世紀にアメリカに移住した6人に達するという。1872年ハンチントン G. Huntingtonが奇妙な一症例として報告し、わが国では1927年吉益の報告後各地での家計の報告例があるが比較的珍しい疾患である。中年に発病することが多く、優性遺伝の形式に従って出現し、家系は多産または挙子なく自殺、精神異常者を見るが、わが国のそれは代を経るに従い遺伝の力は弱まってくるようである。その特徴は身体各部の舞踏病様の不随意運動であり、顔面、舌、口唇、手足に不随意不規則の舞踏運動が現われる。その結果顔をしかめ、口を吸いまげとがらし、物をなげるなぜるこねまわすような雑多なグロテスクな運動が認められ、甚だしい時は歩行も困難になる。筋緊張は一般には低下する。精神変調は性格変化が主であり、怠惰、なげやり、無責任となりまたは無関心、無頓着で痴呆も加わる。気分は気むずかしく不機嫌で反抗的であり、時に暴行に及び精神病院入院の対象になることがある。自己の不随意運動については無関心のもの、あるいはかくそうとし恥じて人前に出ないものもある。初め精神変調を呈し次いで不随意運動が起こることもある。多くは10年から数十年の経過後身体精神症状が憎悪し、無為茫然としてねたきりとなり衰弱して死亡する。病理所見は初め大脳皮質にその変化を求めようとしたが、その後多くの学者により線条体あるいは視床下領域の神経細胞の退行変性とこれに伴うグリヤの増殖が見出された。大脳萎縮、皮質神経細胞の障害、脳室の拡大、尾状核、被殻、淡蒼球、視床の縮小、該部の小神経細胞の変性脱落、線維性グリヤの増殖が認められる。一般に本病の不随意運動は線条体の障害により、精神症状は大脳皮質の変化によると考えられている。適切な治療はなく、優生手術の適応。
(露木新作)