森田学説 [英]Morita theory [独]Morita Theorie [仏]theorie de Morita 川村光毅のホームページへ

“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用

 森田正馬が1920年頃に唱えた神経症学説。わが国独自の神経学説とされているが、森田は生来研究心が旺盛で、内外の文献を網羅していた頃から、クレベリン E. Kraepelinの素質論、ヂュボア P.-C. Duboisの基本的精神説などの影響は無視できない。森田は今日われわれが神経症とみなすものを神経質とヒステリーに大別し、この両者は本質的にも治療面からも対照的であると考えた。神経質素質は自己内省的・理知的・ヒポコンドリー的であるのに対し、ヒステリー素質は、感情過敏的・外向的・自己中心的であり、神経質素質の上に、ある機会から病的状態が生ずると神経質になり、ヒステリー素質の上に、ある機会から病的状態が起こるとヒステリーになると考えた。このように、森田の神経症観の特色の一つは、神経症の根本原因が先天的素質(変質)にあるとしたことである。しかし彼のいう素質は、先天的ではあるが固定的ではなく、環境によって著しく変わりうるものだとしている。森田のいう素質はヒポコンドリー性基調(神経質な性格傾向といってもよい)であり、機会は誘因であり、病因は精神交互作用である。すなわち、ヒポコンドリー性基調をもつ者が、なんらかの誘因によって、注意を自己の身体的あるいは精神的変化に向けるようになり、注意が集中することによって、その感覚がますます鋭敏になり、それとともに注意がますますその方に固着する。このように、感覚と注意が交互に作用し合い(精神交互作用)、症状を発展固定させて、森田神経質という病的状態が発呈する。この場合に、発病に最も重要な因子はヒポコンドリー性基調であり、症状発展に重要な役割を果たすものは精神交互作用である。この際、誘因は単なるきっかけに過ぎない。たとえば、鉄を落として鉄恐怖になった者は、その素質が問われるべきであり、鉄それ自体、あるいは鉄をおとすことには大した意義はなく、それは単なるきっかけだったとする。森田にとっては、フロイトS. Freudのいうように、鉄恐怖の症状の意味を求めて無意識を分析する必要はまったくなかったし、それは彼の治療技法上、なんらの役にも立たなかった。

(大原健士郎)