網様賦活系 [英]reticular activating system [独]retikulares Aktivierungssystem [仏]systeme d'activation reticulee 川村光毅のホームページへ
“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用
網様体(formatio reticularis)は、各方向に走る多数の線維のなかに各種の神経細胞が散在する神経組織で、白質と灰白質の中間の性質を示す。脳幹網様体(brain stem reticular formation)は脳幹の全域にわたって主として中心管canalis centralis腹側に瀰漫性に存在する網様体で、中脳網様体、橋網様体、延髄網様体などにわけられ、視床の非特殊核もその吻側端を形成するとみなされる。脳幹網様体の機能は複雑であり、上行性に各種の促通・抑制作用を及ぼすが、そのうちでも中脳網様体は、モルッツィ G. Moruzzi, マグーン H. Magoun (1949)らの研究により上行性の強い賦活作用をもつことが明らかにされ、網様賦活系(reticular activating system)あるいは上行性網様賦活系(ascending reticular activating system, ARAS)とよばれる。すなわち、上行性の体性および内臓性感覚系は、脳幹部を上行するさいに脳幹網様体に多くの側枝を出し、そのインパルスは網様体内で多くのシナプス接続をへて上行して視床の汎性投射系(髄板内核、中心核など)に至り、ここから大脳皮質の広汎な領域に投射するほか、網様体から視床を介さず直接に大脳皮質に上行する系路もある。このような上行賦活系は、大脳とくに新皮質系の全般的活動水準を維持し、覚醒水準ないし意識の維持に重要な役割を果す。すなわち、ネコなどで中脳網様体を破壊すると昏睡状態におちいり、中脳網様体に高頻度電気刺激を与えると動物は覚醒し脳波は全般性の覚醒波形を示し、また臨床的にもこの部位の機能低下で意識障害が起こる。網様賦活系(中脳網様体)にたいしては、大脳皮質から促通的あるいは抑制的影響を及ぼす下行路もあり、また延髄網様体から中脳網様体にたいする抑制的影響もある。このように脳幹網様体とくに中脳網様体は、各種の上行性感覚性インパルスあるいは意志的努力(大脳皮質からの下降性インパルス)により、覚醒水準を保つ働きをしていると考えられる。なお網様賦活系のうちにも機能分化があり、ジャスパー H. Jasperらによると、中脳網様体は脳全体の活動水準を維持し、視床汎性投射系はこれよりも分化した注意その他の機能を果たすと考えられている。また脳幹網様系は辺縁系にたいしても辺縁・中脳路を介して影響を与えている。
(大熊輝雄)